第6話 幼女の商人、凄腕の職人
今日は魔法学校の授業もない休日。
僕は早朝から出かける準備をしている。いつもなら一日中研究に打ち込むのだけれども今日は違う。
だって今日は、月に一度の骨董市が開催される日なのだ。しかも、生まれ変わってから始めていく骨董市だ。
王都の噴水広場にひしめく露店。
所狭しと並ぶ魔法具の数々。
胡散臭い壺。
掘り出し物の珍しい魔法具。
ウキウキしない方が難しい。
日ごろの研究の副産物を換金して手に入れたお金を懐にしまうと寮を飛び出し、狭い路地を駆け抜けていけば、そこは天国だった。
僕は、人がごった返す噴水広場を僕は鼻歌を歌いながら歩いていく。
「魔法学校の兄ちゃん、見て行かないかい? エリシュオンの天空迷宮から見つかった正真正銘の掘り出し物だよ!」
煌びやかな魔法具を大事そうに持つ露店の店主から声をかけられるが無視をして通り過ぎていく。
あそこに並んでいる物はすべてどこにでもあるような下級魔法具なのだ。自他共に認める魔法具コレクターの僕を欺こうなんて100万年はやい。
これは僕の持論だけど、骨董市を楽しむためには知識がないとダメだ。
理由は簡単で、ああやって安物をあたかも古代魔法具のように売っているからだ。僕も前世では何度も偽物を掴まされたものだ。その当たり外れが楽しいっていう人もいるけど。
僕は、いくつもの掛け声をスルーしながら、気になった魔法具を買っていく。ただ、古代魔法具は今回は売り出されていないみたいだ。
「そろそろ帰ろうかな……ん?」
僕の目にある露店が止まる。店主は僕と同じくらいの年齢のみすぼらしい小さな女の子だ。
それは、赤い絨毯の上にいくつかの汚い魔法具が転がっている骨董市の中でもみすぼらしい露店で。並んでいるいる魔法具も周りの店に並ぶ魔法具に比べれば薄汚れたしょぼそうな魔法具ばかりだ。
「これ、見てもいいですか?」
水色の髪の毛を乱雑に切ったショートヘアの女の子が驚いたように顔を上げる。
「……ッはい。どうぞご覧ください」
僕は、店主の女の子にことわりを入れて並べられている魔法具を1つ手に持つ。
「これいくらですか?」
じっくり舐め回すように魔法具を眺めた僕は丁寧に魔法具を絨毯の上に戻す。
「……15000ゴールドです」
僕の様子を伺いながら女の子が価格を提示する。
本来ならここから価格交渉が始まるのだけど僕は懐から財布を取り出す。今回は価格交渉はなしだ。
「それならこれで」
僕が取り出したのは初代国王の横顔が刻印された10万ゴールド金貨。この国最大の貨幣だ。
「……あのっ! すみません。お釣りがないんです。小さいお金にできませんか?」
いきなり現れた大金に目を見開いた女の子だけども、すぐにとても残念そうに頭を下げる。
「いや、お釣りはいらないよ。10万ゴールドで買い取るよ」
「エッ……!?」
今度こそ女の子が驚いた顔のままフリーズしてしまう。
僕だって普段なら値下げ交渉をすることはあっても、提示された価格よりも高い金額を出すことなんてまず、ない。
では、なぜ今回はこんなにも高い金額を出したのか?
それはこの魔法具が古代魔法具を超える古代魔法具、幻の魔法具と呼ばれる超古代魔法具なのだからだ。
ダンジョンで発見される魔法具はそのほとんどがもう使えなくなってしまった魔法具か現在でも類似品を作ることをできる性能の低い魔法具ばかりだ。しかし、稀にボス部屋やダンジョン奥の宝部屋で古代魔法具と呼ばれる高性能な魔法具が発見される。
古代魔法具は高価な価格で取引される。ただ、だいたいこの幼い露天商が提示した価格が妥当なラインだ。
だがしかし、この古代魔法具は|超古代魔法具《ハイアーティファクト。10万ゴールドが適正な価格だ。
適正な対価を払うのが幻の古代魔法具を見つけてきた商人に対する礼儀だと僕は思っている。
こういう掘り出し物があるから骨董市はやめられないのだ。
「そんな大金受け取れません!」
幼い露天商は水色の髪を乱しながら首を横に振る。
「それならこれから君が売る古代魔法具を僕に優先的に売ってもらう料金も込ってことでどうかな?」
掘り出し物を手に入れられる商人はだいたい決まっているのだ。もはや、才能なのだ。この子にはまだ他のコレクターの手がついていない商人だ。僕に優先的に商品が回ってくるならもっと出してもいいくらいだ。
「……それなら……分かりました」
「商談成立だね! これからよろしく……なんて呼べばいい? 僕はカルロだよ」
そういえばまだ名前を聞いていない。これこらお得意様になるのだ、名前ぐらい知らないと困る。
幼い水色の瞳が一瞬だけ僕から視線を外してすぐに僕を見据える。
「……ロカです。よろしくお願いします」
「よろしく、ロカ!」
僕はロカと名乗る小さな露天商と握手した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
めぼしい魔法具を骨董市で漁った僕が次に向かうのは、初めて行くけど常連のお店だ。
ちょっと何を言っているかわからない感じになってしまっているけど間違ってはいない。
この体になって向かうのは初めてだけど、前の人生では毎日通っていたのだ。
その店の名前は『オリエステルの魔法具店』
「こんにちは~!」
僕は建付けの悪いスライドドアを両手で開ける。
このドアを開けるのにはコツがいるのだ。昔、初めて来たときは開けられなくて帰ったぐらいだ。未だに直していないんだな。
店内も相変わらずで様々な魔法具がところ狭しと無造作に置かれている。ここにある魔法具全てが超一流品なのだから驚きだ。
「いらっしゃい。ボウズ、よく開けられたな」
店の奥から出てきたのは目つきの悪い爺さんだ。
「昔、同じようなドアに出会ったことがあるんです」
「ほう、そうかい。で、なんのようだい?」
この爺さんこそこの『オリエステルの魔法具店』の店主、バル・フォイ爺さんだ。ちなみに店名のオリエステルには特に意味は無いらしい。
「杖を作ってもらいたくて。これでお願いします」
僕は懐からピンク色の大きな宝石を取り出す。
このバル爺さんは、魔法具職人で王都でもピカイチの腕の持ち主だ。
「なんだ、ボウズ。お前さん魔法使いか、ま、その見た目からしてそうだわな」
「はい、できますか?」
ただ、バル爺さんが納得するような材料を持ってこないと何も作ってもらえない。前世で初めて来たときは、20回ぐらい通ってやっと作ってもらえた。
バル爺さんは宝石を受け取ると虫眼鏡型の魔法具でまじまじと観察する。
そして、元々悪い目つきを更に悪くして僕を見る。これは駄目だったかも……。
「こりゃすごいな! ボウズ、これをどこで?」
バル爺さんが興奮を隠しきれないとばかりに詰め寄ってくる。
「骨董市の露店で買った魔法具から取りました」
少しもったいないけど、買ったばかりの超古代魔法具から魔法石を抜き取ったのだ。
「……骨董市でね。ボウズ、中々の目利きだな。これなら問題ない。儂が腕によりをかけて最高の杖を作ったるわい!」
「よろしくお願いします!」
バル爺さんは興奮気味に店の奥へと消えていく。
そんなバル爺さんと入れ替わるように建付けの悪いスライドドアがガタガタと動いて入ってきたのは緑髪のロングヘアーに純白の神官服がよく似合う、聖女マリアだった。
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