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第四十九話 ゲームをクリアしたら




 一ヶ月ほどは何故か知らぬがやたらと安全だった。

 輝夜が安全なのを市松たちは知っていて、これを機会に遊んだり休暇にしたりしていた。

 その間も輝夜は大忙しに、やたら途切れない不倫調査の依頼を行って、カメラの大活躍にいそしんでいた。

 久しぶりに雨の季節になってから市松はやってきた。

 雨に濡れ身を震わせ、事務所へ入ってくると輝夜からタオルを借りる。髪や身体を拭きながら、市松は唸る。


「冬は終わったのにとても身が凍るほどの雨ですね、冷たかったのとても」

「この季節では珍しいかもね、少し空調整えるか」

「いえそれには及びません、これお土産にあげるのでお風呂だけ貸してくださる?」


 お土産に貰った物は、小さなキーホルダーゲームだった。

 遠い時代に流行った、パズルゲームをキーホルダーで遊べる仕様になった小さな液晶つきの機械だ。

 掃除していたら出てきたとのこと。

 市松から受け取ると、市松はそのまま風呂へ行き、輝夜はキーホルダーを見つめた。

 キーホルダーのスイッチをつければ、器用にすいすいとパズルは進んでいく。

 なるほどこれは面白いと、数々のパズルを埋めては消し、隙間なくびっちり消す天才を露わにする輝夜。

 やがて飽きたのでやめようとスイッチを切ろうとしても手がゲームから離れない。

 それでいて意識もやたらとゲームから離れず、これは困ったと輝夜は項垂れる。

 視線だけは移動できたので助けを求めるように、風呂の仕切り窓越しに声をかけてみる。


「市松、大変だ、いつものだ」

「ええ? さっきのそうでしたの? 待って、すぐに出ます」

「手からゲームが離れないんだよ、あと少しで出前がくるのに受け取れない」

「自力でなんとかしてください、ちょっと羨ましいです」


 すっかり拗ねた市松はゆっくりとシャワーを再び楽しみ始めた。

 輝夜は焦りながらわたわたとし、やがて呼び鈴にびくりと反応し慌てて扉へ向かう。

 玄関ではカツ丼の手渡しを今にもしようとしてる配達員。

 輝夜は悩み、なんとかゲームを囲う手の上に器用に載せ受け取ると、それを今度は何処へ下ろそうかと悩んだ。

 慎重にローテーブルに載せると、やれやれと息をついて、ソファへ腰掛ける。

 ゲームはほっときぱなしであったのにもかかわらず、その間も指先は動いていたのでクリアし続けてステージは30ほど向かっている。

 クリアしていくごとに変な事象も起こる、部屋の家具が勝手に移動されていくのだ。


 やがて風呂あがりの市松が、不機嫌そうに輝夜の前へ現れる。


「まあ、しかもカツ丼」

「いいじゃないか、昼飯だよ」

「まったく、しょうのない方ですね。地味に手から離れないのは困りそう、そんなのじゃ夕飯のパスタも作れない。勝手に動く冷蔵庫や本棚もあとあとの処理は僕ですものね」

「……なんとかしてくれたら作ってご馳走するよ」


 輝夜の言葉に市松は頷き、するっとゲームを市松が手にすれば輝夜の手元から離れる。

 市松はゲームを簡単に手の中で握り崩し、壊しきるとぱらりと事務所のゴミ箱へ棄てる。


「しかし今回は君の過失じゃないのか」

「あら、ばれました? うっかりでごめんなさいね」


 輝夜の言葉にくすくすと笑いながら、市松はゲームの画面、最後の液晶を思い出し唸る。

 最後に描かれていたのは確か、NEXTステージ hell とあったはずだ。

 ……まさか。あのままクリアしたら死んでいたとか?

 今はもう壊れてるからどうしようもない、さっさと忘れてしまおう輝夜も気にはしてない。

 市松は何事もなかったかのように、その夜はスープパスタをご馳走して貰うこととした。



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