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#13 『僕は出来損ないヒーロー』

 


 何度も頭部を殴りつけられるようなズキズキとした感覚が僕を襲う。小さい頃にヒーローの真似をしてブランコから飛び降りた時も、頭から落ちてこんな痛みが続いたっけか……その日は眠ろうとしても寝付けずに自分のしでかしたバカな行いを悔いて泣いてしまった様な気がする。まさか成人してからもこんな懐かしい感覚に襲われる事があるなんてな、僕はどこか懐かしむように再び闇の中で眼を瞑った。


 ──────


 ────


 ──



「本当にヒイロ様は無事なんですか……?」


「さぁね、私が行った時には何発かいかれた後だったみたいだし」

「打ち所が悪ければ最悪の事もあるかも……ね?」


「そ、そんな……」



 青い顔を浮かべ触れる事すら躊躇しているマリアと、その背を見ながら声を押し殺し笑いを浮かべているシシド=アグリの両名はベッドの上で未だ目覚めぬヒイロの介抱をしている最中だった。アグリは変身した状態でヒイロの身体から生体反応を確認しているため命に別状がない事を知っている筈だが、目の前の幼気な少女をからかって遊んでいる様だ。



 ヒイロと蒼崎零士の邂逅から数時間が経ち、ここ王都アルカディアも夜を迎えようとしていた。自分の靴をメンテナンスしながらもアグリの手にはヒイロの左腕から取り外した変身器具が握られており、その内部構造を紐解こうと自分の機械靴と見比べてブツブツと独り言を言っている。やはり出会った直後からアグリはこの少年が自分と同じ異世界から来た者だと気付いていた様子だ。



(なるほどね、私の靴と違ってある特定の部分を強化する構造ではないらしい。全身を赤い鎧で覆う事によって人間としての機能が全体的に向上する……つまりこれが彼の欲した力って訳か)


(だが不可解な点もあるな。この変身器具は私のように脚力を欲したのであれば足に、しかし強靭な身体を欲したはずの彼は胸の部分ではなく"左手"にこれを付けて変身する訳だ……)


「……ま、そんな事もあるんだろうな。考えすぎか」


「何をさっきからブツブツと言ってるんですか! 相変わらず気味の悪い女ですね!」


「おやまぁ、王子様の命の恩人に対して随分な言い草だ……」

「私の足なら1分もあればその子を"辺獄"まで放り投げに行けるんだけど?」


「ひ、卑怯者!!」


「うっ……ぐぅ……!」



 二人の言い争いが頭に響いたのかこの家に来てから初めてヒイロの身体が動いた。それを見逃さなかったマリアは懸命に声を掛け続け、それに呼応するかのようにヒイロは重い瞼を開け薄ぼんやりとした意識の中でマリアの名前を呼んだのだった。



「ヒイロ様! ご無理はなさらないでください、聞いた話によればあの黒衣の男から大変な打撃を受けたと……」


「そ、そうだ……あの黒騎士は……ぐぅ……!」


「動かない方が良いんじゃない? 脳のダメージは何日か後に来る事もあるって言うしね」


「あなたは依頼主の……ってここは……お店?」



 寝起きで重たい頭に加え打撃の影響もあるのか状況の整理が出来ていないヒイロに対して、マリアはアグリから依頼を受けた所から順を追って説明していく。自分が洞窟から逃げ出した後にこの店まで走りアグリに救出を頼んだこと、そこでは既に意識を手放したヒイロが黒衣の男によって打ちのめされる寸前だった事まで。



 それを聞いたヒイロはこの世界においても自分はまだ無力なのだと知り、言葉も出せずガックリと肩を落としうなだれる事しか出来なかった。そんな様子に掛ける言葉が無いマリアと、うんざりとした表情のアグリがヒイロの丸まった背中を見つめている。立ち上がり伸びをしたアグリはそんなヒイロにも容赦なく背中を叩き、この店から出て行くように促した。



「人ん家でもよく寝れる体質なのは羨ましい限りだなお兄さん。目が覚めたんならさっさと出て行きな、レディーの部屋に何時間も居座るもんじゃないよ?」


「す、すみません……この度はなんてお礼を言ったらいいか……」


「ちょっと! ヒイロ様はまだ病み上がりなんですから朝まで寝かせてくれても良いでしょ!?」


「冗談じゃない、それに依頼していた品も届けられてないしこっちとしては迷惑料を貰いたいくらいだよ」

「それとも今すぐ不審者として衛兵に突き出そうか? しばらくは三食屋根有りの場所で寝られるだろうけど」


「なんて口効くんですか!? この方は世界を救う為に降臨召された英雄様で……」


「いいよマリアさん、この人が言ってる事はもっともだよ。改めて本当にありがとうございました、この借りはいつか必ず」


「そうかい? じゃあこの世界が嫌になったら滅ぼして貰おうかな」



 ヒイロ達の方を見る事無くそんな軽口を言いながらアグリは店の鍵を閉め、本日営業終了の電光掲示板が店の前に灯った。まだぼやけた意識の中で泊まる所を探す為にヒイロとマリアは巡回の衛兵から怪しまれないように王都アルカディアの宿屋を探す事にした。幸い一泊分だけなら持ち合わせがある事で物価の高い王都でも屋根の下で眠れそうだ。



「ごめんねマリアさん、僕のせいで危ない目に遭わせて」


「そんな! ヒイロ様は突然襲われただけで……それになんなんですかあの男! もしかしたらあの"忌み子アグリ"とグルだったんじゃ……」


「忌み子って……?」


「あ、いえ……くだらない噂です。それよりここがこの王都で一番安い宿で値段は……」



 ぐぅ~……



「あっ……///」


「マリアさん、お腹が……?」


「い、いえ! 私はヒイロ様を守護する巫女なのです! 多少の空腹など……」



 ぐるるるぅ~……



「~~~~ッ///」


「あはは……じゃあご飯にしよっか? 宿には泊まれなくなるけど僕がマリアさんの事見てるからさ?」


「そんな事……」


「ううん、今日はマリアさんにも助けられたんだからそのお礼も兼ねて。それになんだか僕もお腹が減っちゃった!」


「ヒイロ様……」



 どこか寂し気な表情をするヒイロの胸中を察したのか、マリアは空腹を満たす為に食事処を探す事に。まるで自分の事なんか気遣って貰わなくてもいい、そんな資格が自分には無いと言いたげな表情に言葉に詰まってしまった。何でも出来るヒーローの力を手にしたと思っていたヒイロには今回の敗北が相当堪えたのか食事中は一言も発する事が無かった。



 そして食事を終えた二人は王都の端、貧民街に近い所で野宿をする事にしたのだが……ここいらは生活の為に盗みをするような輩が徘徊しており非常に治安の悪い場所だとマリアが言う。しかしこの時ばかりはヒイロもいつもの調子で言う。



「大丈夫だよ、いざとなったら街中だとしてもこの変身……変身……あれ?」


「ヒイロ様まさかその……左手の道具は……」


「あ、アグリさんの店に忘れて来たかも……」


「そんなぁ~!!」


「今すぐ行って返して貰わないと……」


「でしたらもうあの店の前で寝てしまいましょう! 衛兵に声を掛けられても中の人に物を盗まれたって言えば取り合ってくれるでしょうし!」


「それは流石に……はぁ……僕ってなんでこんなに……」



「僕は出来損ないヒーローだぁ……」



 この世界へ転生してから最初の困難を何とか乗り越えたヒイロの旅路は前途多難な様で……こんな調子で本当に世界を救う事なんて出来るのか? そして女神が救うように言ったこの世界における災厄とは一体何なのか? それはまた次回からのお話……



 頑張れ強面ヒーロー!


 負けるな出来損ないヒーロー!


 世界を救うその日まで!!



「開けてくださいアグリさ~ん!」


「ヒイロ様! この石で窓から侵入しましょう!」


「それはダメだよ! まるで盗賊じゃないか!」



『衛兵さん! あいつら貧民街の方から来て侵入するとか!』

『なんだと!? おいそこの二人動くんじゃない!』



「な、なんかあの人達こっちを見て叫んでるみたいだけど……?」


「ヒイロ様逃げましょう! こちらです!」


『あ、おい待て!』

『盗人だー!』

『捕えろー!』


「な、なんでこんな事にー!!」



【 第一章 -正義のヒーロー参上!?- 完 】



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