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18話:クソ男

「――昼休み、あんたの全てを終わらせてあげるわ」


「――ねぇ、今どんな気分?」


「――まあ、無理でしょうね」



 ****


 強面とよく言われる秋月秀次の顔は、割かし整った方。それ故に、少し優しく接するだけで女は寄ってきたし、これまでも彼は数多の女と関係を持ってきた。


 好き。付き合いたい。


 この二語を放てば、大抵自分の欲を満たせる。ちょっと気に入った異性がいれば優しく寄り添い、タイミングを見計らってこの魔法の言葉を放てば、大抵相手は錯覚する。


 本物の好意だ……と。


 けれど実際、その好意が本物かと問われれば少し怪しい。人間として好きなのか、ただ顔が好きなのか。大方、彼の判断基準は後者に傾く。


 彼にとって、女という生き物は自身の欲を満たすための道具。どれだけ見栄えがいいか、それに尽きる。


 女神のように温かい心を持つ人間でも、見た目が劣っていれば論外。逆に、どんなに性根が腐っていてもルックスさえ整っていれば、秋月の許容範囲。


 そんなイカれた基準で選んだ天谷千冬という女も、見た目は優れている。

 彼女とは席が隣になってから話すようになり、前から顔が好みで目をつけてはいたため、すぐに狙いを定めた。そして案の定、彼女は受け入れた。


 彼氏がいると聞いていたため、できるだけ慎重にじっくりと仲を深めたものの、彼女は秋月の告白をあっさりと受け入れた。


――今回も上手くいった。


 そう思っていたからこそ、秋月には納得できなかった。同時期に付き合っていた彼女、妻夫木奏音からの復讐に。


 今まで、浮気がバレることは何度かあった。けれど、広められることはなかった。

 浮気がバレてもその都度秋月は上手く立ち回り、周りに広めるどころか巧みな語彙で結果的に相手を悪者に仕立てあげた。


 だというのに。なぜか、今回は上手くいかない。


 いつものように言いくるめたと思いきや、奏音は再び仕掛けてきて。それもまた沈めたと思えば、再び反撃をしてきて。いつの間にか、追い詰められていたのは自分の方だった。


 おかしい。おかしい。今までとは違う。都合よく物語が展開していかない。


 焦りが浮かんでも、すぐに打ち消して。きっと奏音の強がりだろう、そう思い込もうとして。けれど結局、秋月秀次は全てを失った。


 妻夫木奏音。これもまた、見た目だけで選んだオモチャに。自身の欲を満たすしか用途のない、たかが道具の分際に。


――自分は負け、そして全てを失わされた。


 その事実がどれだけ秋月の心を抉ったのか、それは計り知れない。今まで全て思い通りになっていたからこそ、彼に与えたダメージは大きい。


 欲のままに生き、都合の悪い事態は回避し、これまで上手くやってきた。女を道具のように扱い、邪魔になったら適当に捨て、今まで自由に生きてきた。


 そんな秋月だからこそ、普通は後悔すべきこの状況でさえ、気持ちの矛先は相手に向いていた。


――奏音を、許さない。


 自分の居場所を奪った彼女を、絶対に許さない。浮気をしたのが間違いだった、そんな後悔は更々なく。自分は欲に忠実に生きただけ、それを邪魔した奏音を許さない。


 そんな自己中理論を貫き通し、秋月秀次は自身の心に誓った。


 復讐してやる……と。


 この"復讐"という言葉も、本来は相応しくない。言うならばこれは、ただの逆恨みだ。奏音の復讐に対する復讐、すなわち復讐の復讐。


 客観的に見れば意味の分からぬ彼の決意も、彼にとっては本気。自分は間違っていない、そう信じる秋月だからこその、歪んだ決心だった。


 秋月はただ己の怒りに身を任せて、家を飛び出した。奏音に復讐をする、その決意だけをグッと固めて。具体的な手段は決めず。記憶を頼りに、奏音の家へと向かった。


 自分は全てを失った。ならばせめて奏音だけでも道づれに。


――今なら分かる。彼の冷静さは、もうこの時点で欠けていたのだろう……と。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 秋月にとって、彼女という存在はなく、ただの欲望の対象でしかなかったんでしょう。何度も同じ事を繰り返してきただけ。今回そのつけが廻ってきて、考えなしに突っ込んで自爆しただけみたいですね。
[一言] 突撃して警察を呼ばれたと。 こんな男の彼女をよくも続けていたもの。 たくさん浮気されて、たまたまバレたのが今回だったと。 浮気相手と本命の彼女との区別はどこでしているのでしょうか。
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