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仮装少女の異世界世直し旅  作者: ナース
第1章 
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第1村人発見

 草木の香りが漂い、そよ風がマリの金髪を微かに揺らす。眩い光が収まり、マリが再び目を開けるとそこは緑で覆われた大自然の中だった。そんな広大な森の中でマリは純白なドレスに身を包まれたまま、紙切れ片手に怒りで体を震わせていた。


「アイツ、ゼッタイ、ユルサナイ」


『マリへ、この服は僕からの最初のプレゼントだ。そして約束通り君は服を着ている限り身体能力が10倍だ。但し、僕が与えた服以外は着れなくなったけどね!これで君は僕が作る服を着るしかなくなったわけだ、ありがとう。これで僕は元気に神としての仕事ができるよ。夜までにはパジャマを送っておいてあげるから楽しみにしててね。後は月1回のペースで新しい服を作って送るからね!こう見えても僕って忙しいんだよね、そんな忙しい中頑張って作るのだから感謝してくれてもいいんだよ。あ、そうそう、そのドレスには特別に剣術が向上する能力とちょっとした容量なら保管できる収納能力が付与されているからね。ちなみに出し入れはスカートの中からしかできないから気を付けてね!』


 マリは速攻で手紙を破き、そのまま捨て――――ようとしたがポイ捨てはいけないと思いとどまり、諦めてスカートの中へ破いた手紙を入れる。すると不思議なことにマリの手から紙の感触が消えた。そして頭の中に『親愛なる親友からの大切なお手紙』と浮かび上がった。


「……」


 マリは黙って拳を握り、やり場のない怒りを全て拳に込めて目の前の巨木を全力で殴りつけた。あまりの衝撃に轟音が鳴り響き、木々から鳥たちが一斉に飛び立った。一拍おくれて目の前の巨木は徐々に傾き、地響きを立てて根元から折れ曲がった。


「えっ……マジ?」


 マリの拳は少し赤みがかっていたが、別段痛みは感じていなかった。あまりにも現実離れしていたために、目の前の現象が自身で引き起こしたこと受け入れることが出来ず思考が停止する。


「ほえぇ~、ねーちゃんどっかのお姫様かと思ったらゴリラだったんだな」


 そんな停止したマリの意識を現実に引き戻したのは唐突に投げかけられた声だった。

 マリが振り返ると、そこには右頬に傷のある10歳くらいの目を丸くした活発そうな少年が佇んでいた。

 地球では子供に声を掛けられるどころか、鋭い目つきのせいで怖いと泣かれたこともあるマリは思わず後ずさる。実は子供を含めた小動物が好きであるのだが、今まで避けられてきた経緯もありつい身構えてしまった。

 そんな防衛反応とは反対に、少年は人懐っこくマリに近づくとしげしげと折れた木の幹を眺めていた。


「それはそうとゴリラのねーちゃん、見ない顔だな。どこから来たんだ?」

「ゴリラとは失礼だなゴリラとは」

「ふぁにふんはよ~」


 あまりの馴れ馴れしさと失礼さについ少年の頬に両手が伸び、マリはそのぷにぷにとした感触を堪能しつつ引っ張っり抗議の意を示した。


「私はゴリラではなくマリよ。ちょっと迷子になってね、君は?」

「俺はトーマ、近くの村に住んでるんだ。というかねーちゃんその年になって迷子ってださ――――ちょっと、その手をおろせって」


 この森にいるのは自分のせいじゃないのにダサいと言われて再度抗議しようとしたマリに対し、トーマは両手で頬を抑え一歩後ろへ下がる。


「まぁねーちゃん悪い人じゃなさそうだし仕方がないから俺が村まで案内してやるよ」

「あら、紳士なのね」

「男なら女を大切にするのは当たり前のことだからな!でもちょっとだけ待ってくれよ」


 少年は背中のカゴを背負いなおし、マリが折った木から木の実を採取し始めた。


「それは何をしているの?」

「何って今日の晩飯だよ。ねーちゃんが折ってくれたおかげで楽に集めることが出来るよ。いつもは石とか投げて採らないといけないから大変なんだよね」


 マリはこんな幼い子供が一人でこんな森に来て食材を集めていることに驚きを隠せなかった。地球では田舎でも森に一人で立ち入り木の実採集させるとこなんてそうそうないであろう。

 この世界の生活水準がどうなっているのか、身一つで放り出されたマリにそれを知る術はない。

 籠一杯に木の実を詰め終えたトーマは満足げな顔をして立ち上がった。


「こんなに沢山採れたのは久々だな。よし、それじゃぁねーちゃん行こう――――」


 ぐぅぅぅぅぅぅぅ


 巨木の倒れた先、つまりトーマの方向から腹の虫が聞こえる。トーマは頬ををうっすら赤く染め、マリから顔をそらした。


「さ、さぁねーちゃん行くぞ!」


 マリはトーマの子供らしい一面を感じ取り思わず笑みがこぼれた。そしてしゃがみ込み、スカートへ手を突っ込みごそごそとし始めた。


「な……ねーちゃん何やってんだよ!」

「なーに子供がこれ位で照れてるのよ」


 どうやら横目でチラ見していたらしいトーマには少々刺激が強かったようだが、流石に少年に対して照れることもなくさらりと受け流し少年にパンを差し出した。


「いや、どこに入れてるんだよ」


 ごもっともな指摘だった。


「ちょっと休憩して一緒に食べましょう」

「し、仕方ねーな。ねーちゃんが休憩したいって言うなら付き合うよ」


 流石に神も食料を持たさずに異世界に放り込むなんて常識外れなことはせず、マリの保管庫の中には数か月分の食糧が蓄えられていた。その中から2つのクリームパンを取り出した。

 トーマの分だけ渡しても遠慮して受け取らないと考えたマリは自分の分も合わせて取り出し、休憩という名目を掲げることでトーマが受け取り易い様にした。


「なにこれ、うまっ」

「ふふ、それは良かったわ」


 マリもトーマに続きパンにかぶりついた。特別に美味しいというわけでもない地球にごくありふれた菓子パンの味だった。それを美味しい美味しいと食べるトーマが住む村に限っては、地球人よりも舌が肥えていることもなければ、食文化が進んでいることもないだろうとマリは分析した。そして何より、この世界の人たちと美味しいと感じる者が全く違うということもなく一安心した。

 一心不乱にパンを食らっていたトーマの手からその存在が消えた。心なしか、その表情は悲しそうにマリは感じた。座ったままもう一度スカートの中に手を入れ、もう一つパンを取り出す。


「もう一つ食べる?」

「……そのスカートの中身どうなってるんだ?」

「乙女の秘密を知ろうだなんて失礼よ。それよりも食べるの食べないのどっち?」

「あぁ、食べる、食べるよ」


 秘密を暴こうとしたトーマに対し釘をさしつつパンを手渡した。トーマもあまりの美味しさに遠慮を忘れ素直に受け取りもしゃもしゃと食べ始めた。今のトーマにとってパンを食べることの方がスカートの中の秘密よりも大切であった。


「ねーちゃんありがとう。さて、腹も膨れたし次こそ本当に村に案内するよ」

「どういたしまして。あ、ちょっとだけ待って」


 一旦木の陰に隠れたマリは、流石に手ぶらで村に行くのは怪しすぎると考え保管庫の中から一つ鞄を取り出した。


「ごめんごめん、それじゃぁ案内お願いね」

「よ~し、それじゃぁついてきて」


 このまま森の中で彷徨っていてもどうしようもないため、これ幸いにとマリは素直にトーマの後をついていった。


「あと、俺から離れるなよ。この森は大型の獣も多いんだ。まぁ、いざとなったら俺が倒してやるから安心していいよ」

「なに言ってるの、そんな危ないなら私しに任せなさい。私の方が力強いんだから」

「ねーちゃんこそ何言ってるんだよ。どっちが強いとか関係ないよ、男が女を守るのは当たり前だろ?」

「……ありがとう」


 トーマは小さくても立派な男の子なんだとマリは笑みを浮かべ、その前を行く小さな背中を見守った。

※主人公はショタコンではありません。ショタコンではありません。

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