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第二十話 壁の外側にいる寂しい青鬼

 鬼と人は相容れない。

 本来は捕食者と、その獲物だ。

 現代において数が逆転してる為に、捕食されないだけでその関係性は変わらない。

 羊を狼が守ろうとすれば異端だと、指を差されるのがオチで中々理解はされない。

 吉野もその自覚はあり、だからか輝夜に関してはどうしても、外側から見守りつづけていた。

 いつも見張り、いつも気にかけ。必要ある時以外、なるべく深くは関わらないようにしてきた。

 吉野は輝夜を信頼していないわけではない、ただ、鬼だという種族を知っていた。

 昔から桃太郎であるように、鬼と人は相容れぬ。


 だが、吉野はほんの少し、寂しさを感じていた。

 それは、決して外側からしか関われない男の、寂しさだった。

 誰しもがパレードを眺めていたいのではない。

 パレードで演じる仲間に、吉野はなりたかった。


 その日は雨で、やたらと気怠い日だった。

 輝夜の事務所に向かう道中で、女性に道を聞かれた吉野は、まさか鬼なので知りませんと答えるわけにもいかず。

 道案内をしながら、焦っていた。

 鬼だとばれるわけにはいかない、鬼だとばれたら怖がられる。

 吉野は愛する人間達に、怯えられることを非常に怖がっていた。

 輝夜に敵意を向けるものならまだしも、輝夜に対して敵意がない普通の凡人に対して嫌われたくは無かった。

 吉野はできるだけ牙や、瞳の色が見えぬよう俯いて、言葉少なく道案内をしていた。

 案内し終わると安堵できたのに、何度か女性と巡り会うことが多かった。

 やがて女性はいつものお礼にと小さなプレゼントを抱えて、吉野に好意を抱き待つようになった。


「お兄さん、いつも有難う御座います、よければ……お名前を」

「そ、の……俺は」


 吉野は人から好意を貰うのは、慣れていなくて。

 心から嬉しいと同時に悲しかった。

 目に見えた落差が見える。これからすぐに嫌悪をむき出される、好意の目との落差が。

 戸惑って言葉を濁していた。



 しかし、願いも空しく。

 この日も雨であったのに途中で空が晴れ、ふと天を向いた瞬間帽子が落ち角が現れる。綺麗な青い髪に埋もれ、さら、と目に見える。

 それだけではない、天を向いたことで、美形ながらも異様な金色の目に気付かれた。


「きゃあああ!!! おに、鬼!! 化け物!」

「なに、もしない、よ……! 落ち着いて」

「触らないで、いや! 殺さないでください、お願いします、見逃してッ!! 騙していたのね、食べようとしていたんでしょ?!」

「……ッ違う」

「いやああ、近寄らないで化け物おおお!!!」


 女性は親切にして貰っていたのにすぐさま怯え、好意を翻し逃げ出した。

 あれは、畏怖の眼差しであった。嫌悪であった。

 向けられていた好意は一瞬で転換されて、吉野はそれを責める気持ちもなかった。

 そりゃそうだ、としか思えなかった。

 雨の雫を頬に残しながら、逃げ出された背を吉野は見届けると唇を噛みしめて、事務所へ走り出す。


 改めて吉野は、ぼんやりと自分が鬼である自覚をし、そのまま輝夜の事務所に入る。

 輝夜の様子をこの目で見るためでなく、自分が輝夜に癒やされたかった。


 事務所に入れば輝夜は、レースゲームしている市松を放っておいて、仕事に取りかかっている。輝夜は最近在宅の仕事も少しだけ始めた。

 自分の、立ち入れない領域が、吉野には見えた。


「吉野、どうしたね、悲しい顔をしている」

「落ちていた飴玉でも食べて、腹でもくだしたんじゃないんですか」

「お前じゃあるまいし」

「まあ! 先生ったらとってもいけず! この間もそうよ、意地悪だ最近」


 軽口をたたき合う二人。妖怪と人間なのに、気易い関係の二人が羨ましくて、吉野は少しだけ立ち入ることが難しかった。


「帰るよ」

「きたばかりじゃないか」

「いいんだ、顔を見に来た」


 吉野は、晴れた空の中、明るい天気の中しょげて帰って行く。

 自分は明確に、ゲスト。外側の住人。吉野は、そう思い込んでいた。

 そうあらねば、ならなかった。

 人と鬼、人と神、その両方は境目を曖昧にしてはならないから。




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