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第六十八話 不幸の手紙

「それでは本日の依頼のぶんデス」

「まあ所長さん入院したんですねえ」

「そうなんですヨ、その間の所長がワタシです」

「妹さんも手伝ってくれてよかったね」

「ははは……」


 輝夜が本来手渡すはずだった依頼の証拠品は全て、金糸雀に代表を任せた。

 輝夜は偽名を名乗り、輝夜の妹として存在していた。

 呪われたのだと判ったのは、吉野が来てからだった。

 吉野にも解けない呪いで、呪いの関係性から金糸雀は関係ないのだと判った。

 依頼人が帰還してから吉野が応接室に入ってくる。

 呪いを解いてくれてから部屋で仮眠していたのだ。吉野は幼さゆえの大きな瞳をじっと見つめ、両手で顔を抑えた。


「変な趣味に目覚めそう」

「吉野どうしたんだ」

「いや、ロリコン趣味なんて俺ないはずだったんだけどな」

「そのまま持ち合わせないでいてくれ。金糸雀、これしまってくれ。とどかない」

「マってね、先生」


 金糸雀は輝夜を抱きかかえると、戸棚に近づけ輝夜へ物を締めさせた。

 金糸雀の存在を吉野は疑うも、今は一緒にいるしかないのだろう。

 何より輝夜が見棄てないと決めた人物をどうこうできる吉野ではない。

 となれば、輝夜が知らない間に金糸雀が何者か調べるくらいしかできないのだ。

 

「怪異なのは判るんだけどな」

「そうデスネ、人間である感覚はないです。人間ならもっと。もっとこう」

「もっとこう?」

「不細工のはずデス」

「カグヤ見てそれを言うか」

「先生を出すのはずるいです! 先生は規格外の畏れだから」


 金糸雀は美しい人を見ると、美しいという代わりに畏れだと言う。

 畏れという概念は美しさに通じるものがあるからだというのだが。

 そんなところは日本人的だな、と吉野は呆れる。


「ところで、これをみてくだサイ」

「なんだ、手紙?」


 取り出された薄い水色の封筒は可愛らしい形をしていた。

 ぴょんぴょんとジャンプする輝夜にでれっとした吉野は屈んで手紙を見せた。


「玄関に入っていたのデスが、差出人がなくて」

「そうか、カッターでも入ってない? な、大丈夫だな」


 吉野が電灯に透けさせれば、輝夜は手紙を奪い取りじっと見つめ手紙を開いた。


「おお、吉野。これは不幸の手紙だ」

「不幸の手紙?」

「そう、貴方は何人に手紙を送らないと不幸になりますってやつだ」

「陰湿デスねえ、やだやだ」

「問題は、この不幸の手紙が手紙を百人贈らないと開いた人が死ぬと書いてあることだ」

「そんな馬鹿なことありますか~」


 あっはっはと笑う金糸雀と違い、真っ青になる吉野。

 輝夜はよくないものを拾いやすい。

 これが本当にあり得ないとは言い切れないのが輝夜だ。

 吉野は慌てて手紙をのぞき込み、手紙に破邪の力を込めたが一切効かない。


「くそっ、何かが邪魔している」

「ええ? 信じるんですかあ?」

「お前、レターセットすぐ買ってこい!! なんて書いてある、ええ? 今日中!?」


 輝夜は手紙を読みふけって考え事をしている。

 吉野は慌てて金糸雀をパシリに使い、輝夜と一緒に筆記用具のセットを手に取った。


 *


「私は手紙を書かないぞ」

「どうして!」

「私が開いたんだからこれで死んだら私の責任だ。誰かが被る必要は無い」

「でも! ああ、くそ言い争う時間もない。カグヤ、俺は代わりに書くからな!」


 吉野は一通一通適当に載っていた住所を手当たり次第かき集め、一筆一筆したためていく。

 金糸雀も泣きながら吉野に強制されて書いていく。

 輝夜だけは子供特有の我が儘さが、若返りで蘇ってるのかふんぞり返っている。

 いやだいやだと頑固だ。

 百通書き終わり、あとは手紙を出しに行くだけだ。

 金糸雀は託される。


「じゃあこれを送り届けにいけ!」

「はあい、任せてクダサイ」


 金糸雀は手紙の束を抱えて、そろそろと郵便局まで一人で歩いて行く。

 その道中に――黒い影が金糸雀を追いかける。

 金糸雀は気付くと、走り出し。転ぶと手紙は全て側にあった河川敷の中に、風が巻き起こって沈んでいく。


 吉野に殺される。


 知り合ったばかりだが何となくただの鬼じゃないと察した金糸雀は、吉野を畏れた。

 一生懸命思案していれば、頭がぼんやりしていく。

 何だか――少し、ねむたいと。


「……あの子供を渡せ」


 黒い影が涎を垂らして金糸雀に声を掛けた。

 金糸雀は黙り込んで目を閉じている。

 黒い影は金糸雀の首を掻ききろうと、刃物で出来た腕を広げて抱きつこうとした。


 刹那、金糸雀は黒い影の真上に乗り。

 ステッキをとんと、黒い影の真上に置くと黒い影は破裂した。


「なる程、君の脈はここか」


 ――金糸雀の目の色は普段黒い色なのだが、このときばかりは金色で。


「駄目だよ。あの美しい人は、ワタシの花嫁(しんぞう)なんだ。次は死なせないんだ、()()を二人で叶えるんだよ」


 金色の瞳がくにゃりと細まり、ステッキが消えれば金糸雀の目の色が黒く戻っていく。

 金糸雀は瞬きすれば、足下に露散している黒い影。

 自分が何かしたのだろうかと小首傾げたが、ひとつわかるのは。


「もう心配は要らないってことデスねえ」


 金糸雀はほっとして、吉野に怒られずに済んだし、切手代をくすねた。


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