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第三十二話 存在価値と合わせ鏡



 目を覚ませば、喉が渇く。

 夢心地で輝夜は、夜中に鏡を見つめる。そう、たまたま運悪く、その時刻が三時で。

 なおかつ家具の反射で合わせ鏡となっていたことが切っ掛けで、輝夜は鏡に招かれる。

 気付けば、鏡の中から外を窺っているような体感だった。

 鏡の内側の世界から外に出られない。鏡の内側が異様な目眩のするような景色で、集中して見ていられないものだった。


 鏡の内側から、外の輝夜の先ほどまでいた室内が映り込んでいて、そこにむけて拳を叩いてもびくともせず。

 そうだ、と思い出して手首のブレスレットを使おうと思った輝夜は手首に触れる。

 手首に触れれば日本刀が現れぴょんぴょんと輝夜の周りを子犬のように跳ねてから、手元に静かに収まった。

 これで鞘ごと殴りつければどうにかならないだろうか、と思案したものの。

 直前で輝夜は無性に嫌な予感がし、咄嗟に手をずらし、別の方角へ下ろした。


 正座で姿勢を正し、さてどうしたものかと腕を組んで悩ませる。

 肝の据わった輝夜は朝になれば誰か気付いてくれるだろうとそのまま眠ることとした。

 日本刀はそのうちブレスレットとして収まり、すやすやと眠る。


 やがて声をかけられて目が覚める。

 鏡越しには市松だ。


「先生、そこにいるのでしょう」

「やあすまないね」

「まったく貴方というものは。合わせ鏡になっておりました、そこの家具が。いけない時間に通り過ぎましたね?」

「この鏡を割れば出られるかなと思ったんだがね」

「……やってませんよね? やってないならやらなくて正解、二度とこの世に戻れる出口を手に入れることが出来なくなるところでしたよ」


 いつもの流れであればこのまま市松が助けてくれそうだ、と思ったや刹那。

 鏡に映り込んできたのは、銀次だ。

 銀次はにこやかに笑って、鏡を軽くこんこんと叩いて強度を確かめた。

 なるほど、確かに鏡の中だと唸っている。


「輝夜はトラブル気質かね」

「そのようです」

「だから敬語はいらんだろ、わしとお前の仲なら。たすけんぞ」

「わ、判った、判ったから助けてくれ」

「簡単だ、任せろ。鏡よ、頭が高い、わしが誰だと思っておる? ぬらりひょんぞ。お前も妖怪なら、わしの言うことを聞け。その女を渡して貰おうか」


 銀次が告げて銀次の手が、鏡を通して入ってくると輝夜はその手を取った。

 瞬時に輝夜はこの世に戻り、市松は何かぽかんとしていて、銀次はゆっくりと輝夜を引き寄せた。

 市松が助けるよりも手早く簡単に事件を解決し、市松は安心と寂しさを覚える。

 銀次はそんな市松に気付いたのか一瞥くれてから、輝夜に笑いかけた。



「おお、お前の背丈だとちょうど胸がわしの顔にあたるな」

「どすけべだな君は」

「動じない可愛くないやつだ。そうだな、わしは芋けんぴでいいぞお礼は」

「判った用意しておくよ、どうした、市松?」


「……いいえ、イイエ何も」


 市松はすぐさま狐面を被り直し、用心深く銀次を見つめている様子だ。


 輝夜にはこの不思議な空気は掴めない。

 銀次は輝夜の手を引き、そのまま応接間まで戻った。


 黙り込む市松を見て、輝夜はふと思い出す。


(そういえば市松が周りを頼ったところも私はみたことがない、似ているのだろうか。頼られないというのは存外寂しいのかも知れない)


 輝夜は市松の心寂しさを感じ取ると、手をさっと差し伸べる。

 市松は瞠目した様子で、首を振り、ぺしんと手を叩いた。


「呆れてるだけです、何の心配もいりません」


 本当に心配は要らないのだろうか。

 それならば何故、手を差し伸べただけで心配していると伝わったのか。


 輝夜は小首傾げるも、銀次があまりにしつこく芋けんぴを連呼するものだから、要らぬと言われた心配は放り捨てることとした。

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