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#10 『邂逅、二人の戦士』

 

 シシド=アグリに依頼されたのはヒノコロガシの皮を持って帰る事だった。



「こんな薄暗い洞窟でも見えるなんて、便利な目だなぁ」


「ヒイロ様は夜目が利くのですね!」



 僕にしか見えていないので、マリアさんには転ばない様に腕を取って貰い洞窟の内部を探る


 生前は鈍臭く誰かをエスコートする役割なんて担った事無かったけど、こんな感じでスタスタと進んでしまっても良いものなんだろうか?と考えに耽っていると案の定僕の歩みは少し早すぎた様で……



「ひゃ! す、すみませんヒイロ様!」


「大丈夫ですかマリアさん? 申し訳ない……不慣れなもので」


「い、いえ……///」



 転びそうになった時にも軽微な体重移動を察知する事で難なく体を受け止める事が出来た。


 この力が本当に自分の物なんだという実感が沸いてきたのが最近なのは、クエスト依頼を受けている時にしか変身できないほど禍々しいこの容姿が原因だろう



「もっとカッコ良ければ街中でもこの姿で歩きたいのになぁ……」


「それだけはいけませんよ!」



 王都総出で征伐されかねないと泣く泣く諦めたのだった……



 * * *



「あれ? なんだか音が変わった……四足歩行で跳ねるようにして歩いてる音だ」


「ヒノコロガシだと思われます! 大きさも人間の膝下に収まる程度なので」


「音のする方を見てみようか……うん、大きさも特徴もそのままだ! こっち!」


「あっ……///」



 マリアの手を引き急ぎ足で走り出したヒイロ。



 この時、洞窟の入り口の方でした物音に気付けなかった事がここから脱出するための大きな不安要素となるのだが……



「はっ! ふん! 秘奥義……超熱血爆裂蹴ちょうねっけつばくれつしゅう!!」



 ただの蹴りにも仰々しい名前さえ付けてしまえばそれっぽくなるだろうと願いながらも、毛皮に傷をつけない様になるべく加減して討伐する



「これで五枚目……念のためにもう一枚くらいは欲しい所だけど……もう見当たらないか」


「一般の兵士でも狩りやすい事から素材自体は流通している魔物ですからね」


「なんだぁ……それならどこかで買ってくれても良かったのに……」


「あの人嫌いなシシドさんが出来るとは到底思えませんけどね……」



 依頼主に対して他人がとやかく言う事でもないかと無理矢理納得するも、そこそこ長い往路の事を考えると恨み言の一つでも言いたくなってしまう


 それでも依頼をこなせた事の安心や、初めてのダンジョン探索を終えた満足感と共に来た道を引き返している最中にヒイロの目と耳が警鐘を鳴らす



 "さっき通った時とは明らかに違う"



 その正体は目には映らず、耳でも感じることは出来ず


 まるでこの場に透明人間でも存在しているかの様だった



「マリアさん気を付けてください……誰か居ます」


「だ、誰かって……魔物じゃないんですか?」


「分かりません……でもこれは人の形をした……来る!!」



 肌で感じられる空気を裂く衝撃に供え、マリアを庇ったヒイロだが諸共吹き飛ばされてしまった。


 轟音が洞窟内に反響し、ただでさえ正体も分からない相手の所在すら見失ってしまう



「めちゃくちゃだ……洞窟ごと崩れたらどうするつもりで……」


「俺はそれでも構わない──」



 耳元で確かに囁かれた言葉に驚き、マリアごと大きく飛び退くと目の前には確かに人が立っていた。


 その様相は黒衣の鎧に包まれた騎士に似た姿で……


 "ヒーローと呼ぶに相応しい容姿だった"



「探したぞ、天地正義あまちまさよし


「ぼ、僕の名前をどうして……!!」


「あ、あまち……???」



 生前名乗っていた自分の名を知っている黒衣の男に、ヒイロは得体の知れない恐怖を感じた。


 あの頃と同じ自分に戻ってしまうのが怖かったのか?はたまたどこか空想の延長線上と思っていたこの世界に、見知った質感が生まれる事への嫌悪からか?



 前腕部に折り畳まれていたブレードを起こし、一直線に向かって来る黒衣の騎士を制すには拳を交わすしかないらしい。



 想定外の事態にも関わらず、ヒイロ=ブライトネスの胸中に興奮とは別の火が灯っている事は後ろで見守っているマリアでも伺い知れるほどだった



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