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7話:最後の望み

 授業合間の休み時間。

 人目を避けて会話をする二人の影。天谷千冬と、秋月秀次。彼らはコソコソと人気のない階段裏に身を潜め、焦りを顔に貼り付けていた。


「まずいよ……秀次君。私たち、このままじゃ…」


「だ、大丈夫だろ。どうせアイツも強がってるだけだ。気にする必要なんか……ねぇよ」


「……」

 

 強がってる、その言葉が似合うのは秋月の方。彼らは奏音に予告された"昼休みに起こる何か"に怯え、状況を確認し合っていた。


「でも……奏音ちゃん言ってたよ。昼休みに全てを終わらせる……って」


「だ、だから……心配する必要ねぇって…。そんな秘策があるんだったら、勿体ぶらず先に見せてるだろ」


「そうかもしれない……けど…」


 安心できない。落ち着きを諭す秋月に対して、千冬は不安を浮かべていた。堂々とした奏音の態度、言葉。全てが相まって、これから自分は何をされるのか……と、不安が促進されていた。


「もし、本当に証拠を掴んでるんだとしたら。その時は、どうするの?私には奏音ちゃんが嘘を言ってるようには……見えなかったよ」


「そんなの……分かんねぇよ。仮にあいつが証拠を掴んでたとして、俺たちにできることなんか……ねぇだろ」


「……」


 真実が明らかになれば、間違いなく秋月らは悪になる。クラスメイトは蓮翔たちの味方になり、自身は浮気をした最低人間だと蔑まれる。だから、なんとしてでも防がなければならない。が、彼らにそんな都合のいい策はなく、奏音がデタラメを言っている。そう願う以外に、救われる手段がなかった。


「――謝ろうよ」


 その時、千冬が一つの案を提示する。苦し紛れに発した一言。そう匂わせる表情で彼女が提案したのは、謝罪をしようという考え。無論、相手は蓮翔と奏音。


 追い詰められた千冬は、最終手段に出たのだろう。奏音が本当に証拠を持っていた場合、クラスメイトに浮気を知られない為には奏音を止めるしかない。それ故、謝るというシンプルな行為が、彼らにとっての最後の希望となっていた。


 が、そんな屈辱的な策戦に、秋月が応じる訳はなく。


「お前、正気か?あいつらに謝るなんて……今さら……そんなこと…」


「でも……!もし奏音ちゃんが証拠を掴んでるんだとしたら、それしかないよ!死ぬほど謝って許してもらう。私たちには……それしか可能性が残ってないよ」


「……」


 秋月自身も分かっているのだろう。今の状況がどれほど危うく、どれほど追い込まれているのか。


 残された可能性は、本気で謝って奏音らに許しを請うこと。けれど、そのラストの望みですら、成功率は限りなくゼロに近かった。


 秋月はこれまで、沢山の罵声を奏音に浴びせ。勝ち誇ったような笑みを見せつけてきた。そんな数多の最低な行為を自覚しているからこそ、謝罪を述べたところで許されるはずがない。そう分かりきっていた。


 一方の千冬は、浮気という最低な行為はしているものの、直接的な暴言等を加えたことはなく、秋月よりかは可能性があった。けれど、やはりそれでもゼロに近い。


 奏音が嘘をついている。そう信じて昼休みを待つか、全力で謝罪をするか。彼らは、最難の二択を迫られていた。


「謝る……俺が……妻夫木に……?そんなの……冗談じゃねぇよ。ここまで嘘をついて守り抜いてきたんだ。今更謝罪をするなんて、絶対に……認めない」


「私は……謝るよ」


「は?」


 意地でも謝るものか。そう固い意思を持つ秋月に対し、謝ると決意する千冬。これにはさすがの秋月も動揺を隠せない様子で、信じられないといった表情を浮かべていた。


「謝る……お前が……あいつらに?正気か?どうかしちまったのか?ここまで隠し通してきたのに、謝っちまったら全てが無駄になるじゃねぇか」


「無駄とか……そういう問題じゃないよ…。むしろ、ここまで隠し通したからこそ、これからも隠し通さないと。クラスに広まったら、私たちの居場所はなくなるんだから」


「……」


 昼休みに待ち受ける何かを阻止するには、奏音に許しをもらうしかない。けれど、謝るという行為は負けを認めているような気がして、散々奏音を言い負かしてきた秋月には耐え難かった。


 それ故、今現在彼の脳内では猛烈な葛藤が繰り広げられている。己のプライドを無視し、これからのクラスでの立場を守り抜くか。はたまた、奏音は証拠を持っていない、全部はったりだ。そう信じて何もしないか。


 考えるに考えた末、彼は結論を出す。


「本当に……妻夫木は浮気の証拠を持ってるのか?」


「分からない。けど、あの自信に満ち満ちた表情。何度も言うようだけど、嘘をついているようには見えなかった」


「……」


「写真を撮られていたんだし、音声が残されてる可能性だってある。そうしたら、もう言い訳は通用しないよ」


「……」


 説得するような千冬の言葉に、束の間の沈黙が流れる。そして、それを打ち破るように秋月は言い放った。


「分かったよ……謝ればいいんだろ」

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