次の旅路へ
訂正:前話で『マルナ』となっていた部分を→『ミハル』に変更いたしました。前話を読んでいてマルナって誰だよと思ったそこのあなた!私も同じ気持ちです。
『白鎧が届きました、脳内にインプットします』
頭に響くアナウンスによりマリは深い眠りから覚醒させられた。彼女が目を開けると墓標が朝日に照らされていた。その光景は、まるで村の皆を次世界への旅路へと導いているようにマリは感じた。
新たな衣装と共にいつもと同じように1通の手紙も届いていた。ため息と主に、マリはスカートから手紙を取り出しどうせまた適当な言葉を並べているだけだろうとさっと目を通す。
『やぁやぁ、今回は可愛い路線は辞めてカッコイイ路線でせめてみようと思うんだ。君の様子を見ていて思ったんだけど、戦う女の子って悪くないなって。いや、寧ろ良いと思ったね!戦う女の子と言えば戦乙女、戦乙女といえばやっぱり鎧だよね‼純白の鎧はきっと君にぴったりだと思うんだ‼因みにこの鎧の素材は僕と君が出会ったあの空間の壁と同じ材質で出来ているからその世界の物では絶対に壊れない優れものだよ?いやー、こんなものを作れる僕の才能が本当に怖いよ‼』
「ふざけないで‼」
マリの手紙を持つ手に思わず力がこもる。『君の様子を見んて』ということはあの惨状をあの神も見ていたのは確実だ。なのに何故彼らを助けてくれなかったのか。マリの心は再び闇に飲み込まれそうになるが、目の端で捉えていた文章の続きによりそれは霧散した。
『そしてごめんね。前も言ったけど僕は基本的に僕が管理する世界に直接介入は出来ないんだ。代わりといっては何だけど、君みたいに彼らの死後は僕が責任をもって新しい世界へ導いてあげるよ。彼らの意に沿った形でね‼なんせ僕が管理する世界は腐るほどあるんだ。彼らにきっと気に入ってもらえるはずだよ。まぁ、全員同じ世界ってのは無理だけどね。でも、最後に彼らが一堂に介する場は作ってあげられるかな。どうだい?僕って役に立つだろう?君に蔑まれるのはいいけど本気で嫌われたくはないからね。ちょっぴり頑張っちゃうよ。あ、そうそう。その鎧の機能だけど、槍術向上と飛行能力それと……視界に入る範囲であれば他人を守れる機能がついているからね!』
複数の染みが手紙に広がる。マリは感情に流されるままに涙を流し続けた。
「もう、こんなのズルいわよ……」
マリは心の底から神に感謝を捧げた。計算だろうがなんだろうが、彼女にとって村の人たちの幸せだけが真実だ。
また、新たな衣裳に付与された能力は彼女にとって喉から手が欲しいほど求めていたものだ。
マリは神に与えられた能力により自分が他者よりも戦いにおいて優れていると自覚している。それでも、距離が離れすぎていたら手のだしようがない。また、誰かが人質にとられた場合も彼女の力ではどうしようもなく、無力感に苛まれる羽目になっていただろう。
今回みたいに目が届かない所ではどうしようもないが、目の届く範囲であれば他人を守ることが出きる。これにより、マリの不安の種が1つ取り除かれた。
「さーて、私も一歩ずつ前に進みますか」
顔をあげ、墓標に背を向けてマリは歩きだした。彼らはこれから次のステージへと歩み出す。ならば彼女も前を向いて歩かなければ彼らに顔向け出来ないであろう。
「行ってきます。そして行ってらっしゃい!」
彼女の目にもう迷いは無かった。
「確かミハルさんの話では、こっち方面に進んで数日って言っていたわね」
マリは、以前聞いた話を記憶から引っ張り出しながら森を進んでいた。村から南へ進むと、大きめの街があると以前マリは聞いていたのだ。途中、野宿を繰り返しつつ進んでいくと森が開け平野が見えてきた。遠くの方では城壁が姿を表している。
ふと、マリは自分の姿を見下ろした。
「流石にこの格好で向かうのは不味いわよね……」
薄着のドレスに手荷物1つ、街へ向かう格好としては不審としか言えないだろう。まだ鎧姿の方が旅人らしいだろうとマリは白鎧に着替えることにした。
「あら、結構良い感じじゃない」
トレーニングウェアのようなぴっちりとした服の上から、頭以外を隙間無く覆い隠す真っ白いプレートアーマー、何かの能力が備わっているのか通気性もよく蒸し暑さもない。マリが想像していたよりも動きにくさを感じること無く、寧ろ普通の服との差異が感じられなかった。なによりも、露出が全くないことがマリを安心させた。
「うん、可愛かったり綺麗な服よりもこっちの方が落ち着くなぁ」
マリは暫くの間、背中に備え付けられていた槍を振り回しながら、動作に違和感を感じないか確かめた。
「そういえば飛行能力もあるって書いていたわね」
う~んと唸りながら宙に浮けと念じる。すると徐々に体が上に引っ張られるような感覚を覚え、遂に大地と足が別れを告げた。
「うわぁぁぁ、綺麗……」
マリは空高く舞い上がると、城壁しか見えなかった先程の街の全貌を確認することが出来た。城壁の外側大きな堀が外敵の侵入を防いでおり、東西南北の橋以外では街との出入りが出来ないようになっていた。城内は1/6が畑になっており、残りは色とりどりの建物で埋め尽くされていた。その全貌は直径10㎞を優に超えており、大都市と言っても過言ではなかった。一つの街でこの規模であるならば、王都というものはいったいどれだけの大きさになるのか、マリは期待に胸を膨らませるのであった。
そのままマリは試行錯誤を繰り返すうちに飛ぶという感覚を掴み、自由自在に空を動き回れるようになった。そして十分に満足したあと、改めて徒歩で城壁目指して足を進めるのであった。
お待たせいたしました。少し短いですが久しぶりの投稿です。
果たして街ではどんな出会いがあるのでしょうか。良い出会いがあることを祈ります。