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第13話 初めての迷宮探索、見知った地下迷宮

「おはよう、カルロ!」


 王都の外縁部から歩くこと15分。今日の目的地に僕がつくとすでにそこには見知った人影が一つ。


「おはよう、レベッカ。早いね」


「そうかな?」


 今の時刻は、午前7時。


 ちなみに集合時間は8時だ。


 他の生徒はまだ誰も来ていない。教師陣の姿もない。


 昨日から思っているけど、意外とレベッカは遠足とか特別な学校行事を楽しみにしているタイプみたいだ。


 僕以外に友達いない陰キャラなのに。


「何、持ってきた?」


 レベッカは腰につけたポーチと右手に握る(ロッド)以外に何も持っていない。


回復薬(ポーション)神霊酒(ソーマ)と防御の魔法具を持ってきたよ」


 ポーチの中から出てきたのは、緑の液体の入った瓶(ポーション)赤い液体の入った瓶(ソーマ)、青い魔法石の輝く魔法具だ。


「レベッカ、迷宮(ダンジョン)行くの本当に初めて?」


 持ち物のラインナップが素晴らしい。


 完璧なチョイス。


 無駄を省き、必要最小限で動きを阻害せず、それでいて迷宮(ダンジョン)での行動には困らないギリギリのアイテム。


 もう、文句の付け所がない。


「おじいちゃんに聞いたの。おじいちゃんは元冒険者なの」


「優秀な冒険者だったんだね」


 分からないことは経験者に聞くべし。


 誰かが言っていた気がする。誰だっけ?


「カルロこそ誰に聞いたの? 持っていくもの。まさかその年で迷宮(ダンジョン)探索の経験があるわけないし……」


「し、知り合いの冒険者かな、ハハハハハ」


 忘れていたけど、僕はまだ6歳児だ。一般的に考えて迷宮(ダンジョン)に詳しいわけがない。


「そっか、カルロにも私以外に友達いたんだね」


「ハハハハハ」


 それはお互い様だ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「二人とも早いですね」


 集合時間の10分前になってようやくマーガレットがやってくる。教師として遅すぎないか? 流石に。まぁ、僕たち以外の生徒はほとんど来ていないからいいのかもしれないけど。


 そして、集合時間の5分前になってぞろぞろわらわらとやってくるクラスメイト達。


 みんな大きなバックパックを背負って重そうだ。


 まだ、迷宮(ダンジョン)に入る前だというのに疲れた顔だ。


 その中でも人一倍大きな荷物の人物が――


「荷物持ってきすぎじゃないですか?」


「そ、そうですか?」


 キレイなドレスでバックパックを引きずるようにやってきたのは、マリアンヌ王女。


「何がそんなに入っているんですか?」


「えっと、着替えが10着、ティータイム用のお茶セット一式、迷宮(ダンジョン)内で泊まれるように天幕とベッド、化粧品、他にも色々です」


 いったい何をしにいくつもりなのだろうか?迷宮(ダンジョン)で魔族とお茶会でもすると言われたら逆に納得できる。というより、よくそんなにたくさん持ってこれたな。逆に感心出来るよ。


 ただし、無駄。


 圧倒的、無駄。


 これ以上ないほどの、無駄。


 無駄しかない。


「それ、全部ここに置いていきましょう。必要ありませんから」


 多分どれもこれも高級品だろうけど、昨日もマリアンヌ王女を隠れて見守っていた執事兼ボディーガードの老紳士が見守ってくれるはずだ。


「でも、侍女長がわたくしのために準備してくださったのに……」


 やっぱりあの侍女長が準備したのか……過保護にも程がある。


 僕は、マリアンヌ王女からバックパックを奪い取ると、不必要なアイテムを抜いていく。


「こんなもんかな」 


 要らない物を抜いた結果、残ったのはレベッカと同じアイテムだけ。代わりに周囲には山のような不用品が散らかっている。現国王の人形まであるけど一体何に使う予定だったんだろうか?


「こんなに少なくて大丈夫ですか!?」


「このぐらいの方が動きやすくて危険も少なくなりますよ」


「そうなんですか? 分かりました」


 マリアンヌ王女はいい意味でも悪い意味でも素直だ。他人の意見を疑うという考えすらないのだろう。


「皆さん注目してください。時間になりましたので一組ずつ迷宮(ダンジョン)に入ってもらいます。迷宮(ダンジョン)に入る前にこの『転移魔法石』を一人一つずつ持って行ってくださいね」


 マーガレットが緊急時のための転移魔法があらかじめ込められた魔法石を配る。これがあれば最悪ここに戻ってこられるのだ。


「それでは皆さん『転移魔法石』を持ちましたね。では最初の一組目から入って行ってください」


 マーガレットの指示に従ってあらかじめ決められていた順番で地下へと続く入口を一組ずつくぐっていく。


「ちなみに最下層まで到達した組には豪華景品が用意してありますよ。頑張ってください」


「豪華景品ってなんだろうね?」


 隣に立つレベッカが首を傾げる。


「さあ、なんだろう? たっぷりの宿題とか?」


「それはむしろ罰でしょ。私は手に入りにくい魔導書とかがいいよね」


「確かにそれはいいね」


 絶版の魔導書とかだったら心躍る。


「わたくしはマジョリカの食事券が欲しいですわ」


「王女殿下ならそんなものなくても、コックを王宮に呼べばいいじゃないですか」


「町でみんなで食べてみたいんです。恥ずかしながらそのようなことをしたことがありませんので」


 王女様クラスになると、逆に庶民的なことをしてみたくなるようだ。


「それなら、このあと僕たちと一緒に行きますか?」


「本当ですか!?」


「レベッカもいいよね?」


「仕方ないから行ってあげる」


「ありがとうございます! 学校帰りに友達と遊びに行くなんて夢のようですわ」


 まるで宝くじが当たったかのように喜ぶマリアンヌ王女。


「次の組入ってください!」


 マーガレットが僕たちに早く迷宮(ダンジョン)に入っていくように促す。いつの間にか僕たちの番になっていたようだ。


「それじゃ、行きますか」


 僕は前衛役のレベッカの後に続いて迷宮(ダンジョン)の入口をくぐった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「結構、明るいんだね」


 先頭を進むレベッカが不思議そうに辺りを見回す。


「ザナドュの地下迷宮の植物は全て魔法植物で取り込んだ魔力を使って発光しているからね」


 苔から木にいたるまで全ての植物が光り輝くのがこの『ザナドゥの地下迷宮』の特徴だ。


 その幻想的な風景は迷宮(ダンジョン)百景に下級迷宮(ダンジョン)として唯一選出されているほどた。


「へぇー、きれいですわね」


 マリアンヌ王女が淡い青い光を放つユリのような花に触れようと手を伸ばす。


「触ったらだめですよ。全部毒がありますから」


「ッ!」


 マリアンヌ王女は触れる直前で腕を引っ込める。


 毒と言っても最低レベルのデバフ効果がつくぐらいの弱い毒だ。それでも、デバフはないに越したことはない。


「こんなにきれいなのに触れないんだ。なんだか残念だね」


 まじまじと光る苔を眺めるレベッカは地上には存在しない植物に興味津々だ。


「そうだね」


 正確に言えば僕は触ってもなんの影響もない。レベル差がありすぎてこの辺の植物では僕にデバフをつけることはできないのだ。


「とりあえず、進もうか」


 僕は光る植物に見惚れる女子二人に進むように促す。


 ザナドゥの地下迷宮は地下迷宮(ダンジョン)としては広いのでテキパキと進まないと最下層までたどり着けない。


「そこ右に曲がって」


 最後方で指示を出す僕。


「これは何でしょうか?」


 パーティー真ん中でヒラヒラと舞う蝶みたいな光る魔物を眺めるマリアンヌ王女。


「これ、宝箱じゃない?」


 先頭で僕の指示を無視してトラップに向かおうとするレベッカ。


 こんな感じに緊張感皆無の僕たち。だけども、特に危険な目にも合わずにどんどんと進んでいく僕たち。まぁ、危険なんて完璧に把握している僕がいるから合うわけがない。


 そうしてたどり着いたのがこの巨大な大理石の扉だ。


 階層は15層。


 ちょうどこのザナドゥの地下迷宮の真ん中の階層。つまり中ボスのいる部屋の前。


 いままで、出来る限りの戦闘を避けてきたけど、これだけは避けては通れない。


「なんだか緊張するね」


 全く緊張した素振りのないレベッカが大理石の扉に触れる。


「そうですわね。わたくしなんだか心臓がバクバクいってますの」


 マリアンヌ王女は緊張というよりも期待に目を輝かせている。


「それじゃあ、バフかけるからもう少し開けるの待って――


「ん? 何か言った?」


 既に開け放たれた扉。


 首を傾げるレベッカ。


「何してるの、カルロ? カルロが行かないなら私が一番乗りね」


 僕はみんなに聞きたい。ボス部屋前でバフを使わないのはなぜなのだろうか?

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