最終話:明るい未来
――謹慎をあけた俺を待っていたのは、元の日常だった。
いくら無実とはいえ、仮にも学校を荒らしたのは事実な訳で、多少の仲間はずれは覚悟をしていたのに。教室に入った俺たちを、変わらぬ日常が迎え入れた。
久しぶり、と冗談交じりに語りかけてくれるクラスメイト。勘違いしてごめんと、求めていない謝罪をわざわざくれるクラスメイト。
俺は久々に、人間の温かさに触れたような気がした。
これは俺だけでなく、奏音も同じで。謹慎あけ初日の彼女の周りには、たくさんの人だかりができていた。大方、謝罪を述べるクラスメイトばかりだったが、優しく受け流す奏音の笑顔は印象的だった。
本当に、全部終わったんだな。
空になった二つの席を見る度に、そう実感させられる。変わらぬ元の日常の中で、唯一姿を変えた二つの空席。
天谷千冬と秋月秀次は、謹慎をあけてから学校に来なくなった。
申し訳ない、なんて優しさは、もう俺の中に残っていない。俺の手でそうさせた、俺と奏音の復讐によってその席は静かになった。そう考えると、妙な高揚感に襲われた。
――俺はこの結末に、後悔はない。
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「ここって、意外と眺めいいのね」
「そうだな」
「この屋上には嫌な思い出しかないから。私、これで最後にするわ」
「俺もそうする」
「……」
「……」
昼休み、特に訳もなく屋上に向かった俺は、一人の少女と出会した。
艶やかな紫髪を靡かせながらどこか遠くを眺める彼女の姿は、どこか懐かしい。
まるで、会う約束をしていたかのような。けれど、互いに屋上に用はなく。
偶然向かったその先に、妻夫木奏音の姿があった。
「秀次、退学になったんだってね」
「らしいな」
「結局、あいつらは両方クズだったのね」
「そうだな」
「……」
「……」
柵に肘を置き、ただぼーっと景色を眺めるだけで、謎の開放感を味わえた。
ずっとこうしていたい、思わずそう望んでしまうのは、溜まった疲れのせいだろうか。
「思ったより、呆気なかったわね」
「そうだな」
「クラスメイトに受け入れてもらえるか心配だっけど、ひとまず安心ね」
「だな」
「……」
「……」
「――ねぇ、達川」
「……」
「私達、付き合わない?」
「……えっ?」
突如放たれた彼女の言葉に、ぼんやりとした俺の意識は覚醒する。気づけば景色を映していた俺の瞳には、顔を赤く染めた奏音の姿が映っていた。
「ふふっ、冗談よ」
「……はっ!?」
「あんたが余りにも淡々と返すもんだから、ちょっとからかいたくなったのよ」
「なんだよ……それ」
意地悪げな笑みを零した奏音は軽やかに後退りし、手を後ろで組みながら視線を元に戻す。
「私達、自由になったのよ。騙されながら過ごし続けてきた日々は、もう終わった」
「……」
「ねぇ、達川」
奏音はくるりと体を捻らせ、俺と視線がぶつかると
「復讐して良かったって、思わない?」
優しい笑みを浮かべながら、そう尋ねた。
勢いのまま決意した、浮気相手に対する復讐。途中、何度も諦めかけたけれど、結局無事終わりを迎えられたのは奏音のおかげ。
今なら言いきれる。
復讐して良かった。
この道を選んだことに後悔はない……と。
俺は奏音に対する感謝も込めて、清々しく微笑み返した。
「――そうだな」
屋上から見えた街並みは、俺たちの未来のように明るく、どこか澄んでいるような気がした。
~完~
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
無事完結を迎えたということで、少々後書きを綴らせてもらいます。暇な時にでも、是非お読みくださいませ。
まずは、次回作についてです。
小説家になろうで活動している身として、今後も作品を投稿していくつもりです。その際にも読者様の支えは、多大なモチベーションになります。
もし、少しでも「応援してるよ」「次回作も期待してるよ」と思ってくださる方がいれば、"お気に入り作者登録"等々で作者の支援をしていただけると大変嬉しいです。
何卒、よろしくお願いします。
次は、本作についてです。
本作は約一か月前に連載を開始し、本日10月12日。読者様の支えもあって、無事走りきることができました。
ありがとうございます。
つきましては、いずれアフターストーリーなども投稿できればと考えております。
この結末に納得のいかない読者様もいるでしょうし、モヤモヤした部分を少しでも補えればと思っています。
宜しければ、ブクマや下の評価欄から《☆☆☆☆☆》を《★★★★★》にしてくださると、モチベーションに繋がります。
この作品及び、長々とした後書きを最後までお読み頂き、ありがとうございました。
次回作にもご期待を!
犬野空




