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第14話 最強の矛、最強の盾

「一番乗り!」


 レベッカは両足ジャンプ、両足着地でボス部屋に入る。


「ちょ、ちょっと待って!」


 真っ暗なボス部屋に僕がレベッカの後を追うように足を踏み入れると、壁に備え付けられている燭台に青い光を放つ花が咲く。花と同じ色の花粉がキラキラと部屋の中を舞い、それはとても幻想的だ。


「お邪魔します」


 礼儀正しく一礼してから入ったマリアンヌ王女。


 3人が入るのを待っていたかのように大理石の扉が勢いよく閉まる。


「杖! 杖、出して!」


 ノロノロと杖を構える二人。


 ここが強力な魔族がいるボス部屋だと分かっているのだろうか?


 と言うより、本来は迷宮(ダンジョン)に入った段階で杖は構えておくべきだ。


「カルロ、あれがボス?」


 レベッカが青白い光に照らされたボス部屋の奥を指差す。


「そう、あれがこのザナドゥの地下迷宮の中層守護者『半人の白い牛(ミノタウロス)』」


 通常の人間の3倍ぐらいのサイズの体を持った牛が荒い鼻息で僕たちを見据える。


 右手には人の身長ぐらいある刃渡りの斧が握られている。


「大きいですわね」


「でも、ちょっと可愛いかも。あのつぶらな瞳とか」


 こいつらには緊張感というものがないのだろうか?


「そんなことより今からあいつの攻撃の種類教えるから覚えて!」


「はーい」


 気の抜けた返事が一つと、


「おまかせください」


 状況をよく理解していない返事が一つ。


「いい! よく聞いて! あの牛野郎の攻撃手段は3種類。まず、あのバカでかい斧を使った攻撃。これは、準備モーションが大きいから簡単に分かるから慌てずに避けて」


「はーい」


「おまかせください」


 魔法具『記録水晶(カメラ)』で何枚も自撮りしながら返事をする二人。


「次が突進攻撃。これも準備モーションが分かりやすいし長いから、横に跳べばすぐに避けられるから」


「はーい」


「おまかせください」


 ボス部屋に響くパシャパシャ音。


 こいつら絶対に聞いてない。


「最後が一番大切だから、ちゃんと聞いて! 聞かないと死ぬか――


「モオォォォォォ!!!!!」


 空気を震わす雄叫び。


「くるッ! 構えて!」


 地面が揺れているのかと思う地響きを鳴らしながらミノタウロスが僕たち目掛けて突進してくる。


「私に任せてカルロ! 炎壁(ファイヤーウォール)!」


 レベッカが火系統防御魔法を唱える。僕たち三人とミノタウロスの間に分厚い炎の障壁が現れる。


「すごいですわ! レベッカ様!」


 拍手を送るマリアンヌ王女。


 しかし、ミノタウロスはその壁を軽々と飛び越える。


「ウソッ!」


 レベッカは驚愕に瞳を見開く。


 さらにミノタウロスは着地と同時に振り上げた斧を振り下ろしてくる。


「守護せよ! 天使の円楯サラキエル・スクトゥム


 僕たちの頭上に現れた光の円盤があっさりとミノタウロスの大斧を受け止める。

 

 僕とミノタウロスの推定レベル差を考えれば当然のこと。


 ミノタウロスの推定レベルは18、僕は48。


 その差推定30レベル。大人と子供以上の差がある。


 つまり、ミノタウロスの通常攻撃では破ることのできない最強の盾なのだ。


 レベッカやマリアンヌ王女は、ミノタウロスの攻撃モーションの話は右から左にすり抜けていただろうから、事前の予定通り僕が防御に専念するべきだろう。


 まぁ、天使の円楯サラキエル・スクトゥムは10回まで自動的に防御するので特にすることもないけど……。


「レベッカ回り込んで攻撃! マリアンヌ王女殿下も攻撃してください! 瞳が弱点です! 弱点属性は水属性です!」


「わ、分かった! 水属性付与(ウォーターバフ)!」


 金属製の杖に水属性強化魔法を唱えると、ミノタウロスを杖で殴りつける。


 レベッカの得意魔法は、物理魔法と呼ばれる分野だ。魔法を利用した物理攻撃だ。いまいち意味がわからない。


 水属性が付与された杖で殴られるミノタウロスは、レベッカを叩き潰そうと斧を振り上げるが、


水矢(ウォーターアロー)ですの!」


 タイミングよく放たれた魔法が弱点部位の瞳に直撃したせいでキャンセルされる。


 天使の円楯サラキエル・スクトゥム自動防御(オートディフェンス)が発動することもない。


「レベッカ様はそのまま続けてください! わたくしが援護いたします!」


 フンスッ! と胸を張るのはマリアンヌ王女。


 レベッカは親指を立てることで返事に変える。


 中々、いいコンビネーションだ。昨日出会ったばかりとは思えない。


 殴るレベッカ。


 守る僕。


 狙うマリアンヌ王女。


「モオオオォォォオオオオ!!!!!!」


 ミノタウロスが唸り声とともに大きく距離を取る。


「後退しましたわ!」


 マリアンヌ王女が無邪気に喜ぶ。


「違います! 急いで不規則に走ってください!」


 そう、これは逃げたんじゃない。ミノタウロス最大の攻撃の前兆だ。


「えっ! なんで! 追い打ちかけた方――


「いいから、走って!」


 僕の言葉に従ってレベッカが左足を踏み出した瞬間、ミノタウロスの瞳が赤く光る。


 そして、今までレベッカがいた空間が真っ赤に爆ぜる。


「何、今の?」


 本当に一瞬の攻撃に二人とも困惑して、説明を求めるように僕に視線を投げる。


 しかし、今は説明する余裕はない。


「次! 来るよ!」


 もう一度ミノタウロスの瞳に赤い閃光が現れる。


 僕とミノタウロスの視線が交わる。


 今度の標的は僕のようだ。


 攻撃を感知した天使の円楯サラキエル・スクトゥム自動防御(オートディフェンス)が作動して、僕とミノタウロスの間に光の盾が入り込んでくる。


 僕は、タイミングを合わせて横に飛ぶ。


 天使の円楯サラキエル・スクトゥムは上級防御魔法だから、ミノタウロスの攻撃はほぼすべて防げる。が、こいつだけは例外なのだ。


 ミノタウロスの目玉がさらに赤く輝き、天使の円楯サラキエル・スクトゥムごと空間を弾けさせる。


 粉々に砕けた光の盾の残滓が申し訳なさそうに漂っている。


「ンモオオォォォォォオオオオオンンンン!」


 ミノタウロスがビリビリと空気を震わす咆哮を放つ。


「で、今のは何?」


 レベッカとマリアンヌ王女がミノタウロスを警戒しながら僕の周囲に集まってくる。


「今のはミノタウロス最大の攻撃にして、唯一の魔法攻撃『全てを破砕する物(スカーレットボム)』だ」


「防御方法はあるのでしょうか?」


「ないね。全てを破砕する物(スカーレットボム)は避けるしかないよ」


 魔法障壁に対する絶対破砕属性が付与された『全てを破砕する物(スカーレットボム)』は並大抵の防御魔法では対抗できない。


 まぁ、僕が本気を出せば防げないこともないけど、強すぎる魔法を使って変に怪しまれたくない。


「攻撃の予備動作として、距離を取る、吠える、瞳が紅くなる、があったら不規則に動いて」


「なんだ、簡単じゃん。避ければいいんでしょ!」


 と言うのは、意外と脳筋のレベッカ。


「なんとかしてみせます!」


 マリアンヌ王女もレベッカにつられて頷く。


「それじゃあ、そろそろ戦闘に戻ろうか」


 僕たちの話し合いが終わるのを見計らっていたようにミノタウロスも動き出す。


「くらえ! 連続殴打(レベッカスペシャル)!」


 駆け寄ったレベッカから縦横無尽に振るわれる杖がゴリゴリとミノタウロスのライフを削っていく。


水矢(ウォーターアロー)ですわ!」


 マリアンヌ王女の遠距離魔法も完璧に弱点を捉える。


 これは、僕の援護はいらなさそうだなと思う、今日この頃だ。


 そしてその後は語るまでもない。


 レベッカとマリアンヌ王女はミノタウロス最大の攻撃、全てを破砕する物(スカーレットボム)を軽々とよけながらも、ミノタウロスを殴り、射ち、殴り、殴り、射ち、と攻撃し続け、ついには初見にしてノーダメージ撃破という偉業を達成したのである。


 いや、本当にすごい! 驚きだ!


 もう、このまま最下層まで突き進んでいくしかないね!

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