第68話 帝国の危機
僕は眠っているところを無理矢理起こされ、今はエクレール家の書斎に来ている。
今いるメンバーはセイラさん、マリアーナさんにクルル、そしてクリストファーさんと僕の合計5人だ。
そこに、少し遅れてガストンさんが1枚の紙を持って書斎に入ってきた。
「皆いるようだな。城から急遽知らせが届いた。これがその全貌だ」
ガストンさんは持っている紙に魔力を込めた。
すると、髪から文字が浮かび上がり、僕達の全員の前にその内容が表示された。
「……本当なの? お父様……」
「ああ――残念ながら本当だ。今度は帝国が存亡の危機に瀕するらしい……」
代表してマリアーナさんがガストンさんに確認を求めるが、本当らしい。その内容をざっくり説明すると、大量のドラゴン達が帝都に向けて進行中。
西の山脈にいた飛竜たちもそのドラゴンの群れと合流し、約15万の群れに膨れ上がったとの事だ。
「国としての対応は、どう対処するおつもりですか? お父義上殿」
「非戦闘員は避難し、戦える者はドラゴン退治を行う予定だ」
「こちらの戦力はどうなってますの? お父様」
「全部合わせても50万に届くかどうか……」
「そんな……」
敵の戦力が分からないが、一般的に飛竜を1体退治するためには兵士が最低10人必要と言われている。
西の山脈に飛竜が2万体いたと報告があったとの事だから、それだけで20万人の兵士が必要だった。
しかも――
「ねえお父様。魔物は飛竜だけじゃないんでしょ? 確認出来ている魔物はどんな奴がいたの?」
「ああ――飛竜の他に黒竜と黄竜、それと灰竜が確認されているとの事だ」
クルルの質問にガストンさんが答えた瞬間、部屋の温度が一気に下がった気がした。
「皆も知っての通り、色の名が付いた竜に関しては、1体に当たり兵を1,000人用意しても勝てないと言われている。それが3体もだ。
しかも最悪な事に、もしかしたまだ後ろに別の竜が控えている可能性もあるそうだ」
絶望的である。もしかして王国にいた人たちは、決戦の時までこんな気持ちでいたのかなと思ってしまった。
「セイラ。お前は使用人たちをまとめて避難の準備を」
「……わかりました。シーラ達と一緒に準備に入ります。」
「マリアーナとクリスは私と一緒に城へ出向く。よいな?」
「ええ、大丈夫です。緊急事態ですから」
「私も大丈夫です。非戦闘員ですが、恐らく関係各所への連絡や報告等で忙しく回るのでしょうね……」
クリストファーさんは城では文官のお仕事をしている。
戦闘力は全然無いが、彼ら文官がいないと国は回らない。絶対に必要なポジションの人だ。
「クルル。お前はセイラと一緒に避難しなさいと言っても、いう事を聞かないだろう。だからどうするか決めなさい」
「どうする? 選択肢があるの?」
「臨時で軍として雇われ、一兵士となって戦うか、冒険者組合も恐らく緊急募集を行うから、そちらで戦うかだ。
私としては軍にいてくれた方が目が届くからそちらの方がいいが、どうする?」
「――う~ん……ちなみにナガヨシは?」
「ナガヨシは今回の戦の総大将の方に行ってもらう。報告が正しければ、絶大な戦闘力を持っている事になるから」
「わかりました。僕は問題ありません。ところで何時行きます?」
「明日の早朝に私と一緒に作戦会議室に向かう予定だ」
「じゃあ私は冒険者の方に行くよ。もしかしたら知り合いとかいるかもしれないし。
それに私だったらお姉ちゃん達の軍と冒険者との橋渡しも可能でしょ?」
「そうか……わかった。好きに行動しろ――本当は軍で目の届く範囲で行動してほしかったんだがな……」
こうしてエクレール家の緊急会議は終了した。
翌日、僕とガストンさんは作戦会議室に向かった。
途中までマリアーナさんとクリストファーさんも一緒だったが、城に入ったと同時に分かれた。
クルルも朝早くからギルドに向かったらしい。
僕とガストンさんが作戦会議室に着くと、既に多くの人達が席に着いており、ガストンさんは迷わず自分の席に座り、僕はそのガストンさんの後ろに立つ状態となった。
そんば僕に対して、何人かの人達が視線を向けるが、僕はどんな人たちが今此処にいるのかを知りたかったので、その視線は無視した。
しばらくすると、皇帝が会議室に入室してきた。既に揃っていた人たちは全員起立し、皇帝に向けて一礼した。
そして、皇帝が席に着いたところで、司会役らしき人が宣言した。
「では、作戦会議を始める」
会議は混迷を極めた。まず避難民を何所に避難させるのか。そして他にも兵達の数、敵の規模、お金の事から物資の事まで沢山の議題が上がった。
しかし、僕にとってよく分からない話である。この帝国の組織体系とか分からないし、兵もどれだけ用意できて、敵の数も完全に把握できていない。
僕にできる事はただ敵を切る事だけだ。だから今の会議の内容は僕にとって重要ではない。
「して、勇者ナガヨシよ、お主の配置を決めねばならぬな」
皇帝が一言発すると、全員の視線が僕に集中した。
「報告ではお主は女神から特殊な力を与えられたと聞いた。どんな能力だ?」
皇帝は僕の事を知っているが、他の人達は僕の事を知らないみたいだ。恐らくガストンさんの部下の一人と思われているかもしれない。
――それにしても僕は勇者じゃないんだけど……
「はい。身体能力の向上と【剣使】という職業です」
「【剣使】とはどのような能力なのだ?」
「それは私から説明します」
僕が説明を言おうとしたところ、ガストンさんが横から説明に入った。
「【剣使】という職業は今のところ発見されていない未知の職業です。
そのため、いろいろと確認したところ、剣を持てば何でも斬れる能力と判明しました。
今のところ斬れた物は、上級魔物のアーマーライノ、そして我が家で保管していた魔鋼のインゴット。
さらに我が娘である、元魔法部隊副隊長のマリアーナの雷魔法を斬り捨てました。
一応私の魔法も試させていただきましたが、いとも簡単に私の上級魔法を斬りました」
ガストンさんが魔法を斬ったと言うと、会場内が騒めき出す。
どうやら本当に魔法を斬る事は誰も今まで成し遂げた事がない出来事らしい。
「そうか――ではナガヨシよ。お主には1人で遊撃をお願いするとしよう」
「陛下! 何を言ってなさる!」
「1人で遊撃とはどういうことですか!?」
僕が疑問に思っている事を、周りの人達が代弁して質問してくれた。
「報告ではナガヨシは身体能力が異常に高く、通常の兵ではついて行くことが出来ないと上がっておる。間違いないか?」
「はい。私の部下を複数人で一緒に訓練をしてみましたが、誰一人ナガヨシについていける者はおりませんでした」
ガストンさんの部下って、魔法部隊の人達だから、歩兵の人達よりも体力が無いんじゃないだろうか?
「ガストンの兵でもついていけないとなると、恐らくどの部隊に配属しても、その力を十全に振るえるとは思わん。だから遊撃だ」
なるほど。たしかに理に適っているな。
「お主には戦場を駆け抜けて、危ないと思った部隊を助けて欲しい。出来るか?」
「はい。可能と思います」
「それとな――可能であれば色竜を倒してほしいのだ。出来るか?」
そう皇帝が言うと、再び周りが騒ぎ出した。
無理に決まっているとか、正気ですかとか、いろいろ皇帝が言われているが、僕は迷いなく返事をした。
「はい。大丈夫と思います。最初に見えた竜を斬りましょうか?」
「そうだな。恐怖の対象が1体でも減れば士気は上がるだろう。頼むぞ?」
「はい。最善を尽くします」
こうして僕は自由に動き回れる事と、竜を倒す事が決定した。
次回からバトルが始まります。




