第四十八話 過激強火同担拒否ガチ勢の応援
ジェイデンと市松はゲームセンターで、市松の得意なレースゲームをしていて、あっという間にジェイデンが勝利のエフェクトを手に入れたところだった。
ファンファーレと賛辞の言葉がジェイデンには響き渡り、市松の方には遅れて賛辞の言葉が響いた。
タイムをみれば歴然の差でジェイデンが勝っている。
「それで、三勝のオレから何を聞き出したいって?」
「もう宜しいです……」
すっかり拗ねてふてくされた市松に、ジェイデンはややこしい奴だなと呆れ、喫煙所に付き合わせればタバコを口にくわえ火を点けながら思案した。
はてさて何を要求しようか、市松はきっと己から旅立つ前に約束した母からの情報を聞きたいのだろうけれど。それも銀次が市松の味方となった今では、あまり役立つ情報でもない。
口にする必要さは感じないが、市松は何かと選択肢を常に幅広く持って決断したがる癖がある。その為に弱味を知っておきたいといったところか。
それならばと勝負に勝てば、と提案してみればジェイデンの天性のセンスが唸るだけだ。
市松はゲームに関すれば努力型、ジェイデンは天才型といった違いだった。
「お前は駆け引きが下手だよ、本当に」
「自分でもそう思います、ほっといて」
「カグヤの幼なじみはほっといていいのか」
「あれは仲良くなるように吉野と僕が手を組んだことですもの」
「そうじゃなくて。あいつ心がない。あいつは、心を奪われてるぞ。恐らく、林檎か苺、あの姉妹のどちらかに。親父からの情報だ」
「……詳しくお聞かせくださる?」
「詳しくも何も、雪山で遭難したことのある記録があるんだ。カグヤ絡みで、何事もなく帰ってくるって無理があるだろう」
「無事に救出されたんでなくて? ……厄介な方を、お勧めしたかもしれませんね」
「情報が中途半端な状態で選ぶからだ、幼なじみで仲良しだったからと選んだろ。調べ尽くしたと思っても三回くらい掘り下げればいい。あの姫さんに嫌われたくないから下手に遠慮が走るようになってるんだ、お前ら」
「流石現役ストーカーの言葉は重みが違いますね」
愉快そうに揶揄をしながら市松は自販機で桃のネクタージュースを買えば、プルタブを押し開け、濃厚な独特の甘みに喉が絡まり疲れが癒やされる。
思っていたより頭を使ったからか、甘みで疲れが少し軽くなった感覚がした。
ゲームセンターは暗いながらも、ゲームの証明でちかちかと微妙な明るさを保っている。
よくぞ人間はこれでいて目が悪くならないものだと感心しながら、市松は格闘ゲームを指さした。
「貴方は女性キャラのむちむちなのを選ぶんでしょう?」
「お前はどうせ動きの重い巨体キャラだろ」
「僕のウェイトが軽い分憧れるのですよ、次はあれです。平和的にぼこってあげる」
腕まくりをして意気込んでいた市松だったが、ふと呼び出し音が微妙に響いた。
振動で自分だとジェスチャーをした市松は、汚いものでも持つような手つきで未だに古い機種の携帯を使うと驚きを見せた。
「先生? 先生を攫った、ですって?」
どうにも察するに誘拐犯からの脅迫電話のようだ。
ただの脅迫電話でもなさそうで、身代金は要求されず、ただ場所を案内された。
どこに居るかを告げた後に電話の主は通話を切り上げた。
居合わせたジェイデンはしょうがない、といった顔つきで自分の乗ってきたバイクへと案内した。
「急いでいるんだろう、連れて行ってやるよ」
「あの人は本当に退屈しないかただこと」
「それを楽しむオレたちもまあ面倒な奴らだと思うぜ!?」
ヘルメットを被ったジェイデンと、後ろに腰掛けた市松はしっかりとジェイデンにしがみついてから、感想を告げた。
「とっても酔いますね、この乗り物」
*
あまりに乗り物酔いの酷い市松は、それともジェイデンの運転の荒さが目立ったのか、三回ほど道すがらで嘔吐の処理をしてはうんざりとしていた。
普段から乗り物に弱いわけではないのに、ジェイデンの運転はどうにも酔ってしまうものらしい。あれだけレースゲームは天才なのに、よくわからない仕様だ。
指定された場所は、鳥居が目立つ神社で新緑の中煌めいていた。
一歩市松とジェイデンが入れば、鳥居は千もの数ほど連なり異空間となった。
上下に階段と鳥居が連なり、変わった異様な空気を漂わせる。
現れたのは意識のない輝夜を抱えた、赤い髪の一本づのの鬼。
牙を見せ、真っ赤な瞳で市松へ愉快なものを見る目つきで見やった。
赤い鬼は背丈の高い、何処か陽気そうな雰囲気のする青年でもあった。
時代遅れな学ランに黒外套に、黒帽子にやけに高い下駄姿で、市松を見ると輝夜を虚空に浮かせ喉へするりと撫でた。
「こうして直接見ると感動するな、この献身は。わざわざ妖しどもが迎えにくるとは」
「その見た目じゃ吉野の知り合いか」
ジェイデンが横から口を出せば、にこりと愛嬌のある笑顔で赤鬼は笑った。
それだけでジェイデンは一気に不真面目な面持ちも、横からの茶々も噤んで黙り込んで震えた。
赤鬼は何かが異質だった。陽気そうでいながら壁を感じるし、愛嬌のあって人好きのしそうな雰囲気でありながらも、何処か作られた違和感を感じる。
兎に角、その陽気さには違和感があった。明るい笑みも、楽しげな声も。
「吉野とは縁があるが、それとは関係なく直接お前たちを見てみたかったんだ」
「そんなに有名なの、僕ら? いったいどこから知ったの」
「実況動画でな、ええとお前たちにわかりやすく言うと雲外鏡か。お前たちの話題で常に溢れてるよ、熱心に見てるんだ。人間世界実況で今一番熱い話題だ」
「下世話な趣味! あの妖怪そんな動画サイトみたいな使われ方してるんですか!?」
「人間世界の番組多くて楽しいのだよ、視聴数や使用者、お布施を稼ぎたいらしい」
市松の少しだけ苛立った言葉に、赤鬼は目をキラリと細めれば、その身をごうごうと赤い炎で燃やし、鳥居全てに火を点けた。
それでもその炎は決して暑くは無かった。
「……本当にそれだけ? ただの動画のファン? 信じられない」
「とても面白い劇なんだ、お前たちの遣り取りは。オレはお前の在り方が推しなだけだ。過激なファンだとでも思ってくれ。どうかお前の生き方だけは否定してくれるなよ。輝夜から生き様を取り上げるもよし、肯定するもよし。ただ……少しばかり、己の身を非力だなと自覚し助けてほしくばオレの名を呼んでくれ」
にこりと、歪な空気で赤鬼は笑った。
「金剛様、お助けをと。いつでも肩入れしてやろう、推しの活力になりたい」
炎の鳥かごで輝夜を包むと、一瞬で市松の腕の中へ返し、赤鬼は帽子を目深に被った。
にこにこと人なつこい笑みは最後に平然と立っていた市松の膝を、一気にがくがくと威圧感で震えさせると、赤鬼の手はふらりと揺れた。
白い革手袋で包まれた長い指が揺れれば、手先に白く光るハトが集い解き放たれるように市松達へ飛び立ち、市松達が群れの五月蠅さに目を瞑ってる間で一気に市松達を現世に送り届けた。
市松が呼吸を平然とできるようになるまで時間はかかり、はっはっとそれまで獣のように呼吸してしまった。
「応援してるから頑張り給えよ、献身慈愛の妖しどもよ」
余韻のように二人の脳内へ声が直接響いただけで、一気に頭が割れそうになる。
間違いない。
あれは、きっと触れてはいけない存在。金剛力士。
吉野が端くれだと感じるほどの、強大な神だ。鬼という姿でさえ、仮の姿である可能性もみえる。判りやすく吉野の世界の者であると示すための。
もしかしたら吉野の師匠にあたる人かもしれない、神や仏は弟子と師匠の成り立ちでできているから。
市松の腕の中で輝夜だけは汗も掻かずすやすやと眠っていて、一気に疲れた市松もジェイデンも顔を見合わせれば首を振る。
「とんでもねえものに出くわした……よく命があるわ、オレもお前もこいつも」
「今回ばかりはぞっとします、流石に僕も。よく不遜な態度が許されたこと!」
「多分、これは誰にも言わねえ方がいい。お前も軽々しく力をお借りしようとしないほうがいい、悪魔より怖いぞ。滅多なことではこっちの世界に来ない御方だ多分」
「……もう、本当に。気が抜けてお腹すいた、いなり寿司やけ食いしてしまいそう」
「しかしマジ笑うわ、神域の世界でのテレビ番組扱いか、輝夜のまわりを。だとしたらとんでもない、有名人出待ち押しかけのマナー知らずじゃねえか」
「混乱してるけど、要するに……僕の強火ファンってこと?」
「しかも同担拒否の地雷ガチ勢っぽい雰囲気だったな、あーーーー、すげえなんか笑えねえし、はっっずかしい!!」
今日のことは二人の内緒にしておいたほうがいいだろう。
そのお礼代わりに、輝夜へ暫く赤鬼の匂いが一月ほど染みつき、出くわした吉野は顔を歪めるしその後怪異に一月ほど輝夜は一切合切襲われることもなかったという。
匂いだけでとんでもない効力だった。