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第四十五話 睨まれた蛙

 それは珍しく市松のレースゲームに、輝夜が付き合って一位を取った日のことだ。

 一位で勝利のポーズを決めた輝夜は異様な音に気付き、探偵事務所のいつもの席にまで戻れば、窓辺には世にも気持ちの悪い光景が並んでいた。

 カエルがべたべたと窓辺に次々と張り付いていく。

 げえこげえこと鳴きながらウシガエルたちは窓辺に張り付いては垂れて落ちていき、またべたん!!!と音を鳴らし張り付いていく。


「ゲーム音痴の先生が勝つから……」

「せめて異常気象は雪か雨にしてほしいね」

「美しいのも僕は好きよ、桜吹雪とか」

「異常です警戒してくださいってときにそんな雅な景色になってたまるか」

「うーん、少しまずいかしら。そのうちドアが占拠されるかも。とりあえず戸締まりしておきましょう」


 市松と顔を見合わせた輝夜は頷き二手に分かれるも、輝夜は早速風呂場で不気味な光景に出くわす。

 おたまじゃくしからカエルと成長するのが普通だが、このカエルは分裂して増えていくらしく、風呂場から紛れ込んだカエルは分裂しては増殖していっている。

 瞬時に輝夜はまずいと判断し、風呂場の扉を閉めるも、このままでは時間の問題だ。

 トイレもチェックし戸締まりをしっかりとしていく。


 かたや市松も玄関や窓辺のカエルたちを決死に追い出していて、なんとか追いだしたものの玄関の扉にびたびたと張り付いている音がする。


「先生、ジェイデンに電話かけて至急来て貰うようお願いしてください」

「なんでだね!? あいつ一人でどうにかできる問題でもなかろう」

「きっとできますよ、あいつの血筋を信じましょう」


 言われるがままに輝夜は電話をかけると、ジェイデンが秒単位で電話に出てくる。

「おかけになった電話番号は現在ほにゃららでえす」

 秒速で出た割に巫山戯通すジェイデンの調子は相変わらずだ。

 長らく使ってなかった事務所の盗聴器は、以前駄目になったとふてくされていたのが最後の出会いだ。

 だというのに秒で出たと言うことは、どういう状況把握か方法は決まっている。

「君は……また仕掛けたね? 盗聴器」

「風呂場以外は契約にねえし?」

「この出歯亀、いや君は……ああ、そうか。判った市松の言いたかったこと、何かご馳走するから事務所に来てくれ」

「相変わらずの災難の女だな、前世の行いが悪すぎるんじゃねえの?」


 ジェイデンは呆れきった様子で、十五分くらいで着くと告げると電話を切った。

 十五分ほどは警戒しきれば助かる可能性が見えてきた。

 それまでの間にカエルはみっちりと窓に張り付き、玄関にも張り付き、風呂場からも既にぎしぎしと扉が軋んでいて限界を超えそうだ。


 やがて風呂場から扉が大破し、カエルたちが侵入してきた。

 カエルはげえこと鳴きげっぷのような音を響かせながら増殖しては室内を飛び回る。

 輝夜と市松は異常さを感じ取ると、大きな机に載り、足場を確保する。

 べたべたと分裂していく様は異様で、倍速で細胞分裂でも見ているような感覚だった。

 部屋にどんどんとカエルがブロックのように積み重なっていく、現実はパズルみたいに同じ方角を向いていても消えてくれない。

 何も感情を映していない瞳があっという間に室内に埋め尽くされた。


「食用のカエルもあると聞きますが、食欲沸きませんね」

「ただ存在するだけでこれだけの存在感は物凄いな」

「よくほら、マスコット用に可愛らしくしてるカエルがいるじゃない? マスコットになってもカエルって目が死んでますよね」

「おしゃべりが続くほど余裕な心が羨ましいよ!」



 カエルが徐々に膨れ、一気になだれ込むように輝夜や市松のもとに飛び込んできた瞬間、扉が開く。

 扉が開けばそこにはジェイデン。

 ジェイデンが一睨みすれば、カエルたちはあっという間に逃げていった。

 輝夜達へ飛び込もうとしていたカエルたちですら瞬時に方向転換していく。

 ジェイデンの開けた玄関口から全員綺麗にさっぱりといなくなっていた。

 気付けば窓辺に張り付いていたと思われるカエルも居なくなっている、残ってるのはカエルの粘液で汚れた窓と室内だけだ。


「……オレを呼んだ理由がわかった、蛇にはカエルってことか」

「食物連鎖でいえば君が勝つだろう?」

「だとしても食いたくないな、腹壊しそう。オレの希望としては……特上天丼だな!」



 ジェイデンの明るい笑みに、市松も輝夜も一気に気が抜け日常が戻ったのだと実感する。

 その日から輝夜は、レースゲームのプレイを暫くは避けたとか。




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