第五十九話 手紙を読んでいる頃僕が憎いでしょう
夜中遅くまでレースゲームを楽しみ。コンビニを目指してこっそり夜中に外へ出る。
コンビニの灯りは気持ちを少しだけ和ませ、肉まんのショーケースやホットスナックのラインナップは心揺れた。
何となくの気分で、コロッケと紅茶、それからピザまんを頼めば袋を有料で頼み。受け取ると、袋を揺らし、手首に通してポケットに手を突っ込んだ。
まだ季節はクリスマスにもなっていない、なんと希有なことにクリスマスしか予定があいてないとのことで、クリスマスに村へ行く約束となった。
普通は片恋の相手とクリスマスとは人間文化であれば喜ぶところなのだろう、と思案しながら歩けば視線の先にある鬼の気配にびくりとした。
やけに殺気立っている、やっぱり怒られるだろうか、と市松は微苦笑する。
お前の気持ちも分かるよ、と慰めたい気持ちもありながら、市松は認めて動くしか無いのだ。この鬼のように、ひたすら庇護すると決めればいっそ楽なのかも知れぬが。
「激おこぷんぷんなのですか、吉野」
「……村には行かせるな、とくに今年は駄目だ」
「……ははあ、そのご様子、何か知ってますね? そうよね、過保護モンペのお前が知らぬ訳がない」
「一年見逃せ、そしたら輝夜は幸せになれる。お前も厄介な猿の幼なじみとの間に挟まらずに済む」
「ごめんなさいね、僕はもうあの狂った愛しい人を認めることにしたの。異質の望みを叶えたい、だから貴方との約束も終わり、短い青春お友達ごっこ楽しかったです」
「……カグヤを普通の人間に戻したいとは思わないのか」
「ええ。押しつけがましいから。そんな作られた正義に染まる着せ替え人形になれる方じゃないもの」
「相変わらず人を小馬鹿にしてくるな? うんざりする……いいか、あと少しで終わる。終わる所なんだ」
「だからってその間に先生のご両親が死ぬところを、二度も許すなんて僕の立場上辛いの。一度目は許してくれた、二度目は……ないほうがいい」
「俺はカグヤさえ無事なら良い、カグヤが笑う結末を用意してる。お前たち妖怪の動きは、全部それを台無しにしようって話だ」
「まあお前たちって他にも動いてるのね、それはそれは。用意された舞台なところ悪いけれど、多分あの先生だから台無しのが似合うと思うのだけど?」
「……お前となら、わかり合えると思っていた。まあ、所詮は妖怪と、神か。……カグヤのことは任せれば良い、お前は……休むと良い」
おおーん、と狼の鳴き声がすれば市松の周りを神使の狼がぐるぐる囲う。
真っ白に輝き周り狂う狼に市松は驚き身を固めるも、まずいと気づき。さっと抜けようとするが、抜けられず。
咄嗟にコートを翻し、中から日本刀を二十本現すと、二十本の日本刀達は狼へ斬りかかろうとする。しかし、狼が啼けば一気に日本刀たちは震えかしゃんと道に転がった。
「……そうか、神の遣いにはこの子たちは効かないってことか」
「日本刀は、同族だからな。神の側だ、お前に力を貸すことこそ間違いだったんだ」
にこりと無邪気に微笑む吉野に、市松は肩を竦めて外国人のようなジェスチャーをした。
狼がもう一度啼く頃に、市松の意識は徐々に揺らぎ……そのままではまずいというときに、いつの間にか現れた少年が日本刀を拾い。
同族だと宣言した日本刀でもって、吉野に距離を詰め、押し倒し。喉元に日本刀を押し宛てながら、馬乗りとなる。
「しっかりせんか市松。赤いのに負けるんじゃあない」
「……銀次様……」
「いやあやはりわしはお前が嫌いだなあ、吉野よ。お前のその、思想は、実に嫌いだ」
「……ようぬらりひょん、お前には借りがあったな?」
「ふふ、大将で無くなったわしに牙を剥くのはもう怖くないか」
「……情けない話だよな、カグヤを守ってる間に勢力図は全部猿田彦にいってる。……カグヤを使って何をするつもりだ、銀次」
「……なあに、わしはもう一度。たった一度見たいものがあるだけだ。さて、この場はこれ以上市松を攻撃するなら、首のない姿でカグヤの前にお見えする未来になるがよいかな?」
「それはまただいぶホラーで怯えられるね。人間はホラーが好きだけど、カグヤはそこまでだから遠慮しとく。だから退け、お前に乗られるなんてぞっとする」
吉野の言葉に市松と銀次は大笑いすると、銀次はよいしょと日本刀を鞘に収め、市松へ手渡しながら吉野から退いた。
吉野は喉を押さえ咳き込むと、やれやれと項垂れた。
「判った、言うことを聞かないんだな」
「聞く理由もないですもの」
「なら頼みがある、提案だこれは。俺とお前の妥協案だ」
吉野は銀次と市松に、全ての計画を打ち明けながら、妥協案とやらを話し込む。
朝方近くまで話し込み、朝焼けのピザのようなオレンジに染まりながら三人は頷いた。
「そういうことなら、判りました。確かに妥協案です」
「きっとそうなる、だから、もしも。その時は、そうしよう」
「あいわかった、わしが二人の約束を見届ける、わしもあの村へ用事があるからな」
「では内緒にしてくれよ、銀次」
三人の男は、顔を見合わせ其れ其れは覚悟を腹に宿す。
誓いの朝は、とても鮮烈で目に痛いほどの太陽だった。