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第四話 無自覚嘘つきの執念

 嘘つきはいったい何を嫌うのか。

 正直者? 真実? 言い負かす人? 証拠を求める人?


 目の前でぺちゃくちゃ喋るセールストークを連発する押し売りレディを前にして、輝夜はそんな思案を巡らせた。

 内容は魅力的である、というより現実離れした内容である。

 買えば金持ちになれる、買えば有名人になれる、買えば結婚できるだの兎に角胡散臭いセットを詰め合わせにしてお歳暮にしたくらいのインパクトの内容だ。

 いったいどうしてここまで無限におしゃべりできるのかと、時計へ視線を巡らせてから、輝夜はそろそろお帰り願おうと相手へ目を眇めた。

 この手の人は、図星をつけばそそくさと帰ってはくれないだろうか、と輝夜は考え込むと押し売りレディに一言放った。


「詐欺なんじゃないんですか?」


 押し売りレディは最初ぽかんとしていたものの、徐々にわなわなと身体を震わせ怒りを纏わせた。

 そこからいかにその商品が素晴らしく、恩恵が凄まじいのか熱を籠もって話をし始められる。

 その喋りがトイレにも行かず、食事もせず、昼の三時から夜の九時までひたすら続いたあたりで、いつものやつだと連想した。


 これはよくないものに、憑かれたなと。


 押し売りレディは帰宅もせず、睡眠も取らず、生活全てなげうって、いかに素晴らしい商品か輝夜へ捲し立てた。

 目の色は濁っていて、何処か胡乱な瞳をしているのにきらきらとし狂気じみた色をしている。

 これではよっぽど吉野の目の方が、物の怪とはいえ純粋で好感が持てる目つきだった。

 一向に見かけなくなった吉野だが、今でも時折花は届いてくる。

 それを揶揄して市松は吉野のことを「花まみれ天使」と花の通販店の店名で呼んで貶すが、悪い奴ではなくおもうのだ。


 少なくとも目の前で、押し売りしようと三日三晩捲し立てる狂気じみたレディよりは。


 嘘つきと否定したことでプライドに触ったのかなと疲れに憑かれた思考回路で、ソファーに座っていると市松がやってきた。

 市松は未だに捲し立てている押し売りレディをまじまじと見つめてから、疲れ切った輝夜の顔を見て呆れを見せた。

 アイコンタクトで「何とかしてくれ」「いなり寿司」の遣り取りをすれば、押し売りレディに市松は話しかけた。


「素晴らしい商品なのですね、ところでこの小石見てください。河原で拾ったのですが、これを拾ってから家族は死に、親戚も不幸な目に遭い、フィアンセも借金を背負い夜逃げしたんです……」

「えっ、それは大変ですね、でも此方の商品を買えば……」

「此方の石、でも使い方によっては邪魔な人を殺せるって気づいたんですよ。たとえば、友人を困らせる人とか……」

「私は困らせてなんかいません!」

「ええ、そうですね、貴方は困らせてない。だからこの石にちょっと願ってもきっと無事なはずですよね? 不幸な目になんか……あわないはずですよね? 嘘つきを、殺してくださいって願っても」


 間近で見つめた市松に威圧されたのか、押し売りレディは脱兎で逃げ出した。

 来たときはあんなに五月蠅かったのに、一言も喋らず逃げたのだ。

 痛快なその光景に、拍手を惜しみなくすれば市松は笑った。


「嘘つきには嘘つきの自覚がない人と、ある人がいるのですから。ほんの少し仄暗い気持ちを押せばいいんですよ。嘘を適当についてね。嘘つきの言葉はまともに相手にしなさんな、時間の無駄だ」


 三日三晩居着かれた輝夜にとってその言葉は、今までのどの説教より頷けた。



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