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第六十七話 雷龍



 雷鳴の響き渡る音はまるで祭り囃子のようだった。

 閃光はまるで祝福しているような騒ぎ方。

 疎ましがる人々の思惑とは裏腹に、輝夜は外を綺麗だと感じていた。


 墨染めの髪に、雀色の瞳を覆うのは長い睫。

 ばさりと人形めいた瞳の瞬きは雷ですら動揺せず、豪雨を眺めていた。

 テーブルの上には市松を捜索しているチラシばかり。

 チラシを見せれば誰もがこんな男を知らないと告げるし、輝夜にいかれてるのかと聞いてきた。

 チラシ見つめ、一枚をくしゃりと握りつぶせば嘆息を。


「お前は確かにまだ近くにいるんだよな?」


 市松からの手紙は大事に机の中だ。

 まだあの手紙の返事をできない。輝夜の中に情熱はない。

 それでも執着があった。


 輝夜はとびきりでかい雷撃に思わず外に視線を向ければ、ふとゴミ捨て場が目に入る。

 ゴミ捨て場によくよく見ればでかい男が棄てられていて、男に雷撃が直撃した様子でゴミが少しばかり燃えている。

 いつだったかの吉野を思い出した輝夜は外に出て、ほうっておけず男を拾った。

 男は重く、でかい図体で。背丈や重さは吉野くらいあった。

 ローズブラウンの髪の毛はうねっていて、短髪だ。瞳の色はまだ判らない。

 男はシルクハットに燕尾服という、どう見ても常人ならば関わりたくない姿だった。

 一見すると手品師の古いタイプにもみえる。


「まるで作り物みたいだな」


 ところどころ手術跡が痛々しい男は、何処かしら色味がつぎはぎにみえた。


 *


「まーた変なの拾ってる」


 ジェイデンはやってくるなり輝夜に呆れた。

 鯛茶漬けを作って貰い、するすると二杯目のおかわりを貰った頃合いに隣の部屋の異質に気付いた。

 覗き込めば男が眠っている。見た目からして人間の恋人でもないと気付いたジェイデンは輝夜を揶揄した。


「変なのとはなんだ」

「市松も吉野。俺だって変なやつだったろ。オレらは拾われたわけじゃねえけど」

「なかなか放っておけない気質のようだ、私は」

「だからいかれているんだろ」


 ジェイデンはこめかみに指をくるくると回した後にぱっと指先を開かせた。

 挑発的な仕草に腹立つも、否定はできない。輝夜は嫌がらせに鯛茶漬けへ一味をいれてやった。

 ジェイデンは、それを目撃するとあー!! と叫び、項垂れた。

 ジェイデンは一味など唐辛子の辛さが苦手である、わさびやからしはいけるが香辛料の唐辛子となるとまるで駄目のようだ。


「どの種族か見覚えないかね、見た目は君と同じ西洋だ」

「そうだな、目鼻立ちはとても堀が深かった。だがオレも別に全世界の怪異を知ってるわけでもねえのでな」

「役に立たないな」

「いい加減そのひろいくせやめないと滅ぼすぞ。どうあったってなんでそんな馬鹿なんだ」

「馬鹿は馬鹿としてしか生きられないのだ」


 ふん、と鼻息荒く輝夜はジェイデンを見つめ帰せばジェイデンは項垂れてから頭を掻いて、鯛茶漬けを渋々平らげた。

 食べ終わるなり、ジェイデンの携帯が鳴り響く。


「おう、おれだ。おお、判ったそっちに向かうわ。輝夜ちと帰るわ、また今度口説きにくる」

「盗聴器はいくつか取らせてもらったがな」

「駄目だよ、またつけにくる。オレの健気な楽しみなんだから」


 ジェイデンはじゃあな、と投げキッスをして帰宅していく。


 輝夜はジェイデンを見送ってから市松のチラシを手に取り、また配りに行こうかと思った頃合いに男が起きだして事務所をうろついていることに気付く。

 姿見の鏡の手前、月明かりが差し込み、じじと電灯が響いた。

 姿見の鏡は男を映さない。男は輝夜を見つめると、花開くように可憐に笑った。

 まるで恋した乙女のような笑みだった。金色の瞳が輝夜を映す。吉野と同じ類いの神秘さがあった。


「嗚呼」

 男は嗤って近づき、姿見の鏡に輝夜と並んで映る。


「ワタシの花嫁(しんぞう)だ」


 男は輝夜に口づけ――輝夜はその瞬間、十代の子供に若返った。


 *


 男はキスをした瞬間に気絶し、慌てて輝夜は支える。

 くうくうと眠る姿は無垢そのものだが、鏡を気にしていた輝夜はすぐに異変に気付く。

 輝夜の若返りに。

 どう見ても十五,六才の子供。下手したら乙姫と同じくらいの年頃の少女だ。

 若返った輝夜は誰もが絶賛するだろう美少女で、異常なくらいの見た目であった。

 ロリコンが簡単に近づけば、信者になる勢いのある神秘さもあり。

 不安定さがまた様々な者をそそるだろう。

 男は意識を取り戻し、輝夜と視線が出くわす。先ほどは金目だったのにいまは黒飴みたいに真っ黒い目だ。


「あれ、どちらさま、ですカ」

「私は佐幸輝夜だ、この探偵事務所の所長だ」

「こんなにお若い子が?」

「君がキスをしたら若返ったんだ。元に戻してくれないのか」


 輝夜は不服そうに尋ねれば、男は一礼をしてから首を傾げる。


金糸雀かなりやと申すデス、エエト、ワタシそんな力ないんですよ。間違いじゃないですか」

「……どういうことだ、君は何者だ」

「エエト……あれ? 思い出せ、ない。ワタシ、名前以外判らない」

「記憶喪失というやつか」


 金糸雀はぱちくりと目を見開き、頷いた。

 掌を確認してからもう一度輝夜にキスをする金糸雀、しかし変化はない。

 輝夜も口元をぐいと拭い、変化がないことに違和感を感じる。


「いったいどうなっているんだ……」


 

また連載再開しました、気まぐれに載せていきます! よろしくおねがいします!

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