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第3話 余裕の試験、教え子のゴーレム

 受付の試練を無事に済ませた僕は本当の試験である筆記試験も終え、試験最終科目の実技試験の順番を待っている。


 まぁ、正直、余裕。


 筆記なんて間違いなく全問正解だし、実技も昔の内容のままなら低級魔族と戦うだけの簡単なもののはず。実技の相手の低級魔族なんて故郷の森のオオカミ型魔獣より弱いぐらいだ。


「受験番号419番の方。どうぞ!」


 実技会場と待ち合い室を分ける扉の向こうから僕の受験番号が呼ばれる。


 定形通りにノックをして「失礼します」と扉を開ける。


 試験会場は昔と変わらず、結界魔法を埋め込んだ壁が四方にある巨大な部屋で、あるのは試験官の立つ台と入口とは対極に配置された天井まで届く異様にでかい扉のみ。


 そして、試験会場の中央には試験官が立って――


「えっ!」


 実技試験会場の中にいたのはピンクのゆるふわウェーブを描く長い髪がトレードークの美人試験官。


 名前をマーガレット・シフォン。


 名前を知っているのは、名札がついているとか魔法の力とかなんかじゃない。


 僕の元教え子なのだ。


 まさか、元教え子が試験官だなんて……元教え子が立派に働いている姿を生まれ変わってから見られるなんて……感無量だ。


「どうかしました?」


 僕のことを見つめるマーガレット。


「なんでもないです」


 と、僕。


 いきなり元先生ですとは言えない。言ったところで信じてもらえないだろうけど。


 そんな僕を脇目に淡々と試験の説明を始めるマーガレット。


 僕の体は試験説明を右から左に聞き流して、代わりに泣き虫だったマーガレットとの学生時代の記憶を流し始める。というより、記憶の中の学生マーガレット泣いてる姿しかないんだけど……結構やばい奴だな。


「――それでは試験を始めます」


 いつの間にか試験の説明は終わってしまったようだ。


 まぁ、いいや。


 マーガレットが試験官用の台に登ると、僕の目の前にある天井まで届く扉がゆっくりと開いていく。


 そこから出てきたのは黄土色のブロックの塊。


 俗に言うゴーレムというやつだ。


 あれ? おかしいな? 低級魔族じゃなかったけ?


「ゴアァァァァァァアアアアア!!!!!」


 吠えるゴーレム。


 固まる僕。


 振り下ろされる拳。


 弾き返す魔法障壁。


 いやいや、聞いてないぞこんなの! いや、説明を聞いていなかったのは僕か。


 魔法学校入学のための実技試験で出てくるようなレベルじゃない。中級ダンジョンの最深部の宝部屋を守っていてもおかしくないクラスのゴーレムだ。試験会場から出てくる受験生の顔が一応に暗かったのはこいつのせいだろ、間違いなく。


 僕は、ゴーレムの広い攻撃範囲から出るために身体強化魔法を使って間合いを取る。


 通常ゴーレムは魔法耐性が高い。ただし、作られた素材によって弱点となる魔法が存在する。今回のゴーレムは土から作られているようなので水系魔法が弱点のはずだ。


「降り注げ! 『氷の雨(アイシクルレイン)』!」


 詠唱を簡略化した魔法に反応して、試験会場の天井下に無数の氷が出現する。


 僕は、頭上に上げていた手を振り下ろす。


 すると、頭上に展開した先端が鋭く尖った氷の塊がゴーレムに向けて降り注いでいく。


 激しい衝突音と巻き上がる氷の粉末と砂の粉塵。


 勝ったな。


 と、僕は小さくガッツポーズをする。


「ゴアァァァァァァアアアアア!!!!!」


 煙の中から雄叫びと共に現れたのは無傷のゴーレム。


 は!? ここまで耐久力の高いゴーレムなんて普通の受験者は倒すことなんてできる訳がないだろ! 

試験内容考えたやつは絶対バカだろ。


 ゴーレムの内蔵魔力が頭部に集中していく。


 それを僕が感じ取った時には、ゴーレムの瞳のような部位から真っ赤な光の線が僕に向かって伸びて来ていた。


 防御できない。


 僕は直感的に感じ取った。例え多重障壁を展開しても防げそうにない気がする。だから僕が取るべき行動はただ一つ――


 全力回避っ!


 僕が真横に飛ぶのとほぼ同時に今まで僕のいた地面に光の線がジュッ! という音をたてて着弾する。危ない、危ない。少しでも避けるのが遅かったら今頃丸焦げだ。


 僕は次の攻撃が来る前に反撃の一手を打つことにする。


 それは、ゴーレムのコアを発見すること。


 ゴーレムは体の何処かにあるコアを破壊すれば活動を停止する。本当はさっきの攻撃でコアごと粉々にするつもりだったのだが残念ながら出来なかったので、次はコアを集中攻撃に切り替えるのだ。


 ゴーレムの強力な拳の殴打を魔法障壁や回避によって躱しながら僕はゴーレムの体を注意深く観察する。


 そしてコアは思った以上に簡単に見つかった。


 胸の右側だ。人間の心臓と丁度反対の位置だ。


 なぜこんなに早く見つかったのかというと、僕がゴーレムを作るときと同じ場所だったからだ。


 僕がコアの位置を探っている間にゴーレムの方もどうやら次弾装填が完了したようだ。また、頭部の魔力が膨れ上がっている。


 僕は狙いを絞らせないようにゴーレムを中心にして右に回る。その動きに追従するようにゴーレムも体を回転させる。


 そして――


「水面に揺らぎを司る精霊・ウンディーネよ、静寂を具現せしめし力をもって、我が眼前の敵を討ち滅ぼし給え!」


 前世で僕が作り出した完全詠唱を口早に唱える。


「全てを撃ち抜け! 『水大槍の一閃(ハイドロレーザー)』!」


 僕が詠唱を終えるのとゴーレムの魔法が射出されたのはほぼ同時だった。


 (あか)(あお)の線が交差する。


 回避行動をとる僕とゴーレム。


 爆発音と粉塵。


 そして、その粉塵が収まった試験会場に最後まで立っていたのは僕だった。


 ゴーレムはサラサラとした砂粒に変わり果てている。


 僕の放った魔法は、無事にゴーレムのコアを撃ち抜いたようだ。ちなみにゴーレムの魔法は僕の左頬を掠めて試験会場の白い壁を陥没させている。威力強すぎだろ! 死人が出るぞこの試験。


「クレアーーー!!」


 涙目のマーガレットが試験官用の台の上から変わり果てた姿のゴーレムに駆け寄っていく。


 そして、砕け散ったコアを砂の中からかき集める。


「クレア。今、直してあげるからね」

 

 薄々、感づいてはいたがやっぱりあのゴーレムはマーガレットが創った物のようだ。


 昔から創造系魔法が得意な子だったけどもここまでのゴーレムを創れるようになるなんて……先生は泣けてくるよ。ただ、あの砕け方をしたらもう元に戻すのは難しいと思う。というか、不可能だ。


「ごめんなさい……。ゴーレム、壊してしまって……」


 僕はなんだかいたたまれなくなってマーガレットに声をかける。実際は、試験なのだから壊してしまっても問題ないのだが、元教え子の丹精込めて作ったゴーレムなのだ。心苦しい。


「……いえ、問題ありません。試験ですから」


 泣き虫だったマーガレットが涙を我慢している。ものすごい成長だ。模擬戦闘の授業でも勝っても負けても泣いていたのに……。


「それにしても『氷の雨(アイシクルレイン)』なんて中級魔法の中でも難しいのに。しかも短縮詠唱で唱えるなんて……あなた、何者ですか?」


「……っと、ただの、受験生、そう! 受験生です!」


「……『水大槍の一閃(ハイドロレーザー)』はクラウス先生しか知らないはずなのに……なんで……?」


 あっ! やべっ! そういえばまだ一般公開していない魔法だった気がする。


「あなた、どこであの魔法を知ったの?」


「……たまたま、本で、そう、本で読んだだけですよ!」


 我ながら苦しい言い訳だけだ。


「……そうです、か。そうなんですか」


 僕は、まだ納得のいかない表情のマーガレットにこれ以上追求されないように「ありがとうございました」と頭を下げて試験会場を後にした。

お読みいただきありがとうございます。

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