第20話 今までの報告、次からの予定
春の温かい風が教室の窓からカーテンを揺らして入ってくる。そんな教室の教壇の上でマーガレットが話し始める。
「今日で1回生の授業は全て終わりです」
あの迷宮探索授業から約3ヵ月。特に何も変わらない日々が続いている。
ただ、レベッカはあの日から一度も学校に来ていない。正確には来れていない。療養中なのだ。そう、氷の女王から受けた傷がまだ癒えていないのだ。
氷の女王に受けた身体的な傷は僕の回復魔法で完璧に回復している。しかし、魔法使いにとって命にも等しい魔力回路にも損傷があったのだ。
魔力回路は、魔力の流れ道だ。これが損傷すると細かい魔力制御が出来なくなり、魔法が使えなくなる。
魔力回路の損傷は回復魔法では治療できないし、もちろん、薬や外科的治療でも回復しない。時間をかけて自然に治るのを待つしかないのだ。
ただ、自然に回復するという保証もない。僕の前世の知り合いにも、魔力回路の損傷が原因で魔法使いであることを辞めざるえなかったのが何人もいる。
でも、レベッカなら完治して戻ってくると僕は信じている。根拠はないけどそう思うのだ。
ちなみにお見舞いにも行ったのだけど、レベッカは会ってくれなかった。理由はいまいち分からないけど。
それと、マリアンヌ王女も学校に来ていない。こっちは、過保護な侍女長あたりが「あんな野蛮な学校に行かせられませんわ。王女殿下に何かあったら大変ですから」とかなんとか言って監禁しているに違いない。
そんな訳で、僕はこの3ヶ月ボッチ生活に慣れ親しんだという訳だ。
別に寂しくなんかないんだからね!
加えて、ザナドゥの地下迷宮は王立騎士団によって閉鎖されてしまった。僕が入ろうとしたら入り口の警備をする騎士に追い返されてしまった。
流石に低級迷宮に上位魔族が現れるなんてことがあったのだから当然と言えば当然なのだけど……なぜっ!
僕だってあの不可解な現象を研究したいのに!
第一発見者は僕なんだぞ! 共同研究させてくれてもいいじゃないか! ずるいぞ! 学問は誰にでも平等にあるはずだ!
ということで、あの氷の女王に関連した不可解な現象について何も手がかりを手に入れられていない。研究者としてこれ以上ないくらい興味をそそられる内容なのに……。
まぁ、無理なことを嘆いても仕方ない。実際にあの氷の女王と戦えたのは僕だけだし、貴重な戦闘データは僕の頭の中にあるのだ。
「皆さんは、この一年で大きく成長できたと思います。実家に帰省する人もいるでしょうから、ご両親に成長ぶりを報告してあげて下さい」
僕の今年一年の成長はどれぐらいだったかというと、38レベルから47レベルに上がっている。
多分、クラスの中のレベル上昇率は低い。最大で15レベルぐらいは上がっているやつもいると思うし、平均でも10レベルぐらいは上がっているんじゃないかなと思っている。
僕のレベルが元々高いので仕方がないことだし、クラス全体のレベルが上がることで僕のレベル上げ効率も上がれば万々歳だ。
それに、今はレベルが上がることよりも『時間停止魔法理論』の方が僕の中では重要度が高い。
ちなみにこちらの方は、8割方完成している。後は、魔法全書に載っている魔法を一つ一つを検証すれば終了だ。
僕の春休みは、この検証をする予定で空いてる時間なんて一秒たりともない。超忙しい。最近の言葉で言えばリアルが充実している状態、つまり、リア充だ。
うん。リア充。なんかいい響きだ。
「それでは学年最後のホームルームを終わります。春休み期間中に問題を起こさないようにして下さいね」
マーガレットがお決まりの文句を言った途端にクラスメイトたちは廊下に飛び出していく。
このあと、クラスでお疲れ様会をするらしいのだ。
え? なんで僕は飛び出さないのかって?
理由は単純明快。呼ばれてないから。
別にクラスで僕一人だけが呼ばれてないわけじゃない。マーガレットだって呼ばれてないし、レベッカもマリアンヌ王女も呼ばれてない。
つまり、僕だけがハブられているわけではない。もう一度言おう。僕だけがハブられているわけではない。大切なことなので2回言いました。
と言う訳で、僕はリア充な春休みを過ごすべく教室を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「申し訳ございません。枢機卿」
とある何処かの地下室。ポツンと灯されたろうそくの明かりだけがジメジメとした部屋を照らしている。
「よいよい、気にするな。計画に失敗は付き物。今回は素晴らしい発見もあったことだしのう」
ろうそくの明かりに照らされているのは二人のフードを被った男。
「しかし、氷の女王を失ってしまったことに変わりはありません。教団が3年もの年月をかけて育てたというのに……」
「あの魔物が特異点にはなれなかったというだけのことよ。終わってしまった事などを考えるよりも、次よ、次」
「次とはあれの事でしょうか?」
「もちろん、あれのことよ。進展はどうなっている?」
「はい、万事滞りなく。すでに最終フェーズも佳境に差し掛かっております」
「そうか、そうか。それは良いことではないか。して『祝福なしの転生者』についてはどうなっている?」
枢機卿と呼ばれている老人の目が一段と細められる。
「そちらの方はすでに一人目には種を植えることができております。経過も良好かと」
「二人目の方はどうなのじゃ?」
「……申し訳ございません。まだ、進展はしておりません。対抗魔法が強く、種を植えるすきが中々なく……」
「司祭よ、お主程の者ををもってしても難しいと言わざるほどの対抗魔法なのか?」
「はい。物理面での接触は問題ありませんが、魔法面はあの年齢で既に一流の域かと……」
報告をしている司祭と呼ばれる男の声には驚愕の色が混じっている。
「特異点の可能性はどうかね?」
「私見ではありますが……教団の歴史上、最も特異点に近い存在かと……」
「なるほど。司祭にそこまで言わせるほどの逸材か、あの少年は。ますます期待が膨らんでいくではないか」
クツクツと笑う枢機卿。
「司祭よ。貴様に新たな任務を付与する」
「はっ! 何なりとお申し付けください」
「カルロ・サンジェルマンに種を必ず植え付けよ! そのたの手段は問わない。教団の最優先目標だと考えよ。例のあれの対象を変更許可する」
「……はっ! 必ず達成させてご覧に入れます」
一瞬、たじろいだ司祭がすぐさま膝味つく。
「期待しているぞ、司祭」
二人の間に揺らめくろうそくの灯火がなんの予兆もなく消え、完全な暗闇が地下室を覆う。
司祭が暗闇の中、立ち上がった時には枢機卿の気配はどこにもなくなっていた。まるで闇と同化してしまったかのように。
ただ、音だけが暗闇を漂い、司祭の耳に届く。
「教団の悲願達成のために」
司祭は、共鳴するかのように呟く。
「教団の悲願達成のために」
ここで第一章は終了です!
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次の第二章は1週間後を目標に開始させていただきます!
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