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#11 『 黒 × 紅 』

 


 ヒイロは心臓目掛けて突き立てられる刃物を受け止めると、突き出された腕を取り足を払う


 体勢を崩しに行ったつもりが、わざと軸足を浮かせた黒騎士はその反動を利用し、側頭部へと膝蹴りを打ち込んできた



「ぐぅ……! キミは誰なんだ!? どうして僕の名前を……」


「キサマが知る必要はない。自分の罪を認めて死んでいけ」


「僕の罪……だと? ガッ!?」



 上段の膝を受け止めようとも更に空中で体を反転させ鳩尾みぞおちを的確に蹴りで捉える



 何者かは分からないが、この男が相当な手練れであり生前の自分と関係のある人物だという事は痛いほど分かった


 背後で心配そうに見つめるマリアは自分が居る事で思うように動けないのだと理解している様だったが、下手に動けばこの熾烈な鍔迫り合いに巻き込まれかねない



(なにか……なにかヒイロ様の手助けをする事は……)



 我が身に危険が及ばないとは限らないのだが、今は目の前で自分の為に踏みとどまっているヒイロを信じ、必死に思考を巡らせるマリアは手元にあるヒノコロガシの皮を握りしめて走り出した



(こんな事をしてはヒイロ様も無事では済まないかもしれない……それでも!)


「マリアさん! 危ない下がって!」


「どこを見ている天地ぃ!!」



 ヒイロと黒騎士のすぐ横を通り過ぎようとしたマリアは、目の前のヒイロを貫こうと黒騎士が振り上げた凶刃をその身に受けて転んでしまった



「くっ……!!」


「マリアさん!? キサマぁ……!!」


「私は大丈夫です! ですからヒイロ様も……どうかご無事で!」



 あれほど強烈な一撃を受けてなぜ無事でいられたのかは、足元に散らばっているヒノコロガシの皮が教えてくれた。


 ヒイロと黒騎士に向かって五枚すべての皮を重ね、衝撃を吸収させる事によって皮膚の上辺が傷つくだけに留めたのだ


 そのまま洞窟の出口まで走り出すマリアだが、ろくに見えもしない道を進むのだから無事に外へ出る頃には、体中が洞窟で転んだ事によって出来た擦り傷だらけだった



(ここまで来れば王都まではもう少し……待っていて下さいヒイロ様……!)



 マリアが外に出たと同時に洞窟内からは凄まじい音が響き、守るべき対象の居なくなったヒイロと黒騎士の戦いは激しさを増した事が伺えた



 * * *



「この野郎ぉ……!! いい加減目的を話したらどうなんだ!?」


「最初に言った通りだ、キサマを殺す……ただそれだけだ!!」



 黒騎士は両の手から伸びる諸刃のブレードを振り回し、間一髪の所でそれをヒイロは躱している。


 空を斬る刃が次々と洞窟内の岩場が削りとり、上部からはパラパラとつぶてが降り注ぎ始めた



「おい! このままじゃ本当に洞窟ごと下敷きになるぞ!?」


「何度も言わせるな……それでも構わんと!!」



 右手で振り抜いた刃の一撃を躱したと思った矢先にすぐさま回し蹴りがとんできた


 やはりこの男の身体能力は自分と同等か……技術と武器を持たない分、不利なのはどう考えてもこちらの方だった



(なにか……少しでも攻撃の隙をつければ……)



 目を凝らして黒騎士の身体を観察すると、その右手には自分と同じ様に左右非対称な部分が存在する事に気付いた



(現実世界での僕の名前を知っているって事は、恐らくこの男も転生者だろう……そしてもしも自分と同じ境遇なのだとしたら……!)



 ヒイロは体を屈め右手に目掛けて飛びついた、するとそれを黒騎士が嫌ったように後ろへ飛び退いたのだ



「……やっぱりこっちの世界に来た転生者だったか」


「……だから何だと言うのだ? 今更それを知った所でキサマに勝機など──」


「死んだんだな? キミも」



 黒騎士は言いかけた言葉を吐き出す事無く、その喉を詰まらせてしまった。


 自らの手で絶った命の事を、その原因を作ったこの男を前にして思い出す事はどうしようもなく苦しかったからだ



「……あの時」


「えっ……?」


「キサマがくだらない正義感で……アイツの前にさえ立たなければ……」


「キサマより弱い少女を標的にする事なんか無かっただろうな!!」



 怒りに震えた黒騎士の鎧の中からどす黒い瘴気が漏れ出していた


 それは次第に全身を包むとヒイロの目にも止まらぬ速さで背後を取り、先程までとは比べ物にならない程強烈な蹴りを見舞った



「ガハッ……!?」



 岩壁に叩きつけられ一瞬飛びかけた意識をなんとか繋ぎ止めたヒイロは、格段に力を増した黒騎士からの攻撃に防戦一方になるしかなかった……



 * * *



「おや? 冒険者のお兄さんとははぐれてしまったのかい?」


「ハァ……ハァ……助けて……!!」



 目の前の傷だらけの少女を見ても慌てる様子の無いシシド=アグリは、雑多に置かれた埃だらけの荷物の中からゴーグルを取り出し首にかけると少し笑った



「──あいよ」



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