表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/39

第2話 停滞する成長、研究者への第一歩

 僕がサンジェルマン男爵家の三男・カルロとして生まれ変わってなんと6年の月日が経過した。


 今の僕のレベルは38。残念ながら4歳の時からほとんど上がっていない。そして、何より魔法の研究も進んでいない。


 その理由を教えよう。


 まず一つ目。これは4歳の時から問題になっていたのだけど、相手が弱い。もう僕の研究を効率よく進めるための魔獣はこの周辺にはいないのだ。まぁ、これは仕方ない。どうしようもないのだ。


 ここで本来なら、質がだめなら量でカバーすればいいのではないかとなるのだがそれができない理由があるのだ。


 それが二つ目の理由だ。


 それは、僕が4歳の時に禁術を使って助けた女の子を覚えているだろうか? その子、エリスが関係している。


 どこからは話せばいいのだろう。


 エリスを連れ帰った僕は、お使いをさぼって遊んでいたことを散々怒られた後、エリスをベッドに寝かせて眠りについた。


 そして翌日エリスは目覚めた。


 しかし、エリスには記憶が全くなかったのだ。


 たぶん、禁術の副作用だと思う。エリスという名前も呼ぶ名前がないと困るという理由で僕が付けたものだ。


 記憶のないエリスは、僕の家の家令を代々勤めているアヴァロン家に引き取られ僕の侍女として働くことになったのだ。


 これが問題なのだ。


 僕が魔法の研究に使える時間は、お使いと夜中だけ。その大切な研究時間のお使いにエリスはついてくるのだ。だから、僕はお使いの時間に研究をできなくなってしまった。質が足りなくて量でカバーしたいのにその貴重な時間が無くなってしまったのだ。


 さらに、もう一つの貴重な研究時間の夜中にもエリスは侵食してきたのだ。エリスは夜中になると僕のベッドに潜り込んできて眠る。そのせいで、夜中に研究に行くのも難しくなってしまったのだ。本当に助けるべきではなかったかなと思っている。


 この二つの理由のせいで僕の魔法研究計画は変更を余儀なくされた。


 大きな変更点として僕は今年この家を出る。


 そのうち家を出て行くことは決めていたのだが、7年は早くなってしまった。元の計画では脳内訓練(イメージトレーニング)と濃縮魔力生成実験の成果が出てから家を出ることにしていたのだが、このままでは他の研究に支障が出てしまう。


 では、家を出てどこに行くのかというと前世で勇者パーティーに入る前に教師を務めていた王立グリセード魔法学校だ。魔法学校は王国の魔法研究の聖地・王都にあるし、将来的に研究者として働くにも『魔法学校卒』は必要不可欠な経歴だ。


 そして、今日は王立魔法学校の試験に向かう日。


「カルロ。忘れ物はない?」


 領地の境界線にある看板の前には、結構な人だかりができていた。


 僕を見送りに来た領地の人たちだ。


「ないよ。母さんは心配性なんだから」


 涙目の母さん。


「試験、頑張れよ!」


 涙目の母さんを優しく抱き留めているのはサンジェルマン男爵家の現当主の父さんだ。


「はい! 父さん!」


 頭は剥げているけど、内面はかっこいい父さん。


「こっちのことは俺に任せとけ! お前は立派な魔法使いになれよ!」


 父さんの横で腕を組んでいるのは一番上の兄さんだ。


「必ず、立派な魔法使いになるよ」


 本当に平凡な一番上の兄さんは領民から慕われている。例え父さんに何かあっても兄さんなら何とかなると思う。


「……カルロ、頑張って……」


 一番上の兄さんの背中に隠れるように立っているのが2番目の兄さん。


「兄さんもね!」


 2番目の兄さんは、恥ずかしがり屋で臆病なところもあるけどものすごい勉強ができる。今は、医者になるための勉強を頑張っているのだ。


「手紙ぐらい書きなさいよ!」


 母さんと同じく涙目なのは姉さんだ。


「書くように努力するよ」


 辺境一美人だと噂されている姉さんには既に縁談がいくつも来ているらしい。ただ、姉さんはまだ結婚するつもりなどさらさらないらしい。やりたいことがあるとかないとか。


「カルロ様。お体にお気をつけてください。あたしも必ず王都に行きます!」


 僕の家族の脇に控えていたのはエリスだ。


「エリスもね」


 まぁ、半分君のせいで家を出て行くんだけどね。


 僕は家族とエリスと一言、別れの挨拶をすると馬車に飛び乗る。


 そして、6年間お世話になった大切な家族に大きく手を振る。最後の別れを込めて。


 なぜなら、僕は長期的な研究が一般的な魔法研究の世界に飛び込んでいくのだ。もう二度とこの辺境には来れない可能性が高い。


「それじゃ、みんな! バイバイ! 今日までありがとう」


 僕は、家族とエリス。集まってくれた領民のみんなに馬車の上からもう1度大きく手を振った。


 僕を乗せた馬車はゆっくりと王都に向けて進み始めたのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 馬車に揺られること1週間。僕は王都についていた。


 そして、今、懐かしの王立魔法学校の試験受付に並んでいる。


「次の方どうぞ!」


 やっと僕の番だ。


 昔に比べて受験者の数が無駄に多い気がする。


 他人のレベルは見ることができないのだけれど明らかに低レベルの人たちもちらほらいる。試験の内容が前世の記憶から変更点がなければ絶対に合格などできそうにない人がとても多いのだ。


 まぁ、僕としてはありがたい。


 僕はこの入学試験を主席合格しなければならない。


 主席合格すれば授業料が免除され、王立図書館の第3階層までの閲覧権が貰えるのだ。


「カルロ・サンジェルマンです」


 僕は、額と同じ高さの受付台に受験票を提出する。


「あの、受験者本人はどちらにおられるのですか……?」


 何とも失礼な受付である。


「僕ですけど……僕がカルロ・サンジェルマンです」


「ほ、本当ですか?」


「本当です。受験票にもちゃんと書かれていますよ」


 受験票を睨み付ける受付。


「カルロ・サンジェルマン、6歳。6、6歳!!!」


「6歳です。何か不備がありましたか?」


 魔法学校の入学試験には受験可能年齢の下限はない。だから、例え6歳であろうとも問題ないはずなのだ。


「……不備はないですね。それではこちらをよくお読みになってにサインをお願いします」


 差し出されたのは1枚のを紙とペン。細かい文字にびっしりと埋め尽くしている紙を読むこともなく差し出されたペンを手に取る。


 だって、この紙の内容なんてどうでもいいことしか書かれていないのだ。


 学校長の好きな食べ物とか。


 中庭の池にどじょうが住んでいるとか。


 大事なのは紙ではなくて、ペン。


 一見、ただのペンだけども実は僕が昔作った魔法具なの1つなのだ。


 僕はペンに魔力を流し込み、スラスラと名前を書いていく。


 このペン型の魔法具は魔力に反応してインクが出るようになっている。気が付かなければ書けないし、気付いても魔力が無ければインクが出てこない。


「これでお願いします」


 ありがとうございますと受け取った受付の顔色が変わる。


「紫ッ!?」


 そうなりますよね。


「こんな子供がこんな魔力を……!」


 このペン型魔法具はインクの色で魔力の量と質が分かるようになっている。7段階で下から白、黄、緑、青、赤、黒、紫の順番だ。普通の受験者は良くて赤。平均的に見れば緑ぐらいなのだ。


 紫なんて僕がここの教師だった10年間で一人か二人ぐらいしか見たことない。


「……ご、合格なので、こちらをお持ちになってあちらにお進みください」


 示されたのは開け放たれた門の向こう側。


「はい。ありがとうございます」


 僕は受験番号の書かれた紙を受け取ると試験会場に進んで行く。


 懐かしいな。


 門に近づいていくと、僕の中にそんな思いがこみ上げてきた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークしてくれた方、ありがとうございます

感想、評価をしていただけると執筆の励みになります。

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ