第26話 クルルとデート/告白編
12/18 サブタイトル修正
その後もクルルさんとのデート? が続き、気が付けば夕方になっていた。
こっちの世界にきてこんなにリフレッシュしたのは初めてだと思う。
初日から召喚された勇者君達と分かれ、次の日にはこのコッドの町に着き、その翌日には集団戦闘。
そして約2日間は体の痛みを引かすため寝込んでおり、さらに3日間は訓練ばかりやっていた。
「さて、もう夕方だしどうする? ご飯の予定とかある?」
「いえ、ないですね。今日は適当に宿で夕食を取る予定だったので」
「じゃあさ、このまま延長して一緒にご飯食べない? 一応美味しいところ知ってるしどうかな?」
美味しいご飯があるところを知っているなら返事は決まっている。僕はクルルさんと一緒にその食事処まで急ぐことにした。何故なら――
「もう、そんなに急がなくていいじゃない。ゆっくり歩こうよう」
「嫌です。一刻も早くご飯が食べたいです。まさか昼を抜かされるとは思いませんでしたので」
そう、あれからもクルルさんと雑貨屋巡りを続けていたが、お昼の事を言い出すと「じゃあ次のお店が終わったらね?」と言って3時間粘られた。
仕方なしに軽食のクレープみたいなやつが食べたいと訴えたところ「じゃあこれが終わったらね?」と言い2時間待たされた。
つまり朝以外何も食べてない状態なんです。なぜクルルさんは食べずに大丈夫なのか凄い疑問。
「ごめんって。お詫びにご飯は私が奢るからさ。ね?」
「――仕方がない。妥協しましょう」
「よし、ってもう着いたけどね。ここだよ」
そう言って店に入っていった。お店の中はまだ夕方のせいかお客は少なく、落ち着いて食べれそうな場所であった。
「ラッキー! このお店夕方でも混むときは混むからさ。こんなに簡単に席に座れるなんてついてるね!」
どうやら今回も僕のラッキーなステータスが働いたみたいだ。
実はこの世界はステータスやレベルといった異世界テンプレでお馴染みの概念がない。あるのは職業とスキルのみ。
しかも職業に適した訓練や行いをすることにより、新しいスキルを閃いたり、戦闘職では常人離れの力や速さが手に入る事ができるらしい。
なので見た目だけで相手の判断も難しく、またレベルといった指針もない。何となくで強者がわかるらしいが、それがわからないとヤンホーさんみたいに冒険者を止める羽目になるみたいだ。
とりあえず席に着き、おススメを注文した。
「ねぇ? 聞いてもいい?」
「はい? なんでしょう?」
「記憶がないって嘘でしょ?」
クルルさんは確信をついた質問をしてきた。どうにか誤魔化そうと喋ろうと思ったが、真剣な目をしてこちらを見ている。
その表情を見て、誤魔化せない事を悟り、僕も真剣に向き合うことにした。
「何時からですか? そう思ったのは」
「何となく最初からかな? 常識が全然ない感じがしたから本当に記憶喪失と思ったけど、それにしては堂々とし過ぎてる、そう思ったの」
「最初からですか?」
「そっ、最初から。確信したのは今日だけどね。ナガヨシってばデート慣れすぎ。いくら何でもあのエスコートで記憶がないって説得力なさすぎでしょ?」
そう言ってクルルさんは微笑んだ。
僕は今日のデートを振り返ってみた。みなも直伝の完璧な女性のエスコート術。
うん、記憶を失っても完璧にできたら違和感あり過ぎだね。お金は先に払うのはもちろん、女性が飽きさせないような会話術、決してどれでもいいとか言わない態度、その他にも諸々――
うん、記憶喪失嘘でしょと言われても仕方がない。
改めてクルルさんは神妙な顔になり尋ねてきた。
「で、どうなの? 記憶ってあるの? ないの? それとも聞いちゃ拙かった?」
「あるよ」
「即答!! 少しは考えないの!? こっちはこの話題振ろうか、かなり迷ったのに!」
だって誤魔化せないと思ったし、言い訳を考えたって論破されると思ったし、じゃあ開き直った方が時間の節約になるしね。
あと僕嘘苦手だし。何時もみなもに嘘をついてもすぐにバレるみたいだし。
「一応最初から記憶喪失設定で来てしまったからね。じゃあその設定で通していこうと思ったわけです。あっ、ヤンホーさんは知ってるからね? 僕が記憶喪失じゃないって事」
「――はぁ~……なんか疲れた……詳しい話はもうすぐ料理が来るから食べながらでも聞くわ……」
そうクルルさんが言ったタイミングで料理が来た。美味しいと噂が立っているだけあって良い匂いが食器から漂っている。
全ての料理が置かれ、改めて食事をすことにした。うん、これは美味しい。味の感想なんて下手だから具体的な表現は難しいけどコレは美味い。
料理を食べながらクルルさんに事情を説明した。僕が異世界の勇者の1人だと思うこと。魔王を倒すために呼ばれたこと。そして・・・
「――そっか……結婚してるんだ……そっかそっか……そうか……」
僕がすでに既婚者であり、子どもがもうすぐ生まれる事、そして還るための方法を探している事を説明すると、クルルさんは目に見えて落ち込みだした。
その姿を見て、申し訳ない気持ちが溢れてきた。僕もバカじゃないし、経験もある。今のクルルさんは、かつてみなもに告白をして振られた男の人達(113人)と同じ表情をしていた。
その姿で嫌でも察してしまう。でも口にはしない。慰めもできない。何故なら今度は僕が当事者だから。だから何もできない。
しばらくクルルさんは俯いていた。その間僕は料理を食べるのを止め、じっとクルルさんを見ていた。
「……ねぇ」
「……はい」
「もしさ――もし3年以上経っても還る方法がない見つからない場合はどうするの? 諦めてこっちで暮らす?」
「いえ、諦めずに帰還方法を探しますよ。だって約束しましたから。還るって。子どもの名前も決めておくって」
「じゃあ10年だったら? 10年間探しても還る方法がなかったら?」
「それでも探します」
「ナガヨシの世界と時間の流れが違うってちょっと理解できないけど、ナガヨシだけ歳をとって向こうにいるお嫁さんは歳をとってない状態になるんだよ? それでも?」
「それでも探します。時間に遅れたことは謝ります。きっとみなもは少しだけ怒って、その後すぐに笑って許してくれるからね」
僕はみなもの顔を思い浮かべた。さっき言った通り、恐らく少しだけ怒ったフリをするだろう。でも許してくれる。だって僕たちは夫婦なのだから。
「向こうで浮気してるかもよ?」
「ないです」
「いや、かもだよ? だってナガヨシがいないんだもん。新しい男の影とか出てくるかもだよ!」
「子育てがあるから。みなもは浮気をする余裕なんてないよ。子ども大好きだからね。多分僕が還って来なくても子ども相手に愚痴を聞かせながら僕の還りを待ってると思う」
「――どうしてそこまで信用できるのよ……」
クルルさんは俯いたまま、ちょっと僕の言っている事がわからないような、そんな声色をしながら呟いた。
「だって僕が選んだお嫁様ですから。絶対の信頼を寄せるのは当たり前だよ?」
僕は自信たっぷりと宣言した。みなもと付き合うまでは全然問題なかったけど、結婚するにあたってはいろいろ大変な事があった。
だからこんな少しだけ離れ離れになるぐらいで、僕とみなもの絆が解けるほど脆くない。
みなもを思い続け、ようやく手に入れるまで6年掛かったんだ。人生の3分の1を使ったんだ。その歴史は決して無駄な時間だったわけじゃない。
そう言うとクルルさんは再び黙ってしまった。
約10分程した後だろうか、クルルさんは顔を上げた。その顔には涙の跡が見える。
「じゃあ私、ナガヨシの還る方法を探すの手伝う!」
「……はい?」
「頑張って還る方法を探すよー! もう決めたからね!」
いきなりの手伝う宣言。僕の頭は混乱した。
あれ? なんで? 普通この場合ある意味惚気を聞かせた後になるから、黙って還るとか、応援してるよとか、仕方がないと諦めるとか、そんなんじゃないの?
流石にこんな流れは見たことないから、どう反応したらいいかわからないし、クルルさんが何考えているかマジでわからないんですけど?
「一応聞くけど、方法を探すってどうやって?」
「ん? もちろんナガヨシと一緒に探すのよ。当たり前じゃない?」
「いや、僕は金精院に入れないよ? 女性限定クランでしょ? それに僕は帝国に行くから、もしかしたら国境でお別れでしょ?」
「金精院止めてナガヨシについていくから問題ないよ」
問題だらけである。そんなに簡単にクランを離れることはできるのか、それに僕と一緒ってことは魔王と戦うって事にもなるので確実に巻き込まれるし――
そのことをクルルさんに伝えると、
「大丈夫。うちのクランその辺は緩いから。それに私まだ新人だし。別のクランに移籍とか独立とか結構ある事だよ? それにうちの場合は好きな男ができたら追っかける為に辞めるって子も多いしね。いや~まさか私がそっちの意味で辞めるなんて、あるとしてももっと先の事だと思ったよ」
「いやいやいや、僕既婚者。もうすぐ子持ち。クルルさんの気持ち受け止める事不可。お分かり?」
「ふっふっふ――私が考え無しにクランを飛び出してナガヨシについていくと思う?」
思う。だって急に言われたから何も考えてないと思ってしまってもおかしくない。
「私は考えたの。多分このまま国境でナガヨシと分かれても多分引きずる。で、調子がずっと悪くて急な戦闘とかでも集中できず死んじゃうの」
いや、死んじゃうのじゃなくて死なないでください。
「だからね。諦めがつくまでナガヨシと一緒に行動を共にしようと決めたの。それにナガヨシってさ、こっちの常識ないでしょ? あと帝国の事どれだけ知ってる? 私は帝国出身だから、確実にナガヨシより知ってることが多いしね」
そう言われると反論ができない。確かにこっちの世界の常識はまだ持っていない。それに帝国の知識も人づてに聞いただけだからあやふやだ。
「もう決めたからね。一緒に行動するのが嫌だった場合は勝手に付いていくんでよろしくね? いや~奇遇ですな~まさか目的地が一緒の場所だったとはってね」
あ~これはもう僕が折れるしかないパターンだ。そしてクルルさんを見てどうしてみなもを一瞬思い浮かべたのか今わかった。
姿形は違えど似ているのだ。その生き方が。一度決めたら貫こうとする姿勢や、決めた瞬間の表情とか、そんなちょっとした仕草がみなもに似ているんだ。
「――はぁ~……わかりました。どうせ言っても付いてくるのであれば、もうこれ以上は言いません」
「ほぉ~。えらい諦めが早いね? もう少し私を説得すると思ったけど?」
「このままいけば恐らく僕が折れる方が早いと判断しました――不本意ですが――とりあえず言っておく事があります」
「はい、なんでしょう」
「僕はクルルさんの気持ちを受け止める事はありません。また僕と一緒に行動する場合は危険が伴います。それでもいいというのであれば付いてくる事を許可します」
僕は真剣にクルルさんに伝えた。引き返すのなら今である。ずっと片思いなんて辛すぎると思うし、クルルさんは美人だから、僕の事など忘れて他の人を好きになった方がいいと思っている。
しかし――
「わかった。じゃあ今後は一緒に行動するってことで。それに、私が誰を思っていようが、それは私が決めるの。私は今ナガヨシが好きです。それに――」
「それに?」
「もしかしたらナガヨシ、本当に還れないかもしれないしね。その時がわかったら私が慰めてあげるよ」
そう言ってクルルさんはウインクを飛ばしてきた。美人さんからの告白とウインク。第三者から視点から見たらニヤニヤできる場面であるが、当事者の僕としては複雑である。
「はい! そう言うことでこのお話はお終い! 料理食べよ? もう完全に冷えてるけど問題ないぐらい美味しいしね!」
そう言って料理に手を出すクルルさん。その姿は少し無理をしている気もしたが、僕もそれに付き合うように料理に手を出した。あ、本当に冷えても美味しい。




