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3話 幕間

 1日過ごしていくつかのことがわかった。

 まず可動部は手足のみであること。しかも体全体を動かせるほどの力はない。試してみたが、やはりハイハイどころか起き上がることもうつ伏せになることもできなかった。

 次に視力。これは恐らく0.1を大きく下回るが、目を凝らすことができるため生後2週間にしては良い視力だと思う。


 そして、言語能力。いろいろ試して「あ」、「ま」、「ん」あたりはかろうじて発音可能だった。この世界にあんまんがあればおねだり可能だ。

 ただ、生後2週間で言葉を話したら一大事だと思うので言語はしばらくは封印。


 家族については今のところ母親と姉がいることしかわかっていない。……あとは兄と姉が幼くして亡くなったことしか……。まだ現れない父親も存命かどうか気がかりだ。

 子どもが生まれてすぐ死ぬこの世界の衛生面や医療面が発達しているとは思えない。魔法はあるといえど、回復魔法は消費や制限が多いのだろうか。


 とりあえず当面の目標は、この世界の書物に触れることだ。こんな体でも魔法さえ習得すれば、経験値を得ることだってできるはずだ。

 この体はかなり燃費が悪いらしく、1、2時間で抗えない眠気が襲ってくる。『不老不死』と言えど、眠気は我慢できない。おやすみなさい。


 目を開けると、視界に大きな影が落ちた。どうやら誰かが覗き込んでいるらしい。

「ノア、起きたの?」

 声から察するにセリスだ。

「今日はね、ノアに私の大好きなご本を読んであげます」

 ……! 願っても無いチャンスだ。魔術のことは書いてなくとも、この世界がどういう世界なのかを知れるかもしれない。

「……あるところに、オタマジャクシのタマがいました。タマは体はちっちゃいけど、心はだれよりも大きいのです。


 そんなタマのことをみんなは小さいってバカにします。でもタマは気にしません。だっていつか大きくなるって信じてるから。


 みんなに足が生えてきても、タマには生えてきませんでした。みんなはまたタマをバカにします。だけど、タマは気にしません。だっていつかは生えてくるって知ってるから。


 みんながりっぱなカエルになってもタマはまだオタマジャクシのままでした。みんなはタマをバカにします。それでもタマは気にしません。だっていつかはカエルになれるから。


 それから少しして、タマはカエルになりました。ほかのだれよりも大きなカエルになりました。でもタマはみんなをバカにしません。するとみんなはタマのことをバカにしなくなりました。


 タマが大きいカエルだからじゃありません。タマがだれよりもやさしいことにみんな気づいたからです。タマはずっとずっとわかっていました。いちばん大切なのはやさしさなんだって。……おしまい」


 きっとまだ5歳にもならない姉が僕の成長をこんなにも……。思わず感極まって涙が出てしまう。

「ぐずっ、ぐずっ」

 鼻から息を吸うとすすったような音が出てしまう。

「ノア……泣いてるの? 感動しちゃった?」

 嬉しそうな、不思議そうな声が聞こえる。

「なんて、まだ1ヶ月も経ってないのにわかるわけないよね」

 セリス……お姉ちゃんが笑いながら言う。

 一つ分かったことがある。


 言葉で伝えられないのはもどかしい。


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