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#7 『新たな戦士・蒼崎零士参上!?』

 

 生まれながらにして声が出ない病気ならばどれほど良かっただろうと思った


 なまじ発声という方法がコミュニケーションに適していると知ってしまった事が、後の人生において俺にはハンディキャップとしてのしかかっている


 蒼崎零士というどこの家庭にもいる一般的な男子が声を失う経緯を聞きたいか?


 面白くも無い話さ、ただの事故。俺が余計な事をしてしまっただけでな……



 その日の空は墨が撒かれた様に黒く分厚い雲で覆われていて……


 ──これから自分に起こる災難を匂わせている様だったよ



 母親を早くに亡くした俺は、父と二人で十数年の歳月を安い借家で暮らしていた


 その日だって新たな生活を踏み出す記念すべき日になる筈だったんだが……



 【通り魔に喉を切り裂かれてしまったんだよ】



 ────────────



 ─────────



 ──────



 ────



「目覚めましたか? 蒼崎零士あおざきれいじ


「ここは……?」



 目が覚めると白く無機質な病室のベッドの上に寝かされていた


 ここは自分が入院していた病院とは違って見える。それに……



「貴様は俺の担当医には見えないが?」


「私はアナタの医者でもママでもありませんよ」



 癇に障る話し方で俺の事を何でも知っていると言った様な反応だ


 という事はこの女がこの薄気味悪い部屋の持ち主だろう、下品な衣服を見るに脳も弱っていると察する事が出来る



「失礼な、私のどこが下品なんですか?」


「……俺は今口に出して言っていたか?」



 まぁ……声を出す事も"久しぶり"なんだから勢い余って出てしまったのだろう



「あぁ、いえ私が心を読んだだけですので」


「だったら今すぐやめて貰えるか気味が悪い」



 心を読まれる……か。


 もしも生きている間にそんな能力者が居たのなら……なんてな


 これも聞こえているんだろう?お前には



「なんて察しの早い! これは向こうの世界でも活躍が見込めそうですね……」


「いい加減に何が起きているかくらい説明しないか。独り言が趣味でないならな」



「では僭越ながら、蒼崎零士さんを"二人目の戦士"としてこことは違う別の地球に転生させてしまってもよろしいでしょうか?」



 やはりか……どこかおかしな女だとは思っていたが薬物常用者のコスプレイヤーなんだろう


 そうでもなければ夢でしかない。この空間は俺の作り出した空想の世界──



「"あの時"のように空想の世界ですか?」


「──ッ!!」




「蒼崎零士・十八歳没 死因は声の出ないこれから先の人生に明るい未来が見えなくなり、入院中の病院から逃げ出し飛び降り自殺」


「アナタの目には高層ビルの屋上から見えた"広い世界のその先"に明るい世界が見えたのでしょうか?」



「ふざけるなッ!! 貴様ごときに何が……」


 ──父さん


「俺があれだけ辛い思いをしながら……」


 ──母さん


「それでも必死に生きようとしていたのは……」


 ──僕は


「かっ……はァ……」



「蒼崎零士は目の前で凶刃に襲われようとした幼子を庇い、その喉に癒える事の無い傷を受けてしまう」


「それでも必死に生きようとしたのは、いつもお見舞いに来る彼女が責任を感じない様に……でしたね?」



 "もう……疲れてしまったんだ"



 キミの笑顔に応える事が



 "帰って来ないんだ"



 キミの喉から出て来るその声は



 "もう……十分だろう?"



 贖罪は済んだと言わなければ一生続くんだろうか?




 ──こんな地獄の日々が



 ──


 ────


 ────────


 ────────────



 なんてことない、いつもと同じ表情で、いつもと同じように父の出社を見送り、いつもとは少し違う服装で家を出た



 この日は俺が就職後、初めて出社する日だった。



 新たな門出を父も喜び、仕立ててくれたスーツに身を包み家を出る


 高校の時とは違い一つ上のサイズでは無く、これから一生着られる様にと作られた特注品だ


 しかしその数分後には、明るい未来を夢想していた俺の前にそんな世界とは真逆の光景が広がっていた



 歩行者天国の真ん中で刃物を振り回していた男が、目の前のひ弱な男性から近くにいた幼子へと標的を変えた時、自然と身体が動いてしまった



 余計な事を、今まで何度となく自分だけの為に生きて来たでは無いか


 父と二人だけの生活なのだから、父もそう言ってくれていた


『これからの人生は自分だけの為に生きなさい』


 我ながら不要な正義感を捨て切れていなかった事に呆れたよ


 だからあんな事になる……なぁ?お前もそうなんだろ?


 "正義マン"



 ────────────


 ──────────


 ────────


 ──────


 ────



「お前はどこで間違えたと思う? 俺が家を出る時間か? それとも子供を庇った瞬間か?」


「それとも────」


「私は人間の禅問答に付き合うほど暇では無いのですよ」



 散々こちらの神経を逆撫でしておいてそれか……俺の事をおもちゃか何かと勘違いしているのかこいつは



「蒼崎零士、今一度問います。」


「何度も言わなくていい、五体満足で二度目の人生が迎えられるなら喜んで受ける」



 そこが例え地獄だろうと……俺は構わなかった



「ではこちらのヒーローグッズをお持ちください。詳しくはこの箱の中に入ってますので」


「ヒーロー……だと?」



 こんな所でも誰かの犠牲になれと?次は誰の代わりになればいい?



「アナタに課せられた使命は──」


 声さえ出るのなら問題ないと考えていた



「天地正義を殺す事です」



 この名前を聞くまではな



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