そうして時は流れ……
店に戻ったマリは、いつものようにカウンターに座っているウルススの目の前に購入した山ほどの食料を積み上げていく。ウルススはフンッと鼻をならすと食料を抱えて厨房へ引っ込んでいった。
その日から何故か自分達のご飯が豪華になり、マリとしてはお礼にと渡したものであたため、何だか釈然としなかった。
自室へ戻るとリッテは既に目を覚ましており、窓の外をボーッと眺めていたが、マリに気がつくと満面の笑みを浮かべた。
「マリねぇお帰りなさい!」
「ただいまリッテ、はいこれ」
リッテの顔色が、遠目からでも分かるほど良くなっているのをみて一安心したマリは、早速本日の戦利品を手渡した。
「はい、私からリッテへのプレゼント」
「プレゼント……?」
リッテは小首をかしげながら、紙袋に何個か入っているうちの1つを取り出し、丁寧に包装を解いていく。
「マリねぇ……これって……」
中から出てきたものをリッテは恐る恐る広げると、そこには自分のサイズにピッタリのヒラヒラとした洋服があった。
「今着ている服はもうボロボロでしょ?だから、私からの姉妹になった記念の贈り物よ」
「こんなにきれいなお洋服って初めて貰いました……マリねぇ、ありがとうございます」
リッテは大事そうにその洋服を胸に抱き、涙を流しつつも太陽のような笑みを浮かべた。
「もう、敬語に戻ってるわよ。気に入ってもらって何よりだわ……というわけで!」
「ほぇ?」
場の空気をぶち壊すような雰囲気に思わずリッテは間の抜けた声が出た。そんなリッテに対してお構いなしに、手をワキワキ動かしながらマリはリッテへ近づいた。
「さぁ、お着替えの時間よ~!」
「ちょっ、マリねぇ?や、あ、きゃぁぁぁ~」
自分の服装には無頓着であるが、妹となると話は変わってくる。可愛いものを愛でて何が悪い!と、この時のマリは本気でそう思っていた。リッテの笑顔に思わずトリップしてしまった訳ではないと後程彼女は語る。
そうしてリッテのお着換えタイムは、食事の時間になっても降りてこない彼女達を心配したウルススが部屋に呼びに来るまで続くのであった。
「ウルススさん、ちょっと質問があります」
「ふん……」
ウルススが声を掛けたことにより我に戻ったマリは、リッテを連れて1Fへ降り、夕食をとることにした。そして、暫くしてから運ばれてきた料理に首を傾げた。マリは食材を買い込んでいるうちに、料理をいるだけでおおよその原価を予想できるようになっていた。
ふわふわでチーズのたっぷり入った白いパン、色とりどりの野菜が使われたシャキシャキサラダ、とろ~り白いクリームが濃厚のグラタン、拳より大きい肉汁溢れるハンバーグ、沢山の野菜や鶏肉の使われた濃厚スープ。そして最後にフルーツタルトというデザート付きだ。
「夕食、豪華すぎませんか?」
これが逆であったならマリは何も言わなかった。宿代をあれだけサービスしてもらえたのだから安い食事が出るのは仕方がないと思っていたからだ。だがしかし、これが逆であるならば話は変わってくる。
「あきらかに値段に見合っていないと思うのですが……」
「ふん……偶然……手に入った」
そんなマリのささやかな反抗に対して、事もなげに偶然食材が沢山手に入ったからサービスしているだけだとウルススは返した。
折角お礼にと渡したはずの食材が、このような使い方をされるとは思っておらず、マリはなんだか釈然としない気持ちで合った。そして、なんとなく負けた気分になった。
「むむ、何時か絶対恩返ししますからね!」
「ふん……」
返せるもおなら返してみろというような態度のウルススに、絶対に100倍以上にして返してやるとマリは心の中で硬く決意するのであった。
「ご馳走様でした。ウルススさん、今日も美味しかったです。ありがとうございました」
「元気、よかった」
「はい!マリねえとウルススさんのおかげです!」
「ふんっ……」
リッテがマリと出会ってから一月が経過した。皮と骨だけであったリッテの体は、今では水を弾く様な弾力のあるふっくらとした肉付きをしていた。
この一月で変わったのは、リッテだけでなく街の一部にもその変化が訪れていた。
リッテがある程度回復してからは、マリと一緒に出掛けることが多くなった。外へ出るということは必然的にリッテはプレゼントされた服を着ることとなる。シャーリングブラウス、ボレロ、レイヤードスカート、チュールスカートなど、この世界の簡素な服とはまた違った服装だ。
今までそんな簡素な服しか着たことのなかった子供たちは、一風変わったリッテの装いに衝撃を受け、自分の姿と見比べて憧れを抱くようになった。そして貴婦人たちは、実際に服が着られているのを目の当たりにすると、その華やかさや可憐さに目を惹かれることとなった。そうして我が子だって服さえ同じなら負けないと、ミレイの店は繁盛するようになっていった。
そんなミレイの店で一番売れているのは着ぐるみ型のパジャマであった。
以前、マリがミレイにお願いされていたこと、それはマリが着ていた服を真似てもいいかどうかであった。マリとしては自分が考えたわけでもないため、特に気にすることもなく許可を出したが、まさかこのような事態になるとは誰が予想できたであろうか。
着ぐるみパジャマといえば、安らぎの宿に泊まっているお姉さん!とミレイも大体的に宣伝しており、今まで以上に様々な人にに注目されることになったマリは頭を抱え、普通の服が欲しいと切実に願うのであった。
お待たせしました申し訳ありません≣_| ̄|○(スライディング土下座)
体調を崩していまして執筆がなかなかできずゴニョゴニョ(言い訳)
回復したためまた頑張っていきたいと思いますのでどうか、どうかよろしくお願い致します‼