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第12話 始まった新授業、正真正銘のお嬢様

 季節は冬になった。


 僕は相変わらず、退屈な学校生活を送っている。


 ただ一つ違うのは、話し相手ができたこと。


「――なんだけど、カルロはどう思う?」


「それは無理じゃないかな。第一、その考え方じゃ魔力間隙の問題を無視しているよ」


 話し相手はレベッカだ。内容はもっぱら魔法物理学だ。しかも、その内容は魔法学校の研究室で語られるような高度なものだ。


 これがとても楽しい。本当に楽しい。やっぱり、魔法の研究は人類共通の娯楽なのだ。


 なので、学校に来る目的の半分ぐらいはレベッカとの魔法物理学談義になっている。


 レベッカに対する僕の印象は初対面の時とはだいぶ変化していて、明るい性格だと思う。レベッカは、人見知りをするタイプだったようだ。


「はい。休憩終わりですよ。席について」


 教室の扉をガラガラと開けてマーガレットが入ってくる。


「また、後で」


 僕たちと同じようにおしゃべりを楽しんでいた生徒たちが席につくとマーガレットが教壇から話し始める。


「今日は、みんなも知っての通り迷宮(ダンジョン)探索のパーティーを決めます」


 そう、今日は迷宮(ダンジョン)探索のパーティー決めを行う日だ。


 魔法学校では、冒険者になる生徒が多いことから王国が保有する初級迷宮(ダンジョン)に行くのが恒例授業となっている。


 模擬戦闘を行うのも迷宮(ダンジョン)に入るための戦闘技能を身につけるためなのだ。


「では、皆さん4人1組を作ってください。仲良しグループではなくてパーティー構成をしっかりと考えるようにしてくださいよ」


 完全攻略が終わっている初級ダンジョンとはいえ、迷宮(ダンジョン)なのには変わりないのだ。パーティー構成をしっかりと考えないと命が危ない。


 ただし、ここにいる生徒たちの中でそのことを理解している人間が何人いるだろうか?


 答えは(ゼロ)だ。


 ワイワイと楽しそうにいつものおしゃべりグループで固まり、パーティー構成なんて考えていない。


 誰もがそんな危険があるなんて思っていないのだ。


 誰もが約1年間の間の授業を受けて無駄な自信を身に着けてしまっている。初級ダンジョンの魔物ぐらいに負けるわけがないと根拠の無い自信を。


 そして、マーガレットもそれを注意しない。


 別に教師としての責務を怠っているのではない。


 命の危険を身を持って経験させるためだ。魔法学校の初回の迷宮(ダンジョン)探索の目的はそこにあるのだ。


 ちなみに本来の冒険者パーティーに魔法使いだけのパーティーなんていない。剣士や弓使い、僧侶、盗賊などの様々な職業(ジョブ)で構成するのが一般的だ。


 ただ、昔から魔法使いはオールラウンドに何でもこなせる。前衛でも後衛でも回復役もとりあえずできる。


 だからこそ魔法学校では全てをこなせるように魔法使いだけでパーティーを組むのだ。


「一緒に組もう、カルロ」


 僕のところにやってきたのはもちろんレベッカだ。


「もちろん」


「すみません。わたくしもご一緒してもよろしいでしょうか?」


 そして意外な人物がもう一人。


「別に問題ないですよマリアンヌ王女殿下。レベッカもいいよね?」


 マリアンヌ王女。王国の第3王女にして王位継承権第5位の現国王陛下の直系の姫君だ。


 僕が王宮で働いていた頃は、ちょうど今の僕ぐらいの年齢だったはずだ。時の流れを感じる。


「まぁ、カルロがいいって言うなら……」


 レベッカが僕の後ろに半分体を隠しながら答える。


「ありがとうございます。皆さん、なかなかわたしくしとは組みにくいようで……」


 ここにいる生徒たちは僕とレベッカを除いて王宮で権力争いを繰り広げる高級貴族たちばかりだ。そんな高級貴族たちにとってマリアンヌ王女は扱いづらい存在。もしも怪我をさせてしまったら、もしも機嫌を損ねたら、宮廷での権力争いで大きな枷になってしまう。


 今までの模擬戦闘でも僕以外で、未だ全勝なのもそれが理由だ。


 まぁ、僕には貴族の権力争いとか関係ないからどうでもいい。


「だいたいできましたね」


 マーガレットが4人1組ができているのを確認して迷宮(ダンジョン)の説明を始める。


 ちなみに僕たちが3人しかいないのはクラスの人数が27人だからだ。別に僕のレベルからすれば3人だろうが2人だろうが関係ない。最悪1人でも初級ダンジョンなら最下層まで行ける自信がある。


「ちなみに王女殿下のレベルはいくつですか?」


「えっと、この前上がりましたので21レベルになりました」


 それを聞いて僕はとても安心する。心の底からだ。


 魔法学校が向かうダンジョンの推奨レベルは17レベル。21レベルぐらいあればとりあえず戦力として考えることができる。


 ちなみにレベッカは27レベルで、僕は48レベルだ。


「マリアンヌ王女殿下は確か遠距離魔法が得意でしたよね?」


 マーガレットが迷宮(ダンジョン)を説明するのを無視して、パーティー内の役割分担を決めていく。


 魔法学校で行く迷宮(ダンジョン)はすでに全て角から角まで完全に踏破済みなのだ。今更、説明を聞くまでもない。


「はい。そのとおりです。どこかでわたくしの得意分野を教えたことがありましたでしょうか?」


 首を15度に傾けるマリアンヌ王女。


「いえ、なんとなくそう思っただけです」


 実際は、毎回模擬戦闘の授業で遠距離魔法しか使わないところを見ているからだ。


 むしろクラス全員がマリアンヌ王女の得意魔法を知っているのではないだろうか?


「レベッカは近接魔法が得意だったよね?」


「そうだよ。近接戦なら任して!」


 僕には、あの魔法戦のスタイルで魔法理論が好きなのが分からないけどね。


「それなら僕が防御とサポートをするから、レベッカは前衛。マリアンヌ王女殿下は、後衛をお願いします」


「任せて」


「分かりました。頑張らせていただきます」


 決めるべきことがもう一つ。答えは聞かなくてもわかる気がするけども……。


「あとは、誰をパーティーリーダーにするのかだけど――」


「カルロがやってよ。私はリーダーとか出来ないし」


「わたくしもそれがいいと思います」


 僕が言い切るよりも前にパーティーリーダーは僕に決定した。


「……了解」


 これで、とりあえず迷宮(ダンジョン)に向かう人的準備は万全だ。


「――以上で説明は終わりです。何か聞きたいことのある人はいますか?」


 ちょうど迷宮(ダンジョン)の説明も終わったみたいだ。


 ただ、初めての探索の話題で盛り上がっていて、しっかり聞いていたようなのはいなかった。


「それでは、明日の準備もあるので今日は授業はここまでです。明日に向けてそれぞれ物心両面の準備をしてください」


 この準備すら丸投げなのも昔からの恒例だ。


 魔法学校の校風(モットー)『自主独立』の精神に則って学生の自主性が尊重されていることになっている。本当にすべて丸投げなのだ。


 むしろ、教師がサボるためにある校風(モットー)なのではないかと僕は思っている。


 ちなみに教師時代の僕はこの校風(モットー)を余すことなく活用していた。準備の指示とかめんどくさいし。


「カルロ、どうする?」


 ツンツンと僕の方を突くレベッカ。


「とうするって?」


「明日の準備!」


 そりゃ、もちろんするけども……。


「帰ってからやるつもりだよ」


「じゃなくて、パーティーメンバーで一緒に準備しないの?」


「しないけど」


 それぞれで必要な道具も違うのだ。別々に準備した方が効率がいいに決まっている。


「あっそ、分かった。勝手にやります」


 レベッカはどうもご機嫌斜めのようだ。


「マリアンヌ王女殿下も大丈夫ですか?」


「はい。しっかり準備してきますわ」


 にこやかに答えるマリアンヌ王女。


 うーん。なんか心配だ。


「何が必要か分かりますか?」


「はい。分からないことは侍女長に聞きますので」


 あの侍女長か……逆に心配だ。


 僕の脳裏によぎるのは、白髪混じりの長い髪を頭上でまとめ、黒縁の大きな眼鏡をかけた老婆。確か口癖は「常識です!」だったと思う。


 悪い人ではないんだけどなぁ。


「いらないものは持ってこないでくださいね」


「はい!」


 元気よく答えるマリアンヌ王女。


 うん。やっぱり心配だ。


「マリアンヌ殿下、そろそろ」


 いつの間にか現れた執事服の男性がマリアンヌ王女の背後から無駄のない動きで声をかける。


「すみません。迎えが来たみたいですのでわたくしは帰らせていただきます。また、明日」


 執事服を着た男性は洗練された動きで頭を下げるとマリアンヌ王女の後ろに控えめについて教室を出ていく。


 プロの動きだ。執事ではなく王女付守護騎士なのだろう。


「かっこいい……」


 さっきまで不機嫌だったレベッカがうっとりとした目でその姿を見送る。


 女性はやっぱりよく分からん。

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