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15/25

15話:決別宣言

 爽快に復讐を果たし処分を受け、俺の自宅謹慎生活は始まった。親には先生から連絡がいき、被害者の俺は怒られるどころか暖かく慰められ。けれどやはり内容が内容ということもあり、一時家の中を気まずさが漂った。


 とはいえ、あれ以来とくに大きなアクションはなく、起きて食べて寝るだけの夏休みのような生活を送っている。罰として出された課題は量が多いものの、内容は簡単ですらすらと解けてしまう。


 そんなこんなで3日過ごした俺の感想は、あれ……意外と快適じゃね?


 謹慎。処罰。そんなワードに見合わぬ程の、楽な生活。勝手にハードな任務を想像していた俺からすれば、何の苦もない日々。むしろ、快適。


 学校に通う普段の日常なんかよりも断然疲れないし、言っちゃ悪いが、この生活を得られるなら再び停学をくらいたいとも思う。


 まあ、事情が事情だから甘く見逃されただけの可能性もあるが。


 とにかく、俺は想像以上に楽な日常を送っていた。


――が、永遠に続くわけではないようで。


****


 何も起こらず。何も訪れず。


 そんな楽で平和な日々が流れていたのは3日間の話で、その翌日。すなわち謹慎生活4日目に動きが表れた。


 ピンポ~ンとインターホンが音を鳴らし、俺は落胆を浮かべる。

 普段なら母さんに対応してもらう来客も、丁度買い物で不在につき俺が出向かなければならなかった。

 はぁ~と不満を溜め息として全て吐ききった後、精一杯の作り笑顔で玄関扉を開く。


「はーい、どちら様でしょうか……って」


 言葉を失ったのは不可抗力。

 予想の遥か上を超える来客に、目玉が飛び出るどころか内側から色々と漏れ出そうだった。


「こんにちは……蓮翔君。いきなりごめんね」


「こんにちは…。どうされました?」


 大きな瞳は母親譲りなんだな……などとどうでもいいことに思考を移し、逃避しようとした意識を現実に戻す。


 千冬のお母さんだ。やや色素の薄い金髪に、千冬とよく似たパッチリお目目。そこにいたのは、千冬の母親。そしてその後ろに、千冬がいることにも気づく。


「ごめんね…。全部、先生から聞いたよ」


「……」


 このタイミングでの訪問は不自然でない。むしろ、冷静に考えれば予想できたであろう。


 今となっては印象が地に落ちた千冬も、一応俺の幼馴染。昔からの付き合いということもあり、家族ぐるみで関わることもよくあった。


 皆俺と千冬が付き合っていたことも知っていたし、背中を押して応援もしてくれた。


 そんな彼女らが娘の浮気を知ったらどうするか。無論、謝罪しに来るに決まっている。


 千冬母は頭を低くし、同時に手で千冬に頭を下げさせていた。


「千冬が停学になったって、いきなり学校から連絡がきて。その原因が千冬の浮気だって聞いて。本当に……ごめんね」


「……」


「蓮翔君には昔から仲良くしてもらってたのに、本当に……ごめんね。迷惑をかけて、ごめんね……」


 ひたすらに謝罪の言葉を羅列する千冬母。

 何を今更。そのワードで埋め尽くされた俺の脳は、上手く機能をせず。ただぼーっと、彼女らの旋毛が視界に映るだけだった。


「ほら、ちゃんと千冬も謝りなさい」


 小声で放たれた声もこの距離では丸聞こえ。

 話しやすいようにと気遣ったのか、千冬母はもう一度「ごめんね」と言い残した後、少し後退りをする。


「……蓮君…」


 その呼び方やめてくれ、と思ったのは初めてかもしれない。

 千冬は細々とした声で俺の名前を呼ぶと、暫く黙り込んでしまう。

 まあ、無理もない。

 浮気をした挙句、散々言い争って、結局は学校全体を巻き込む復讐劇でどちらも謹慎。

 そんな訳アリの男女を対面させたところで、話せるわけがない。


(めんどくさいな……)


 心の中でそう思った俺は、性格が悪いのだろうか。いくら幼馴染とはいえ、また嘘で塗り固められた謝罪をされてもなんとも思わないし、かえって不快だ。


 それ故、この無言でただ沈黙が流れるだけの時間は非常に無駄。謝るなら謝る、謝りたくないなら大人しく帰る。せめて、はっきりとしてほしいもんだ。


「あの……蓮君」


「……」


「私……その……」


「……」


 言い出そうとして、黙り込む。言い出そうとして、黙り込む。そんな流れが何度か続き、ついに俺の方から諦める。


「もう、いいよ」


「えっ」


 謝罪を述べたところで、どうせ嘘なのだから。もう彼女の言葉は、何一つ信用できないから。


 完全に関係を断つのが妥当だろう。


 そう思った俺は、後ろに立つ千冬母に聞こえるように、怒りを含んだ大きな声で言い放った。


「もう、俺に関わるな。クソ女」

 

 ガチャりと扉が閉まる寸前、僅かな隙間から見えた千冬の表情は絶望に染っていた。

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― 新着の感想 ―
よく言ったあ!
[良い点] 変に許したりせず徹底して復讐するのはとても良いと思いました。 [気になる点] 次の話で千冬の心情を描いてくれるとソーグッド。 [一言] 応援してます。最後まで頑張って走りきってください。
[良い点] ちゃんと突き放せる男であるところ 幼馴染ったって赤の他人だからね 付き合いが長いってだけでべつに切っても切れない縁があるわけでもないし、ひどい裏切られかたしたらそりゃ愛想もつきるし情だって…
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