第65話 邪神戦争終結を編集
このお話で第3章終了です。
戦いは終わった。多くの犠牲を出したが、この国は救われた。
約100万もの魔物も群が襲い掛かってきたが、50万人中12万人の犠牲でこれを食い止めたのだ。大勝利と言っても過言ではない。
しかし、それでも10万人以上の犠牲者を出した。その中には筆頭魔術師であるウルス=ハイエルの名前があり、多くの者が悲しみの声を上げた。
かの者は若き頃から国を支え、今の国の礎を築いた人間の一人だ。特に魔法を多くの者に学ばせるために開いた学校は、彼の最大の成功と言ってもいい。
そんな彼に憧れ、または師事してもらい大成した人物は多い。それだけ人徳もあり、功績もある人物であった。
彼ら召喚者達がその事実を知ったのは、召喚されて間もない頃であった。
右も左も分からぬ世界で、一番最初に教えを受け、さらにいろいろ手配してくれていたのはウルスである。
魔法が使える栄治、正、凜々花、佳織、沙良、そして小音子も実はウルスに魔法を教えてもらっていた。
勇者一行全員の師匠。それがウルスであり、そのウルスが目の前で死んだ事実が、勇者一行に重く圧し掛かっていた。
彼らは敵将であるヘイドーラを倒した後、ウルスの亡骸を抱えて陣まで戻ってきた。
その姿を見た兵達は、敵将を倒した勇者の姿に歓声を上たが、ウルスの姿を見ると、一様に驚きの表情を浮かべ、ある者は悲痛な表情を浮かべ、ある者は涙を流した。
勇者一行は、陣の中央で待機していた、今回の戦の最高責任者である皇太子と騎士団長の元へ移動し、事の顛末を説明した。
皇太子達は、ヘイドーラを倒した話を聞いた時は若干興奮気味に喜んだが、ウルスが亡くなった時の話を聞くと、悲痛な表情を浮かべた。
しかし、その表情も一瞬であり、すぐさま真面目な表情に戻り、各部隊に魔物の鎮圧の連絡と、今後の動きについての話し合いが始まった。
その中で勇者一行のうち、正と佳織、凜々花の3人の魔法使い組は魔力回復の為待機を命じられ、栄治と光、小音子の前衛組は少しだけ休んだ後、残った魔物の討伐に行くように命じられた。
これは特に佳織と凜々花への配慮である。ウルスと特に接していた2人は、今は泣いていないが、無理をしている事は誰にでもわかるぐらい表情に出ていた。
それに本当に魔力を多く使ったのも事実であった為、とりあえず休ませておこうという判断である。正はまだ余裕があったが、2人のお目付け役である。
前衛の3人は、20分程休んだ後、直ぐに魔物の鎮圧のため、最前線付近へと戻っていった。
しかし既に多くの魔物が倒され、または海の方向に既に殆どが逃げていたため、少しの戦闘だけで終わった。
そして、全ての魔物がパプア平原から消え、後に残ったのは地形が変わった大地と多くの犠牲者、そして多くの魔物の死骸であった。
しかも残念な事に、武器や防具、その他にも使えるような素材を持つ魔物は共食い等でかなりの数を減らされており、残っている死骸はマーマン等の人型の魔物等が殆どであった。
幸いなことに、勇者一行が倒したシードラゴンやクラーケン、そして大海魔の死骸は残っており、それらの素材は有効活用ができる素材であったため、優先的に後方へ運ばれる事になった。
その際、彼らが倒した魔物を見せしめるため、王都に戻る際は大々的に討伐のアピールの為に使われる事に決定した。
***
――佳織side――
「ウルスさん……」
私は今、王都の街を歩いている。街は戦争が起きた事など嘘だったんじゃなかったかの様に、いつも通りの風景だった。
あの戦争が終わってまだ2日しか経っていないが、私の見える景色は今までとは全然違う見え方をしている。
今では、異世界だと思ってはいたけど、わかってはいなかった。
とんでもない魔物の群れ。沢山の負傷者。そして沢山の遺体――今まで元の世界で生きていたら絶対に見る事はない光景だったと思う。
その光景を見てしまったせいか、本当にここは私がいた世界ではなく、私の常識が通じない、思考が理解できないと警告し続けている状態だった。
そんな異世界でも優しくしてくれる人も沢山いた。一緒に魔法学校で競い合った魔法使いの皆さん。一緒に訓練に付き合ってくれた兵隊さん達。
そして、私に魔法の基礎や応用を教えてくれて、この世界の事を一番親身になって教えてくれたのは、他ならぬウルスさんであった。
そのウルスさんは先の戦争で死んでしまった。しかも私達の目の前で……それが酷くショックだった。
私は凜々花さんと一緒に回復しようと頑張ったが、沙良さんの様に強力な回復魔法なんて使えず、私達の目の前でウルスさんは息を引き取った。
その際にウルスさんから――
『申し訳――ありませ――ん。こちらの――世界の――都合に――巻き込んでしまって――せめてもの手助けに――なるかと――思って――貴方――達の――帰還方法を――調べておきました』
そんな事を言われた。凜々花さんと一緒に驚いたけど、ウルスさんは最後まで私達を気にしてくれていた。
残念ながら、その帰還方法についての詳細は聞けず、またどこにその情報を保管しているかも聞けないままウルスさんは亡くなってしまった。
その事実を知っているのは私と凜々花さんだけ。だから私は他の人達にもその事を知らせるため、今は正さんの家に向かっている。
もちろん、一番の目的は帰還方法についての共有だけど、純粋に正さんに会いたいという気持ちもあった。
今私は無性に誰かに甘えたい気分に陥っている。私が知っている人が亡くなったのだ。お世話になった人が亡くなったのだ。
だからなのか、今は正さんの傍にいたい。傍にいて安心したい。そう思っていた。
もう少しで正さんの家が見える。少しだけワクワクしながら最後の角を曲がった。
私は正さんの家の前に到着し、呼吸を整えてノックしようとした。
しかし、正さん以外の人の気配も玄関先にある事がわかり、様子がおかしい事に気が付いた。
もしかして誰かお客さんでもいたのかな? そう思ったので、玄関の様子が見える窓側まで移動した。本当にお客さんだったら、少し時間を空けて来ようと思ったので、どういう状況かを確認したかった。
中の様子を見ると、一人の女の子がいた。確か以前正さんの家で魔法を教えているって言ってた子だ。
まさか正さん、戦争が終わって2日しか経っていないのに、もう塾を始めたの? と驚いていると、正さんは女の子の視線に合わせるよに腰を屈め、彼女の顔を優しく撫で始めた。
私は魔法で身体強化の魔法、特に聴力を上げる魔法を使い、正さんから見つからない様に隠れ、話を聞く事にした。
「お疲れさまでした。きみのおかげで私も元気になれましたよ」
「せんせい、本当?」
「ええ、本当です。ユーリさんのおかげですよ。ありがとうございます」
正さんもやっぱりあの戦いで疲れていたのかと心配になった。それはそうだよね。だってあんな経験は私達誰も経験した事ないんだし。
精神的に疲れるのは普通だと思った。でも何で女の子が正さんの家に?
「ユーリさんは確か、明後日で10歳ですよね?」
「はい! もう10歳になります! 大人の仲間入りですね!」
「ええ、ユーリさんは立派なレディーですよ」
正さんはまるで、その少女を一人の女性として扱うが如く、顔から頭、そして首筋へを手を動かし、ついには服の中まで手を入れたのが見えた。
「(え!? どういう事!?)」
私は凄く混乱をしていたが、正さんは更に反対の手で少女の頭を掴み、そのままキスを始めた。しかも濃厚な舌を這わせるようなキス。
「(――何で!? 何で!? 何で!? ――キス!? 正さんが!? 10歳の女の子と!?)」
私はその衝撃的な光景から逃げ出すように家とは反対の方向へ走り出した。
何かの間違いだ――そんな筈はない――ありえない――そんな感情を浮かばせ続けながら、私は城に向けて走り続けるのであった。
***
――凜々花side――
あの戦いが終わって2日。あたしは今、栄治君と城の食堂で2人切りで話し合っている。
内容はウルスさんについて。もちろん悲しかったし、すごく泣いちゃったけど、そんなあたしの姿を見て、栄治君が頭を撫でてくれた。
その事だけであたしは凄く嬉しかった。今まで男の人の前で泣いてたりすると、殴られたり蹴られたりが当たり前だったから、あんな風に優しくされたのは初めてだ。
「つまり、ウルスさんは俺達の為に帰還方法を探してくれていたって事か……」
「うん……最後の最後までウルスさんにお世話になっちゃったね……」
あたしはとりあえず帰還方法に関しては栄治君に教える事にした。
個人的には還りたくないけど、もし栄治君還りたいと言った場合、あたしは栄治君の世界に付いて行こうと思っている。
あたしの世界にあたしを待っている人なんていない。なら好きな栄治君と一緒にいても良い筈だしね。
「どこに保管されているかは?」
「ごめんなさい。そこまでは聞けなかったわ……」
「そうか……でもウルスさんの事だ。恐らく自分の自室とか、執務室とかに保管されているかもしれないし、今度王様に許可を貰って探してみよう」
実はあたしだけ何所に保管されているかを聞いているのだ。佳織ちゃんは気が動転してて、尚且つ魔法で下半身ばかりに気が向いていたけど、あたしは違う。
ウルスさんから直接何所に保管されたかを聞いたが、あえて誰にも教えない事にしている。
だって早く教えちゃうと、栄治君と一緒にいられる時間が減るかもしれないからだ。
「それにしても、帰還方法か……最初に一緒にいた長慶君が言った言葉が現実味を増して来たな」
「そうだね――あの頃というより、今の今まで帰還について考えていなかったから、何とも言えないね」
「確かに」
そう言って2人で笑い出した。まさか一番還りたいと願っている長慶君ではなく、一番還りたくないであろうあたしが帰還方法の情報を手に入れているのだ。変な話である。
「他に誰が知っている?」
「さっき佳織ちゃんが正さんに伝えて来るって出かけたから、4人だね」
「わかった。一応光君には俺から言うよ」
「小音子ちゃんと沙良さんにはあたしから伝えておくから」
これ以上栄治君に他の女性が近づいて欲しくない。小音子ちゃんはあからさまに栄治君に好意を見せてるし、沙良さんが参戦してきたらあたしの負け確定じゃん。
だから接触させない。栄治君はあたしのモノになるんだから……
***
凜々花さんと分かれ、俺は光君を探す事にした。
とはいっても、彼が今どこで何をしているのかは分からない。
城に帰ってきたと同時に複数の女性に囲まれたかと思うと、そのまま消えてしまい、今まで全然会っていない状態なのだ。
他の人から噂が聞こえているが、あまりいいような噂ではない。
やれ「自分が一番活躍し、敵将を倒した」とか、「何万人もの兵の命を救い、その倍以上はいる魔物の群れに飛び込んで、沢山の魔物を葬った」とか、いろいろ自分から発信している様だ。
戦前に真剣な表情をしていたので、少しは私生活の改善をしたのかと思っていたが、変わらないみたいなのでため息が出てくる。
そう思っていると、前方から目的の人物ではないが、会いたい人が出てきた。
「沙良さん! 丁度良かった。今少し時間は空いてますか?」
「栄治さん、ええ、大丈夫ですよ。私も栄治さんに会いたいと思っていましたから」
俺は沙良さんと一緒に何故か沙良さんの部屋まで案内され、帰還方法についての情報を共有後、その部屋で一泊することになった。
戦後の興奮がまだ覚めていない状態だったのか、それとも部屋に入るなりいきなり着替えだした沙良さんの私服を見てしまったからなのか、原因は不明だが、その日俺は確実に沙良さんと寝たのであった。
という訳で第3章終了です。終わり方に賛否があると思いますが、これは第5章あたりの伏線となっておりますので、ご了承願います。
次の第4章は全て主人公サイドの話の予定です。少しだけ勇者一行も出て来るかもな状態です。
第4章も後半はバトル中心となります。
なお、第4章は来週の中旬頃にアップ予定です。その間にまた別の短編と新作を連載開始します。その関係で第4章は毎日更新ではなく、2日に1回更新となりますので、ご了承ください。
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