表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

モンスターの作り方

作者: 鈴木美脳

 モンスターを作るのは簡単だ。

 ある人が最も愛している何かを二度と直らない形で壊してしまえばいい。

 どんなに努力しても盗まれた幸せを取り戻せないと思い知った時、彼や彼女はモンスターになる。


 そんなモンスターが存在して、世界中に町を作っていた。

 帝国軍が世界支配を企んだ時、それらモンスターが抵抗勢力になった。

 モンスター達は、帝国兵を惨殺することを本能にしていた。

 最大限に恐怖させ苦しめてから殺し、遺体は贄として飾り立てるのだった。


 帝国軍は勢力を拡大し、モンスターを世界から駆逐する勢いだった。

 しかしその時、勇者が生まれた。

 モンスターの中に生まれ落ちた勇者に、モンスター達の王は命じた。

 曰く、帝国兵を皆殺しにせよ、と。

 そして勇者一行の冒険が始まった。


 勇者は勇者だったが、確かにモンスターでもあった。

 ゆえに勇者一行は帝国兵に対して暴力を振るうことを楽しみとして感じた。

 帝国兵に暴力によって味わわせる恐怖や苦しみの一滴一滴が快楽だった。

 末端の帝国兵は弱く、帝国軍の中枢にほど強い兵が配置されていた。

 だから勇者一行は、まずは地元の村の周辺でレベルアップに励んだ。


 帝国軍から見れば辺境の地において、末端の弱い帝国兵から殺されていった。

 いたぶられて惨殺され、遺体は贄として飾り立てられた。

 勇者一行は数えきれないほど帝国兵を殺しつづけて、辺境の地は贄だらけになった。

 帝国軍は名のある幹部を順に送ったが、力をつけた勇者一行に殺されていった。


 疲労した帝国軍は、モンスター達に対してしばしば公式に謝罪した。

 すると、モンスター達の暴力がしばらくは減ることもあった。

 しかし帝国軍は、やがて再びモンスターを作った。

 すると、憎悪と復讐心に染まったモンスター達は再び暴れた。


 勇者一行のある男は、かつて帝国兵らに妻を惨殺された男だった。

 彼は、笑顔の妻を夢に見ては涙を流し、殺される妻を夢に見ては悲鳴をあげた。

 そして、盗まれた幸せが返ることのない現実と向き合って、復讐心に満たされた。

 彼は毎朝、妻のかんざしに向かって手を合わせ、毎日兵士を殺しつづけた。


 ある修道院にいた僧侶は、彼に不殺の道を説いた。

 人を殺すことは罪だと告げた。

 恨みの感情を手放さない限り自分自身が救われることはないと教えた。

 すると、妻を殺された男は笑った。

 殺された妻が生きて帰ってこない限り、自分にはどうしても帝国兵を惨殺することが楽しくて仕方がないのだと。

 そして、妻が帰ってくることは事実ありえず、ゆえに自分は死ぬまでモンスターでしかありえないと。


 モンスター達には迷いがなく、そして諦めることなく執拗だった。

 帝国軍はモンスターが生まれるたびに殺しつづけたが、被害は収まるどころか増えていった。

 怨念はやがて地上を席巻し、その臭気は四方に満ちた。

 血の報復に血の報復が繰り返され、やがて帝国軍の全員が殺された。


 すべての帝国兵が惨殺された。

 いたぶられて惨殺され、遺体は贄として飾り立てられた。

 モンスター達の王は勇敢な勇者一行を褒め称えた。

 そして眠りの時代の訪れを告げた。


 モンスターはどれも一斉に動かなくなり、そのまま死んだ。

 地上に満ちていた怨念は消え去り、臭気も消えた。

 怨霊達の心は人間に戻り、各々が最も愛していた何かとの夢へ落ちていった。


 モンスターを作るのは簡単だ。

 ある人が最も愛している何かを二度と直らない形で壊してしまえばいい。

 だが、作ったモンスターを消す方法は一つだけだ。

 モンスターを作った帝国兵達が、いたぶられ皆殺しにされなければ終わらない。


 この話は、有史以前の古い伝説だ。

 そしてそれ以降、人は人が愛するものを壊すことをしなくなった。

 殺すことも馬鹿にすることもしなくなった。

 帝国とモンスターが犠牲の上に残してくれた、この伝説のそれが教訓だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ