#0 超転生
天空から降り注ぐ巨大な光の柱が街を照らす
『アマテラスとは天を照らすと書くそうだが…』
『やはり支配とは地を照らせばこそか』
背中から生える光輪は高速で回転しその勢いのまま射出され、街にそびえ立つビルの数々を切り裂き地面には瓦礫が降り注ぐ
逃げ惑う人々を見下す光輪の主は神か悪魔か?
その神々しい姿とは裏腹にとても救いの手を差し伸べに来た存在とは思えない
空から降り注いだ光の眩しさに反して空は夜でもないのに暗雲が立ち込め、まるで"彼の者"によって陽の光がすべて奪われてしまった様だった
『聞き及ぶ以上に人とは愚かしき存在だな──』
そう言いながら切り崩したビルの瓦礫に手をかざすと触れる事も無く宙を舞った
『"これ"が貴様らを守ってくれるとでも思っていたのか?』
逃げる人々の背中目掛けてその瓦礫を投げつけると、大きな音と共に沢山の人が下敷きになった事をその下から滲んでくる真っ赤な液体が物語った
すぐ近くで一緒に逃げていた筈の人物が消えてしまった少女は呆然として現実を受け止められないでいる
「ママ…ママどこ…?」
声は返って来ない。愛する母との別れなどまだ小さな少女には理解も出来ず、そして理解する間などこの空間には存在しなかった──
『人の子が命を拾ったか…』
一瞥くれると再び切り取られたビルを宙に浮かし次は少女ただ一人を目掛けて投げ付けんとした
その時、降り注ぐ光の柱が割れその中から"黒い瘴気を纏った人型の生物"が現れた
"ソレ"は悠然と腕組みをしながら足から噴き出る"緑色の気流"に乗って宙に浮いており、首からは長い"桃色のスカーフ"をなびかせ光輪の主を睨みつけている様に見えた
背中には"青色の刀"を背負い、組んでいた腕を解くと"体の目の前で合掌した"
次の瞬間目の前には"星形の黄色い魔法陣"が現れ"ソレ"はゆっくりとその方向に歩いて行く
「"超転生"」
ただそれだけを呟くと体に纏っていた瘴気は消え失せ"真っ赤な蒸気"に身を包んだ般若の怪物が姿を現した
『"悪しき人の子"がよくもここまで──』
言い終える前にその顔を般若の拳が捉えていた
空気が破裂する音と共に天空に弾き飛ばされる"彼の者"を足からのジェット噴流で追いかけると今度は背中の刀を抜き胴体を串刺しにする
『ここで死ぬか人の子』
「"正義"だ覚えておけ──」
蹴り飛ばしたと同時に体の前で大きく腕を開き、再び合掌をすると両の手から鳴り響いた大きな破裂音と共に念じる
「"南無三砲"」
体に食い込んだままの刀からは強烈な光が浮かび上がり、次の瞬間には大きな爆炎が上がる
煙の中から投げ返された刀を避ける素振りも見せずに二本の指で受け止めた般若は大きく息を吸い込み、再び目の前の対象を睨みつけた
『神の前に立ちはだかるとは愚かの極みだな』
「"正義"の前で悪事を働くとは愚かの極みだな」
逃げ惑っていた人々は自分達を殺そうとする者の前に立ちはだかった救世主の彼にも、これだけは言っても良いだろうかと戸惑っているのだが…
この"正義"を名乗る男の方がどう見ても悪者の風貌だった──