表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/25

17話:唯一の味方

 ガチャりと閉められた扉の音を耳に残しながら、とぼとぼと千冬は帰路についている。

 優しい幼馴染には見合わない、鋭い言葉。つい先日までは普通の彼氏彼女として、浮気を隠しながらも上手く接していたというのに。

 秋月とも付き合った上で、蓮翔とも上手く付き合う。それが千冬の理想だったのに。

 自身の欲をとことん追求した結果、最後に残ったのは想像以上に性格の腐った浮気相手だけだった。


 人を上っ面だけで判断してはならない。今回の一連の流れで千冬がそれを痛感したのは、言うまでもない。

 優しい人だと思って付き合った秋月も、浮気がバレて追い詰められた途端、醜い本性が表れ始めた。

 あの時、告白を断れば良かった。浮気を選ばず蓮翔一筋を貫き通していれば、蓮翔との関係を失うことはなかった。が、いくらそう後悔したところで、今更遅い。浮気がバレたつい最近まで、秋月への好意は本物だったのだから。蓮翔と同じくらい、秋月とも付き合いたい。そう思ってしまったのだから。

 仕方がなかった。全部、仕方がなかった。それに、もうどうでもいい。


 秋月秀次という人間がどんなに腐った人間でも、千冬にはどうでもよかった。

 直接酷いことをされた訳でもないし、何より、学校に居場所を失った彼女には今、彼しか味方がいなかった。だから、千冬は決意した。


 これからは秋月と共に生きよう……と。


 あれ程悪に染った人間でも、一応一度は好きになった人間。共に過ごしているうちに、悪いイメージは拭えるはず。

 それに言い方を変えれば、これからはコソコソ隠れることなく秋月と会える。堂々と、ちゃんとした恋人として時間を共にできる。


……などと、自身に言い聞かせるように言葉を並べ、千冬の足は自然と動き出していた。


 何度か行ったことのある、秋月の家へと。


 唯一の味方、秋月秀次。信頼を失った千冬の唯一頼れる人間、秋月秀次。


 きっと彼も、自分のことを求めているに違いない。そんな願望に近い予想を抱きながら、千冬は歩いた。


 前を歩く母には先に帰っててと告げ、迷うことなく曲がり進み曲がり進み。


 やがて馴染み深い道の先に、彼の家は見えてきた。


――その時だった。


「やっぱり、来ると思ったわよ」


 背後から聞こえた、聞き慣れた声。


「えっ……」


 それ以上喋れなくなったのは、驚いたからだろう。なぜ彼女がここにいるのか、どういう意味なのか。果たしてこの問いに、答えは存在するのだろうか。


 そこには、奏音がいた。


 艶やかな紫髪を風に靡かせながら、退屈そうに道路脇の塀に寄りかかり。


「連絡がとれなくて、心配になったんでしょ?」


「えっ?」


「まあ、そうよね。全てを失ったアンタには、秀次しか頼れる人がいないもんね」


「……」


 意味のわからぬことを、ズカズカと言い並べてくる。これにより、元々混乱していた千冬の頭は更に促進され、思わず細々とした声で尋ねてしまう。


「連絡が……とれない……?」


「えっ、違ったの?嘘、てっきり秀次と連絡がとれなくなって心配になったから、家まで様子を見に来たのかと思ったわ」


「なに……それ。どういう……こと」


 秋月と連絡がとれない。そういえば、今日は彼と連絡とってなかったな……などと思いながらも、千冬の頭は混乱していた。


「なんだ。知らなかったのね。いいわ、だったら教えてあげる」


 声色からは真剣さが伝わってきて、けれどその嘲笑う表情を見ると嫌な予感がして。

 お気の毒に、と言わんばかりの顔つきで奏音は言い放った。


「秀次、警察に連れていかれたわよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
俺も感じました 折角の母親がレトロゲームのNPCになっちゃってます 主人公のリアクションに対して娘に言葉があった方が良いと思います
[良い点] >前を歩く母には先に帰っててと告げ、迷うことなく曲がり進み曲がり進み。 母親の存在を示したのはリアルで良い。 でも、追い返された帰り道に母親との会話が無いのが不自然。 一緒に付いて来て謝…
[気になる点] ここで間男が警察に?何をやらかしたのか…。 [一言] 更新有り難うございます♪ヽ(´▽`)/ 何をやらかして警察にお世話になったのか野次馬根性が止まりませんw これからも応援しています…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ