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Re:play  作者: 静 霧一
3/4

第参話 寝言

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Twitter:@kiriitishizuka


 

 蒸し暑い夏の日、7月4日の金曜日。


 私は朦朧とした意識の中、電車を待つ駅のホームに立っていた。

 昨夜はあまり眠れていない。

 いつからこんな不眠症に悩まされるようになったのだろうか。


「あぁ、マユリのせいか」

 ふと、親友だった人の名前を呟いた。


 マユリとは中学生の時からの友人であった。


 お互い、同じ芸能人が好きだったというだけで意気投合し、いつのまにか仲良くなっていた。

 あの時は「永遠の友情」が本当にあるんじゃないかと本気で思っていた。


 そんな「永遠の友情」に亀裂が入ったのは、高校一年生になった時のことであった。

 夏休みも終わった9月に私たちのクラスに転校生がやってきたのだ。


「ヤマト」という名前の男の子であった。

 福岡からやってきたその男の子はサッカー部に入部し、たちまちレギュラーとなった。

 180センチの長身に爽やかな顔をした好青年で、学校中の女子生徒が彼を好きになっていた。


 私もその群衆の一人で、彼をいつの間にか恋心を抱いていた。

 そのことをマユリに相談すると、彼女は少し困ったような顔をして、「私も……好きなんだよね」と吐露された。


 そこからというもの私とマユリの仲は同じ恋心という絆で強く結ばれた。

 だが、その3か月後、何がどうなってこうなったのか、「ヤマト」くんは私に告白をしてきたのだ。

 私は気が動転して、「無理です!」っていって断ってしまった。


 それからというもの、「ヤマト」くんは何度も何度も私にアプローチをかけてきたが、自分の好意が伝わってしまうのを恥じらい、彼を避けていた。

 普通はそれで嫌われたと思うはずなのだが、彼は粘り強いというかしつこいというか、私がついに根負けして付き合うこととなった。


 それからは幸せな日々が続いた。

 1日1日がこんなにも満たされる感覚を初めて知り、学校へ行くことがとても楽しいとさえ思えた。


 だが、それと同時に私の身の回りには不可解なことが起き始めた。

 最初は筆記用具の中の消しゴムがなくなるというぐらいの些細なことから始まった。


 その時は、どっかに落としてきたかなぐらいにしか思っていなかったが、それは次第にエスカレートしていき、上履きの片方がなくなっていたり、ノートがなくなっていたり、体操着がハサミでびりびりに切り裂かれたりしていた。


 私はいじめられていた。

 いじめられる原因が私には思い当たらなかったが、ある日の放課後、私の机に落書きをする複数人の生徒を見たことですべてが判明した。


 今までのことをしていた当事者が「マユリ」だったのだ。

「なんでこんなことの!」と問いただしたが、理由は簡単で「あなたがヤマトくんと付き合ったから」と捨てるように言った。


 恋というのは時として人を狂乱させる。

「恋は盲目」なんて言うけれど、それは聖人のような善にも悪魔のような悪にも転ぶ。


 それからというもの、いじめはエスカレートしていき、学校中で私のありもしない悪い噂ばかりが立つようになり、とうとうそれは「ヤマト」くんの耳にまで届いてしまった。

 どうやらそれは私が援助交際をしているという噂らしく、彼はがなり立てるように私に詰め寄った。


 私はそんなこと知らないと何度も否定したものの、これを見てみろと、携帯の画像を突き付けられた。

 そこにはコミュニケーションアプリのスクショ画面が表示されており、私と思われるアイコンと、誰かも知らないアイコンの生々しいやり取りがされていた。


 まったく身に覚えのないものの、彼はそれを本気で信じているようで、もはやそのスクショ画面を真実として疑いすらしていなかった。

「誰から送られてきたの?」というと、彼は「君の親友のマユリだよ」と答えた。


 それ以降、私は彼と話をしていない。

 何度もメッセージを送っては見たが、それが既読になることは一向に無かった。


 私は絶望し、毎日のように不安と戦った。

 大学進学を考えていた私は、学校推薦をもらうため、必死になって行きたくもない学校へと必死に登校した。


 私が登校するたびに、どこかひそひそと私の悪口を言っているように聞こえ、私は休み時間にたびたびトイレに行っては、胃の中のものがなくなるまで吐き続けた。


 そんな光景を見られたのか、いつの間にか私のあだ名は「ゲロ子ちゃん」となり、ことあるごとに影でそのあだ名を呼ばれるようになっていた。


 私はもう限界に達していた。

 来る日も来る日も愛する人を失った喪失感と、友情を裏切られた復讐心に苛まれ、いつしか寝ることさえも奪われてしまった。


『まもなく通勤快速新木場行がまいります。危険ですので、黄色い線の内側までお下がりください』


 駅にアナウンスが流れる。

 ふと、私に強烈な眠気が襲った。


 このまま前に進めば危ないことだってわかっている。

 だけど、死ぬ前に「好きな人取られたからつい」なんて言い訳するのかっこ悪いじゃん。


 なんかそれじゃ、私が負けたみたいだし。


 だから、そのまま「少し眠くて」って言い訳するほうが少しは気が楽かな。

 私だって少しぐらい休みたいもの。


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