1-2話 転生②
唖然とする僕と羊。気まずい沈黙が流れる。
「今から年齢の調整は……」
「申し訳ございません……」
「スキルの再抽選は……」
「大変申し訳ございません……」
羊ナースは至極申し訳なさそうに画面に目を落とす。途端、羊ナースの目に光が戻った。
「待ってください! 補足説明があります!」
「は、はあ」
羊は大きく息を吸い込み、補足説明を読み上げた。
「『不老不死』の持ち主は基本的に成長も老化もしないが、老化をせずに成長をする方法がある」
渡りに船とはまさにこのことだ。身を乗り出して続きを待つ。
「レベルアップ時に任意で歳を取ることを選択すると、1レベルにつき1年分肉体を成長させることができる」
レベル……耳馴染みのある単語ではあるが、念のためナース羊に確認する。
「『レベル』というのは?」
「異世界でのステータスの一つです。モンスターを倒すことのみで集まる経験値を一定数溜めれば、レベルが上がります。レベルが高ければ高いほど恩恵を受けられます」
「恩恵……?」
言い方が少し引っかかる。
「直接的に肉体や知力などが変化するのではなく、同じ力でもダメージが増えたり同じ魔法でも威力が上がったりするんです」
まるで世界が自分を味方してくれるかのように、と羊は付け加える。
何はともあれ、転生先でモンスターを倒して1レベル上がれば1つ歳を取れる! つくづく配慮の行き届いたスキルだ。異世界ライフに一筋の光が射した。
「それなら全然問題ないですね! 1年に1レベル上げればいいだけですし!」
「……」
いきなり無言になるナース。
「何か問題が……?」
「……東堂様の初期レベルは200です」
「はい?」
「必要レベルアップ経験値は50万、これは転生先に存在する最弱モンスターのスライム25万匹分になります」
グッバイ、異世界ライフ。
「……」
「……」
お通夜である。
「……もっと経験値のあるモンスターはいないんですか」
「……いはしますが、生息地が人里離れていますので……」
「……レベルアップするアイテムとかありませんか」
「……ありますがとんでもなく貴重品です」
「……わかりました」
「本当に申し訳ございません」
「ナースさんは悪くないです、せめてこれが3歳だったらいくらでもやりようはありましたし、生後2週間を選んだ自業自得です」
「でも……」
「難しくとも成長する方法はあるんです、きっと転生先の僕がなんとかします」
彼女に負い目を感じさせない。今の僕にできるのはそれだけだ。
「東堂様……」
「転生まではあとどれくらいかかりますか?」
「はい、必要な手続きは済みましたのでご所望とあらば今すぐにでも可能です」
「じゃあ転生する前に少しだけ、転生先でどれだけのことができるか一緒に考えてください」
「わかりました! 全力でお手伝いいたします!」
「ひとまずはこんなところか……よし」
「大丈夫ですかね……?」
「はい、問題ないと思います」
きっと、多分、おそらく、転生後の僕がどうにかしてくれる。
「ありがとうございました、ナースさんのお陰で転生までのひと時も楽しく過ごせました」
「お礼を言うのはこちらの方です、仕事なのに私も楽しんでしまいました」
それでは、お元気で。と「僕」の最後の知り合いが言う。
「行ってきます」
彼女はいつの間にかいなくなっていた。
サナトリウムを温かい水が満たしていく。僕はベッドに横たわり、しばらく眠ることにした。
寝入りは、心地よかった。