第21話 葬別会
今回は短めです。
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ようやく体が動かせるようになったのは、用意された食事を全て食した後だった。
しかし、体は動かせるが、まだ痛みは引いていない状態のため、おとなしくベットで上半身だけを起こしている状態です。
僕がクルルさんに何度も「あーん」をされていると、ヤンホーさんやザックさん、ダンさんやステイシーさんら、交流のある人達がお見舞いに来てくれた。
嬉しい反面、やれ「クルルとやったか?」とか「クルル、なんで押し倒さなかった」とか言わないでほしい。
僕はれっきとした既婚者である。そのため、他の女性には可愛いとか綺麗とか思うことがあっても、惚れてしまうとか2人目がとかは考えないのです。
ただクルルさんが必死に「やってませんよ!」とか「無理無理無理!押し倒すなんて!」とか顔を赤らめて否定している姿は何とも可愛かったです。みなもには内緒だよ!
今僕の寝床にはクルルさんとヤンホーさん、ステイシーさん、そしてダンさんがいる。
みんなでいろいろと今日の出来事を話し合っていたが、僕は不意に気になったことを聞いてみた。
「すみません。今日亡くなった方って何人いるんですか?」
そう質問すると、一旦お喋りが止まった。
そうしてステイシーさんは悲しそうな眼をして今日の亡くなった人の人数を教えてくれた。
死亡者数52人。そして確認できた魔物の数、約1200匹。そのうち800匹弱を冒険者たちが倒しているらしい。
襲ってきた数にと防衛に回っていた数の比率的に言えば、今回の死亡者数はかなり少ないらしい。何故なら、一つの町に1000匹も魔物が押し寄せたら、町が崩壊する確率の方が高いそうだ。
そのため、今回の防衛戦は快挙と言ってもいいぐらいの会心の出来だったらしい。
しかし、数字で死者の数を表すと快挙に聞こえるが、その時に参加したメンバーにとっては数字なんて意味をなさない人も多くいる。
僕もそうだが、今回防衛戦に参加したクラン。ラケーテン旅団や金精院からも数人死者が出た。その中には当然僕が知っている人も含まれていた。
「キャシーやスミスといった私達やラケーテン旅団の戦死者は、遺体が残っている人たちは綺麗に送る予定よ。
この祝勝会が終わったら次は葬別会。皆で皆がいてくれたおかげで町を救えたと報告するために先に祝勝会を挙げ、その後その余韻を亡くなった者たちに伝える為に葬別会を開く。
これが冒険者の暗黙の了承となっているわ。あなたももう体が動けるのなら広間に行きましょう。もうすぐ宴は終わるわ」
確かにあれだけ騒がしかったどんちゃん騒ぎも、今は少し減っている。つまりこの祝勝会の終わりが近づいているということだろう。
まだ体に痛みは走るが、何とか体を起こせるようになったので、僕はダンさんに支えられながら広間まで出ることにした。
途中で躓きそうになったため、反対からはクルルさんが支えてくれて、何とか広間まで出ることに成功した。
少し時間が掛かったため、すでに祝勝会は終わっていたが、広間の周りには大きな火が焚かれていた。
そしてその脇には一人ひとり丁寧に布で来るまれた遺体がそこにあった。
なんとか空いている席に腰を下ろし、しばらく待っていると、偉い人なのか威厳のある人が炎の前に現れ、演説を始めた。
「今日この日、このコッドの町に魔物の大軍が押し寄せるという悪夢のような出来事が起きた! そのため我々は力を合わせ、その大軍と戦い勝利した!
戦いとは無情なモノ。我々は勝利の代償に友を失った。掛け替えのない友だ。中には友ではなく、恋人がいただろう。愛する伴侶がいただろう。
しかし、彼らが頑張ってくれたからこそ我々は今こうして生きている! 我々は彼らに生かされたのである!
だから我々は胸を張って見送ろう。彼らが迷わず星の向こう側へ逝けるように。そしていつの日か我々も星の向こう側に逝くときに待っていてもらえるように……」
そう言って、偉い人は手を合わせるように三角のような形をして頭を下げた。皆も同じように手を合わせるようなポーズをして頭を下げたので、僕もそれを見倣って頭を下げた。
そして何人かが遺体の傍に近づき、1体の遺体を持ち上げ、丁寧に炎の中へ運んで行った。運び手は涙を流している。恐らく知り合いだったのだろう。炎に運び終わると名前を大きく叫び、再びすすり泣いていた。
いつの間にか僕の傍にはヤンホーさんがいた。そっと僕の肩に手を置き、僕に語り掛けるように話してきた。
「いいか、ナガヨシ。よく見ておけ。死んでしまった人間は、ああして火葬される。肉体が燃やされ、その煙は空へと昇って行き、いずれは星の向こう側に消えて逝く。
冒険者だけではない。普通に生活している者もそうだ。この世界ではどんな人間でも火葬され、星の向こう側に逝くと言われている。
――お前、この世界の人間じゃないだろう? 見ていればわかる。それに噂もあったしな。女神様が勇者召喚を行ったってな。
それに今日の活躍だ。ある程度情報を持っている奴ならすぐにわかる事だ。お前が普通の人間じゃないってな」
僕は黙ってヤンホーさんの言葉を聞いていた。ヤンホーさんは別に僕を糾弾しようとしている訳ではない。むしろ逆である。
「この先、お前とは関係ない世界の人間はもっと死んでいくと思う。魔王の動きが活発になってきたのか、魔物も活性化している傾向がある。
だからもっと人が死ぬかもしれない。だがな、お前はそこまで気にするな。
出陣前にも言ったが、お前には最優先順位があるんだろ? 魔王を倒す以外にも、目標があるんだろ?
王城に行かず帝国に行こうとしてるんだ。それぐらいは想像がつく。だからな、どんな事があっても自分の1番の最優先を見失うな」
僕は黙ってうなずいた。ヤンホーさんが僕の正体について語っていたが、ヤンホーさん程の大商人である。僕の正体に辿り着いてもおかしく成ったため、僕が勇者と言われても特に驚くような事はなかった。
実際には僕は【勇者】ではないが、この世界に召喚されたことは変わらない事実である。
でも、僕は今呑まれそうになっていた。この環境に。さっきまであれ程楽しくご飯を食べてたのに、今は悲しい気持ちでいっぱいになっている。
あぁ、本当にここは僕がいた世界ではなく、最愛のみなもがいない遠くの世界なんだなと、無性に寂しくなった。
ぼーっと火を見ていると、ザックさんが遺体を運んでいた。傍にはダンさんの他、僕と今日一緒にチームを組んでいた人たちも涙を流しながら遺体を運んでいる。
「あれはスミスって坊主だ。お前と一緒のチームにいたんだろ?この葬別会は亡くなった人間の親しい者が遺体を運ぶ。後ろを見てみろ、金精院のやつらだ。
ステイシーとクルルがいるだろ? 恐らくお前も知っているキャシー嬢ちゃんを運ぶんだろうよ」
確かにザックさん達の後ろにはステイシーさんとクルルがさんがいた。他にもラケーテン旅団の人達や金精院の人達も大勢いた。
「お前は今体が上手く動かないから俺とここで留守番だが、本来ならお前もあちらに行っている状態だ。
あれは最後の挨拶ってやつだ。それぞれ一言添えて送り出す。直接向こう側に迷いなく逝けるようにと祈りを込めてな」
僕は黙ってその光景を見ていた。スミスさん、キャシーさん。短時間だったけど僕と一緒にいた人。お世話になった人。もう2度と会えない人。
その後も亡くなった人達を火の中へ運び、全ての遺体が日の中に運ばれた後、再び全員が手を合わせるように、祈りを捧げるように頭を下げて見送った。
もし僕が死んでしまったら、あの火の中に運ばれるのだろう。そして果たして、僕はみなもの傍に還れるのだろうか……
あの煙は星の向こう側に続いているといった。じゃあ僕が死んだ場合、元の世界の星の向こう側に逝けるのだろうか……
僕はそんなことをずっと考えていたのだった。




