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第53話 VS邪神軍/序章

 ――対魔物の大軍対策本部――


「伝令! 魔物の大軍がパプア平原から約2日程の距離まで迫ってきました! 数は80――80万です!」

「っく! そこまで増えたのか! ――兵達の準備は!」

「既にパプア平原に30万の兵が揃っております! また、後2日もすればもう10万は揃うとの事です!」

「――そうか……正面から戦っても40万多いか……」


 その伝令の報告により、本部にいた多くの将がため息をついた。

 魔物の大軍が現れたと報告を受けたのが今から30日前。その間に王は軍やその他の領地に対して、兵の準備を命令していた。

 本来の予想であれば、20日程度でパプア平原に魔物の大軍が現れると予想されていたが、その途中にある街を破壊していたため、10日の猶予を得たのであった。

 その結果、軍や各領主の頑張りや、各町のギルドから要請により、なんとか40万程の兵を集めれる事に成功したのであった。もちろん、途中の街の住民は避難済みである。

 しかし――


「魔物の数が多すぎる! 他に援軍は期待できるか?」

「魔物の大軍の側面から攻める部隊が約10万程ですが、それ以上は厳しいようです」

「帝国は? 帝国からの援軍はこっちに何時来れる?」

「それが――」

「どうした? 帝国からの援軍は来ないのか?」

「ハッ! 帝国からの最新の報告によりますと、帝国側でも魔物の大軍を確認したとの事により、援軍を送るのが難しくなったとの報告です」

「何! それは何時のタイミングの話だ!」

「つい1時間程前の報告です。裏も取れましたので、魔物の大軍が現れた事も嘘ではないとの事です」

「なんという事だ……まさかやつらは帝国からの援軍を出させまいとして、一度に挙兵したのか!?」

「可能性はあります……」


 この作戦本部を任されている皇太子ファージンは頭を抱えた。

 ただでさえ魔物の数がこちらより20万体も多いに加え、帝国からの援軍が絶望的なのである。


「ダンフォード騎士団長、どうする?」

「――そうですね……幸い相手は魔物。組織だっての行軍ではないため、特に難しい戦略は必要ないと思われます。

 まずは魔法部隊で戦闘にいる魔物どもを一掃し、魔力が危なくなったら歩兵や騎馬隊で魔物にぶつかりできるだけ数を減らす。

 魔法部隊の魔力が回復次第、次の魔法を放つ。その繰り返しでしょう」

「やはりそれくらいしか方法はないか――ウルス筆頭魔術師、魔物の種類は判明したか」

「はい――今のところ確認出来ている魔物はマーマンにキラークラブ、シーサーペント、エビルオクト、アーケロン、カオスフィッシュ、アクアビースト等が確認できてます」

「その中で特に危ない魔物は?」

「スキュラが数体、そしてクラーケンとシードラゴンの目撃例があります」

「王子、スキュラは1体で一般兵の10倍の力があると言われ、クラーケンとシードラゴンに至っては一流の冒険者が10人はいないと退治できないと言われています」


 ウルスとダンフォードの報告に、再び指を頭に押し当てて考え出すファージン。彼は悩み抜いた末、ある決断をした。


「スキュラとクラーケン、そしてシードラゴンは勇者一行であるエイジ殿、ヒカル殿、コネコ殿に任せる。そう伝えておけ」

「王子、よろしいのですか?彼らをそんな危険な場所に送っても……」

「仕方がないのだ。この国の兵達の中で彼らより強い者はいない。故に彼らに任せるしか方法はないのだ」

「――畏まりました。私から伝えておきます」

「うむ、頼むぞウルス」


 勇者一行の前衛組の配置が決まったところで、また新の伝令が駆け足で現れた。


「伝令! 魔法部隊より【落とし穴】の着工が完了したとの報告が上がりました!」

「そうか、ご苦労」


 これは勇者一行である光から聞いた作戦であった。

 ファージンとダンフォードが作戦を練るために作戦室に移動中、たまたま光と出くわした。

 異世界の事はよくわかっていない2人であったが、別の世界の戦略を知っていないかを試しに聞いたのだ。

 その時に光から聞いた作戦が【落とし穴】作戦。

 最初はふざけているのかと思ったが、説明を聞いて納得ができた。


「それにしても【落とし穴】作戦とは盲点でしたな、王子」

「たしかにな。子どもでも思いつく悪戯かと思いきや、戦で使うとなるとかなり理に適っているな」


 落とし穴は誰でも思いつく悪戯だ。穴を掘り、穴をカモフラージュし、その場所に対象を誘導して落とす。

 その穴が幾つもあり、しかも1つの穴がの深さが5メートル、幅が5メートルもある落とし穴だ。

 空を浮いている魔物ならば効果は無いが、徒歩の魔物には効果があり、一度落ちてしまえば、その後にも何体も落ちてきて、最初に落ちた魔物は後から落ちてきた魔物の体重で死んでしまう。

 それが何百もいたる所にあるのだ。うまく機能すれば【落とし穴】だけで数万の魔物が倒せる可能性もある。


「更に【落とし穴】の地点としては、相手の歩みを遅らせる効果もあります。その隙に魔法を撃つなり、後退するなりいろいろできますからな」

「本当によくこんな作戦を思い付く。さすが異世界の勇者といったところか?」


 実際には落とし穴で敵を沢山倒す小説を読んだだけで、実際の歴史ではこんなに落とし穴が活躍したという保証はない。

 しかしもしかした効果があるんじゃないかと思った光が、思い切って提案しただけである。


「相手は海の魔物が殆どだ。魔法部隊には雷魔法と大地魔法を徹底させろ」

「大丈夫です、王子。既に全魔法部隊10万人には徹底させてます。また勇者一行である正殿、凜々花殿、佳織殿にも伝えております」

「よし、ではウルスよ。これより魔法部隊は魔力の回復と温存のため休憩を伝えろ。決戦まで無駄な魔力を使うなと言っておけ」

「ハッ、畏まりました」


 こうして、残りの時間が少ないながらも、作戦本部では最後まで新たな情報収集と作戦の確認が入念に行われるのであった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 とうとう決戦の日になってしまった。

 今目の前には夥しい数の魔物がこちらに向かって進行しており、その光景を見ただけで足が震え、動機が速くなっている気がする。


「栄治さん、震えてるんですか?」


 俺の様子がおかしかったのか、凜々花さんが手を握ってきた。

 他人に体を触られたからだろうか、少しだけ落ち着いた気がする。


「ありがとう凜々花さん。少し緊張してたみたいだ」

「それはこの光景を見たら誰でも緊張しますよ。あれですよあれ、SAN値チェックが必要ってやつですね」

「SAN値チェック? 何それ?」

「え? 知りません? 有名なTRPGとかで正気度を表す値ですけど?」

「いや、それは多分知っている。ただSAN値ではなくてVER値なんだよね」


 世界が違うと内容が違うのはこんなところにも影響があるのか。


「じゃああたしは配置に行くね。また後で」

「ああ、また後でな」

「――ねえ!」

「うん?」

「生き残ったらさ! お願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」

「――うん、俺にできる事であれば、大丈夫だよ」

「わかった。じゃあ何が何でも生き延びようね!」


 そう言って凜々花さんは魔法部隊へ移動した。

 俺は深呼吸をして、改めて魔物の大軍を見た。

 いろいろな種類の海の魔物がそこにはいた。中でも奥にうっすら見える大きなイカとドラゴン。あれを相手にしないといけないと思うと、気が重くなる。

 しかし、あれらを倒すには俺や光君、そして小音子ちゃんぐらいしかいないとなると、頑張らないといけないという気が溢れてくる。


「栄治さん、栄治さん。そろそろですよ」


 光君が作戦開始目前の時間である事を教えてくれた。

 俺は光君と一緒に、初期配置の場所である、平原を見渡せる丘の上まで移動した。


「栄治さん。俺が皇太子に教えた落とし穴、結構効いてますね?」

「たしかに、結構な魔物が穴に落ちて進行が遅くなっているな」


 この【落とし穴】作戦は今のところは成功している。先頭を歩いていた魔物のかなりの数が穴に消え、その後も穴に落ちていく魔物達。

 しかし、やはり数が多すぎるため、穴を避ける魔物もとうとう出てきた。


「この落とし穴でどれくらい数が減ったのやら」

「確かに気になるが、そろそろ皇太子の演説が始まるぞ」


 魔物の大軍が予定していた魔法の射程内にそろそろ入りそうになった時、皇太子の声が自軍全体に響いた。

次回からしばらくはバトル回です。主人公は当分出ません。

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