第55話 VS邪神軍②/英雄への道のり
とうとう連載は1カ月、通算話数は60話に到達しました。
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それは、人の心が折れるには当たり前であり、絶望を抱かせるには十分過ぎる光景であった。
魔法の斉射が止み、号令とともに魔物の大軍に突っ込んでいった兵達は、余りの魔物の数に突撃を止めてしまった。
無理もない。いくら魔法の一斉射で大量の魔物が倒されたとはいえ、まだまだ数十万の魔物が控えているのだ。
しかも相手は海の魔物であり、その姿はおぞましく、高かった士気も著しく低下していった。
「俺達……こんなのに勝てるのか?」
その呟きは恐怖を含んでいた。そのためか、恐怖は周りへと伝染し、最前列を走っていた兵達は魔物の前だというのに、武器を構えるのを止め、落そうとしていた。
その時――
「――だっしゃオラ!!」
そんな掛け声が聞こえたかと思うと、目の間まで迫っていた魔物を十数体まとめて吹き飛ばした戦士が現れた。
その漢は、まるで正拳突きをしたような構えをしており、漢の拳の先にはぽっかりと魔物の群れがいなくなっていた。
「どうしたテメーら! こんなところに突っ立ちやがって! 死にたいのか!」
そう叫ぶと、漢はさらに大軍の中に入り込み、その暴力を解き放った。
それはあまりにも強大な力であった。漢が蹴りを放つと何体ものマーマンやエビルオクト達が宙を舞い、拳を振るうと、とても固いクラブ種の魔物が弾け飛んで逝った。
「俺達は死にに来たのか! 喰われに来たのか! 違うだろ! 勝ちに来たんだ!」
周りの魔物を一通り吹き飛ばすと、別の場所に移動し、再び振るわれる暴力。
彼のこのわずか数秒の動きだけで、100体以上の魔物が葬られた。
「だったら戦え! 大丈夫だ! お前たちには俺が付いている! 勇者一行であるこの俺! 勇者よりも強い【闘神】百原光が付いている!」
光は拳に闘気を纏わせ、再び正拳突きをするが如く拳を突き出し、溜めていた闘気を前方に開放した。
放たれた闘気はすぐ近くの魔物達にぶつかり、それだけで50近くの魔物は一瞬で蒸発した。
「だから俺に付いてこい! 俺は絶対に勇者に――英雄になるんだ! 栄治さんでも正さんでもない! この俺が英雄だ!」
その言葉を聞いた兵士たちは、気が付けば震えていた。先ほどまでも震えていたが、それは恐怖からの震えであった。
しかし、今は恐怖を感じていない。なのに震える。それは何故か。
「行くぞお前等! 俺と一緒に英雄までの道のりをひた走るぞ!」
「「「「「「「「「「おおー!!」」」」」」」」」」
――武者震い。あるいは自分を奮い立たせるために震えていたのだ。
そうだ。俺達は喰われに来たんじゃない。その絶望を跳ね返す為に来たんだ。
そう自らを奮い立たせて魔物へと突っ込んでいく兵士達。
その姿を見て光は別の最前線へと駆け抜けていった。
***
「よし、この戦線はこれで大丈夫だ――次はあそこだな」
俺は今、最前線で戦っている兵士達への鼓舞を行うため、最前線をひたすらに走っていた。
このパプア平原はかなり広めの平原だが、一度に最前線に突撃できる人数は15万人程度らしい。
だから俺は戦場を駆け抜ける。俺の力で多くの人の士気を上げる為に――
「――やっぱり思った通りだ。最初にインパクトのある魔法で士気を上げるのはいいけど、もう一つぐらい大きなインパクトは必要だよな」
最初の部隊で俺の力の印象付けは完了した。この戦場は俺という最高戦力がいるから勝てると、兵達への印象付けだ。
ていうより、某TRPGで出てきそうな人ならざるモノがこんなに沢山迫ってきているんだ。いくらこっちも人が多いからとはいえ、潜在的恐怖感が働かない訳がない。
「案外、今回のボスって本当に外なる神とか旧支配者の可能性があるな! だったら少し面白いな!」
目の前には神話生物的な魔物がうようよいる。本当にボスがそれらであっても不思議じゃない。
「ここは俺が一番活躍して、一気に知名度を上げての英雄コースまっしぐらだ!」
そう言って、目の前にいた魚の頭をした魔物を殴り飛ばし、ついでに落ちていた槍を拾って思いっきり前方に投げつけた。
その槍は轟音とともに、前方の魔物達に当たっていき、それだけで数百体程度の魔物を葬る事が出来た。
「オラお前等! へばってんじゃねーぞ! 戦いはまだ始まったばかりだ! 俺に付いて来い!」
俺は先程と同じように足がすくんでいた兵士たちを見つけては激を飛ばし、周りの魔物達を巻き上げながら倒していく。
そうする事で俺という存在を兵士達全員に知らしめることに成功した。
これで誰も俺が勇者一行の一メンバーとは思わず、【闘神】として覚えてくれると思った。
むしろ俺が勇者であり、英雄であると思われているかもしれない。
「てなわけで、俺の為にお前らは死ね!」
俺は今度は落ちていた盾を拾い上げ、ブーメランを投げるように盾を投げた。
先頭にいた魔物はそれを受け止められず真っ二つになり、その後ろにいた多くの魔物も切断、あるいは吹き飛ばされていった。
「光君!」
俺を呼ぶ声が聞こえたので、俺は走るのを止め、声が聞こえた方向に振り向いた。
そこには栄治さんと小音子ちゃんがおり、見ると少し戦闘して事が窺えた。
「光君交代だ。ここからは俺が鼓舞していくよ」
「いや、俺はまだまだ余裕です。栄治さんはクラーケンとシードラゴンの為に温存しておかないと」
ここで交代なんてされたら、俺が上書きされてしまう。なんとしてでも阻止せねば――
「じゃあ2手に分かれよう。俺は元の陣地に近い南側を回るから、光君は北側を回ってくれ。
そして、もしも強そうな敵が現れたら都度応戦。余裕があれば援護に回るってどうだ?」
なるほど、栄治さんはわかってその提案をした訳か。
俺の名声を高めるためには、まだ行っていない北側に行く必要があるが、栄治さんが北側に行った場合、栄治さんの名声が高まる。
そうならないようにするために、あえて栄治さんは南側に残るという事か。
「わかりました。そうしましょう。強敵が現れたら合図は出しますので、後は各々で行動って事で」
「ああ、それでいい」
そう言って栄治さんと小音子ちゃんは魔物の群れの中央に向けて突撃しに行った。
俺は栄治さんからの介入が少なくなったと思い、改めてまだまだうようよいる魔物に対して、己の拳を振るうのであった。




