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4-1話 外出

 転生してから2週間が経過した。生後で言うと1ヶ月弱になるが、『不老不死』の影響で肉体に成長は見られない。相変わらず首はすわらないし、視力も改善しない。ただ、体の動かし方は成長とは無関係に学習できるため以前よりは融通が効くようになった。


 しかし、それ以上にこの体の問題点が浮き彫りになった。


 まずは食事。『不老不死』のスキルがあるため食べなくとも死ぬことはないと思うが、母や姉に余計な心配を与えないためにも毎日4〜5回は食事を要求している。


 どうやらこの世界には哺乳瓶や粉ミルクといった育児便利アイテムはないようでこの2週間は母乳生活だった。それ自体に問題はないのだが、母乳を飲むという行為がとてつもなく気恥ずかしい。場合によっては姉に見られながら乳を飲む。そういう趣味があれば楽しいのかもしれないが、僕にはそんな趣味はない。そもそも授乳プレイを楽しむ赤ちゃんなんて存在して欲しくない。


 次に排泄。こっちの方が深刻な問題だ。食べると排泄をしなければいけないのは自然の摂理。『不老不死』でもそれには抗えないらしい。我慢にも限界が来る。布でできたオムツに排泄する感覚も、排泄物がしばらくの間お尻と同居する感覚も2週間では全く慣れない。それに、オムツを替えてもらう羞恥には今後一生慣れる気がしない。

 なので最近は眠くなるまで耐えて、眠気が来たところで泣いてオムツの交換を要求している。オムツの交換がなされる頃には寝落ちしている寸法だ。

 今日もその手でオムツ交換を乗り切った。


 目を開けると、大きな影が動いた。少し目を凝らせばお姉ちゃんかお母さんかぐらいは見分けられるくらいにはなった。この影はお母さんだ。

「ノアは静かでいい子ね」

 言葉とは裏腹に声には不安の色が見える。あまり元気がないように見えるのだろうか。仕方ない。

「おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!」

「あらあらどうしたの、元気になっちゃって」

 言葉に少し明るい色が差す。赤ちゃんの仕事は泣くことだ。サボっていたらお母さんを不安にさせてしまう。

「……もしかして私の言葉がわかってたのかしらね」

 なんか僕の家族、みんな鋭くない?


「今日は教会に行きましょう、ノアもみんなに会いたいでしょう?」

 もちろん。言葉にはできずとも、お母さんのことだ。僕がみんなに会いたいことなんてお見通しだろう。

「ふふ、ノアは本当にかわいいわね。会いたいって顔に書いてあるわ」

 少し照れくさくて、けれどすごく幸せで。

 早く成長して、お母さんの顔が見たい。なんとしてでも50万経験値を手に入れて、お母さんとお姉ちゃんの顔を見るんだ。


「ふふふーん」

 鼻歌が耳に届く。外に出るのは初めてのことで、抱っこされた体に風が当たるのが心地いい。

「ご機嫌ね、セリス」

「だって、ノアは自慢の弟だもん! みんなもノアのことたくさん褒めてくれるし嬉しくなっちゃった!」

 たしかに僕はTPOを弁えて泣くし、極力夜には母乳を求めないようにしているし、模範的赤ちゃんと言えるだろう。


「セリスはいいお姉ちゃんね」

 少し鼻声のお母さん。

「うん! ノアがおっきくなったら一緒にかけっこするの!」

 ……ああ、たくさんかけっこしよう。それこそ、疲れて眠っちゃうくらいに。

「……でもね、ノア。おっきくなるのはゆっくりでも大丈夫だよ、お姉ちゃんはいい子だからずっとだって待ってるよ」

 お姉ちゃんが耳元で囁く。……ずるい。こんなの泣かない方がおかしい。


「ぐずっ」

 鼻をすする音が出てしまった。

「ノア、聞こえてるのかな? 本当にノアはお利口さんだね」

 顔に雫が垂れる。……これは。

「ママ? 泣いてるの?」

「ええ、セリスとノアがとってもいい子だから、ママも嬉しくって」

 これが家族の温かさ。お母さんの涙は指のように、頬を撫でる。


「パパが見たら、驚いちゃうね」

「ふふ、きっと腰を抜かしちゃうわ」

 お母さんにもお姉ちゃんにも、声に暗い影はない。どうやら父親は何事もなく存命なようで、一安心だ。

「あとどれくらいで教会つく?」

「そうね、あと50数えるくらいかしら」


 い〜ち、に〜、という声が響く。


 

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