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第63話 VS邪神軍⑩/魔法具【デメンションカッター】

「聖女様! また負傷者が運ばれてきました! その数2000です!」

「わかりました。魔力ポーションを2本下さい。あと1時間前に来ていた負傷者は全て治療が完了してますので、持ち場に戻してください。早く戻りたいとこちらにも声が聞こえて来てますので」

「ハッ! 畏まりました」

「――ふぅ……」


 これで果たして何万人の負傷者が運ばれて来たのだろうか……1万人を超えたあたりから数えてない。

 私は開戦してから4時間、ずっとこの天幕で負傷者の傷の手当てをしているが、負傷者が減る事はない。


「いったい、あと何人ここに来るのか……流石に疲れたわね……」


 私の他にも治療をしている人達がいたが、1時間以上前に魔力切れで戦力外となっている。

 そのため、ここ1時間以上は私のみで治療をしているが、流石に効率が悪すぎる。


「いくら聖女の魔力が回復にも適していると言っても、限度があるわね……もうあと数本しかポーションを飲めないし……」


 魔力ポーションは短時間で複数本飲むと、ポーション中毒になり、最悪死んでしまう。

 個人差があり、魔力が多いければ多いほど飲める量は増えるが、限度がある。


「そろそろ本格的に何かテコ入れとかしてくれないと、これ以上の負傷者は受け入れないわね」


 まだ回復魔法が使える人達は魔力回復に時間が掛かるし、私の限界も近い。

 協会に保管していた魔力ブーストの魔法具は使い果たしたし、もう無理だと進言しに行くか……

 そう思っていると、天幕の外が騒がしくなった。もしかしてまた負傷者が増えるのかしら――


「おい、聞いたか! なんか魔物達がいきなり同士討ちしたり、元来た道に引き返してるらしいぞ!?」

「本当か! 一体何故?」

「わからん――どうやら勇者様一行が何かをした可能性があるってウルス様が言ってたぞ」


 それが本当なら、これ以上負傷者が出る事は減るかもしれない。

 という事は私も少しは楽になれる。そう思うと不謹慎にも笑ってしまった。


「どうなされました? 聖女様」


 どうやらその姿を護衛の騎士に見られてしまった。しかし――


「いえ、流石栄治さん達と思いまして。この状況下の中で何とかしてくれるなんて」

「そうですね。流石勇者殿、大活躍ですね」

「私も栄治さん達に負けない様に、頑張らないといけませんね」

「いいえ、そんなに無理しないでください! 貴方は十分に頑張りました。貴方に倒られたりしたら、嘆き悲しむ者が多すぎます……私もその一人です……」

「ありがとう。その気持ちだけで嬉しいわ。でも、もうちょっとだけ頑張りましょ? 貴方も手伝ってくれる?」

「ハイ! 喜んでお供します!」


 私は再び負傷者の治療を再開する事にした。さっきの話が本当なら、もうすぐこの戦争も終わるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きながら、新しい負傷者の治療を始めた。


 ***


 ヘイドーラの攻撃は止まらない。これは奴に送られている魔力の供給を断たない限り、勝ち目がない。

 そう思っていると、こちらに向けて氷塊が降ってくるのが見えた。

 その氷塊の何時がヘイドーラにあたり、奴の魔法が止まった。


「正さーん! 栄治さーん」


 声の方へ振り返ると、凜々花さんと佳織ちゃんがこちらに駆け付けてくるのが分かった。

 しかも何故か魔法部隊を率いていた筈のウスルさんまで一緒に付いて来ている。


「栄治殿! この辺から闇の魔法が発動されましたか!」

「ウルスさん! ええ、あいつヘイドーラから広範囲の状態異常攻撃が放たれました!」

「やはりそうでしたか。急に魔物が暴れだして、しかもそれが全体に広がってまして、魔物達の統率が乱れいる状態なんです」


 詳しく話を聞くと、どうやら全体の魔物達は、ヘイドーラ周辺の魔物達が操っていたようだ。

 そのため、ヘイドーラの魔法を食らい、統率をしていた魔物達が暴れだしたせいで、全体にその波が広がったらしい。


「そのため、魔法部隊に関しましては、継続的に魔法で攻撃を行う事になり、私はヘイドーラに関する情報をお持ちした次第です」

「あたし達はウルスさんの護衛として一緒に来ました」


 そう凜々花さんが言った瞬間、ヘイドーラが再び闇のボールを無差別に放ってきた。

 しかし、こちらは今魔法使いが4人もいる。奴が新たに魔法を放ってきた瞬間、ウルスさん以外の3人は防御魔法を展開し、奴の攻撃を防いでくれた。


 3人でヘイドーラの魔法を防いでいる間に、ウルスからヘイドーラの情報を共有された。

 奴は邪神の手下であり、目的は封印された邪神を復活させる事。その目的として多くの魔物を操り、様々な村や街を滅ぼしたと言われている。

 今回の遠征も邪神復活の為の行進だろうと推測されるが、奴の力を見る限り、もうすでに邪神が復活している可能性があるとの事だ。


「どうしたら奴を倒せるか、いい案はありますか?」

「ええ。教会に保存されていた魔法具を使います。こちらを」


 ウルスさんは懐から魔法具を取り出した。

 しかし、その形はなんというか奇抜だ――一緒に見ていた光君も何とも言えない表情をしている。


「この魔法具【デメンションカッター】を使います。これで奴の体を切り裂けば、邪神から送られている魔力の供給が切れる筈です」


 ――魔法具【デメンションカッター】――沙良さんに聞いたことがある。面白い形をした魔法具があると。

 まさかそれがこの危機を脱する武器になるとは思わなかった。

 大きさは片手で持てるサイズだ。片手で持つ用のグリップもある。

 刃の方は丸長の形をしており、ギザギザしている。グリップの近くには、まるでエンジンを入れるための紐のようなものもある。

 明らかにこれはアレだ。


「栄治さん。これってチェーンソーですよね? しかもハンドチェーンソー」


 光君が言うとおり、それは工務店とかで見かける事ができるチェーンソーであった。


「この魔法具は刃の部分と本体の部分の2つに分かれており、本体の部分に魔力を溜めこむことが出来ます。

 しかもこの魔法具は過去5年間未使用の魔法具であり、中には膨大な魔力が溜まっている状態です。

 そして、このレバーを引くことにより、刃が回りだし、相手を切り裂くそうです。

 恐らくこいつで切られれば、ありとあらゆる繋がりを断つ事ができる筈です」


 使い方から用途まで完全にチェーンソーだったが、これで奴を倒せる可能性が上がるなら四の五の言っていられない。


「となると、これは俺か小音子ちゃんが使うか? 光君だと魔力がほとんどないから使えない可能性があるし、3人には魔法で援護してもらいたいしね」


 そう俺が提案すると、ウルスさんは待ったを掛けた。


「私が使います。御3人方には魔法でそのまま援護をして欲しいという意見は賛成ですが、栄治殿と小音子殿にも道を開くための援護をしていただきたいのです」

「いや、しかし――」

「恐らく奴は人数が増えた事により、また更に魔物を召喚する恐れがあります。そうなると、栄治殿達前衛の方々も魔物に当たっていただく必要が出てくる筈……

 故に私が行きます。大丈夫です。この魔法具を最後に使ったのは私ですので、この中では一番的にかと思います」


 そう言われたら反論が出来ない。光君や正さんも難色を示しているが、他に手がないため、ウルスさんの作戦で行く事に決定した。

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