無題:空間
瞼の裏から光を感じ、目を開けた。
その私の目には──
荒廃した世界が広がっていた。
「おおー…」
なんだっけ、荒廃した世界…
ぽすとあぽかりぷすみたいな…
多分そんな感じの…
遠くには、都市だったもの、のようなものが見える。
ふむ。
身体能力がさっきまでよりも上がった。
というか、戻った。
現実のものと同じになった。
さっきまでよりも遠くが見える。
遠くの音も聞こえる。
いける。
確信と共に、少し足に力を入れて、この世界で目を覚ました場所である、切り立った崖から都市が見える方へと、びゅんと跳ぶ。反作用で地面が揺れた。
ここに他の人間がいれば、瞬間移動したのかと勘違いされる程の速度で。
私は、地球という星に誕生した時から、他の同種達とは明らかに違う存在だった。
見た目こそ人間と同じなのだが、その他殆どが、平均的な人間とは明らかに違っていた。
同種と呼ぶには違いが大きすぎるほどに。
本気を出せば、惑星の隅々までを詳細に視認でき、音を聞くこともできた。
又、呼吸をせず、食事も睡眠も排泄もしない。
彼女は生物ではなかったのだ。
生まれた場所、この世界に出現した場所は、海の底であったし、端から体は成熟し、大人のものと同じとなっていた。
総評としては、よくわからん。
彼女自身、そう考えていた。
よくわかんないけど、私は周りの、自分とよく似た生き物たちとは違う存在であるらしいことだけはわかる。
その程度。
ほんの少し力を入れれば大地が割れる。
そんな世界を窮屈だと思っていた。
いつか、力を存分に振るえたら、と常に考えていた。
並のVRゲームでは、彼女の力を処理しきれず、強制ログアウトを敢行され、
ステータス制で、強制的に一般人の身体能力へと画一されるゲームでは、現実と同じく、窮屈だと感じてしまう。
そんなときにたどり着いたこの世界。
彼女にとって、便利な世界とは、電気が通じ、水が自由に使え、他の人類にとって幸せな世界ではなく、
すべての人間が平等で、魔法やスキルが使える電子で構成された世界でもなかった。
自分が何の配慮もせずに、気軽に動ける世界こそ、彼女にとって幸せな世界なのだ。
現実世界に存在するものは何もかも、彼女にとって脆すぎる。
力の加減を学ぼうにも、先に惑星が壊れてしまう。
そんな訳で、彼女はこの世界に来てからずっと上機嫌そうに動き回っていた。
相変わらず建物は脆いが、大地は現実のそれより遥かに丈夫だ。
そして、本気で走ることができるというのは、とても気持ちのいいことだということも知ることができた。
彼女は、この世界に、自分の居場所というものを初めて感じていた。