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5話:お嬢様と女騎士さん



 金髪のお嬢様が馬車の外でワンボックスカーを見て仰天していた。

 歳は多分13歳から15歳くらいだろうか。まだどこか幼さが残る。

 服装は洋風で、ゴシック風……詳しくは知らないがいかにも貴族という感じのそれである。ふわふわの髪が風で揺れている。正直に言ってかなりの美少女だ。

俺が臆する中、オカン気質の眼鏡、信長がまず彼女の元に駆けつけた。



「大丈夫かい?」

「ギャー!」



 信長を見てお嬢様は腰を抜かした。

 これは…アレか。

 俺はその光景を日常的に見てきたので何が起きたかすぐにわかった。あの眼鏡がイケメンすぎてビビらせてしまったのだ。

 どうやら異世界基準でもヤツはイケメンらしい。死ねばいいのに。

 突然のイケメン襲来にビビるお嬢様の元に、更なるイケメンが現れる。



「おいおい信長。お嬢さんが困ってるじゃねえか。お怪我はありませんか?」

「あ、あわわ……これは一体……何なんですの……?」



 夏人のやつが爽やかなホスト営業スマイルを振りまきながら少女の手を取る。 

 アロハシャツでさえなければ完璧な王子様ムーブである。

 そこに金髪のイケメンまで参入した。



「デュフフフ……金髪ロリお嬢様……たまらんでごさるなァ」

「こ……これは夢……ですの……?」



 えぇ……。

 パットンが気色悪いことを言いながら笑いかけたのにも関わらず、お嬢様はポーっとした顔で頬を抑えたりしている。

 確かに言ってることさえ除外できればパットン氏は絵本に出てきそうな王子様ルックスそのものなクソイケメンである。

 全うなイケメンはせいぜい信長くらいなものだが、状況が状況だから仕方がない。突如としたイケメンパラダイスにお嬢様は何をどうしていいのか混乱しているご様子だ。

 あー、とかうー、とか言いながらチラチラとイケメン三人衆を見ている。

 イケメンイケメン言い過ぎて疲れたわ。どいつもこいつも死ねばいい。

 


「こんな殿方が……あ、あわわ……私、こんなのどうしたら……ハッ!」


 

 するとお嬢様は、近づくタイミングを失っていた俺にようやく気づいた。

 なんとなく気まずい心地になってペコリ、と頭を下げるとこちらにツカツカと急ぎ足で向かってくる。

 な、なんだ……?

 かくいう俺も美少女に急に接近されるとビビるのだ。



「……安心感!」



 力強い宣言と共にガシリ、と俺は両手を掴まれた。



「…………?」

「…………?」

「…………?」



 幼馴染のイケメン三人衆は首を傾げる。

 お嬢様は俺に涙目で語った。



「あ、あんな耽美な方々と、お話できませんわ! 助けてください!」



 ……泣いていいかな!

 心の中でそうツッコんだ時のことである。

  


【アリステラ・クリエルと深い絆を結びました!】


【新たな力が解放されます──《複製箱》】



 突然頭の中に声が鳴り響いて。

 ぺかー、と俺の手が白く発光した。



「キャー!?」

「なんで!?」



 恐る恐る手を空けると、そこには見たことのない、真っ白な『箱』が鎮座していた。



「……魔術師、ですの?」



 突然手から箱を生やしだしてごめんなさいね。俺にもわかりません。

 つーか、その、何です。アリステラさんでしたか。

 貴方と今、深い絆を結んだらしいのですが、こんな薄っぺらい絆あります……?

 俺はそういった言葉を、もう状況がややこしくなるのが嫌なのでぐっとこらえて、話を進めることにした。



「えーっと、自分たちはその……旅の者でして。申し遅れました。自分はレンタローと言います。貴方は?」

「……は、はい。私はアリステラ・クリエルと申します。あっ。これ言ってはいけないやつでしたわ……お忍びだった……わ、忘れてください! 私はステラです!」



 どうやらお嬢様はドジっ子らしい。

 俺が思わずほんわかしていると、ぞろぞろと夏人達がこっちに向かってきた。

 アリステラちゃん……もとい、ステラちゃんがさっと俺の背中に隠れる。



「すっげえ光ったな! どうしたんだ! 面白いことかー!?」

「……アーティファクトが増えた? 一体何をしたんだい? 詳しく説明してくれ」

「レンタロー氏ィ~何で拙者を差し置いてロリっ子と仲良くなってるんでござるか~。拙者たち、ロリッ娘と仲良くなる時は一緒って言ったよね!」

「ええい! やかましい! ちょっと黙ってろ! 特にロリコン野郎!」



 俺はしっし、と三人を手で追い払った。頭の中に増えたスイッチを押すと、白い『箱』が手から消える。よし、一回落ち着こう。

 除け者にされた三人は納得いかない感じで俺達から距離をとって、これ見よがしにラグビー選手よろしく円陣を組んで、ひそひそ話を始めた。

 あー、もうめんどくせえなアイツら。無視だ無視。



「よ、よろしいのですか……?」

「大丈夫ですよ。アイツらアホなので放っておきましょう。失礼しました。ええと、ステラさんは何故こんなところに?」



 俺達が異世界から来たなんてことをわざわざ語る必要はないだろう。

 いざとなったら、とりあえずは行商人とか適当なことを言って誤魔化せばいい。

 とにかくまず知るべきはこの世界の情報だ。できればこの女の子と……今はぶっ倒れている女騎士さんから可能な限り情報を引き出しておきたかった。

 少なくとも、道端で怪物に襲われる世界なのは間違いないようだしな。

 しかし、身なりのいいお嬢様が女騎士様とお忍びで二人旅、か。何か事情があるんだろうなあ。



「は、はい……。私と、その、ドリアーヌはその、『冒険鼎立都市フェリシダ』に行くところでして……あ! ドリアーヌ! ドリアーヌは無事ですの!?」



 ドリアーヌさん……あの銀髪の女騎士のことだろう。

 怪しいですね。

 あそこにいる赤いアホが車で轢きましたから。

 とは流石に言えなかった。

 


「え、えーと。魔法で治癒しましたので大丈夫かと思います」



 というか、人身事故のこと言わなくていいよね?

 俺は夏人にアイコンタクトした。アロハ野郎は激しく首を縦に振っている。まあ、うん。だよな。



「回復魔法を使えるなんて! すごいですわ! もしや、『巨竜防衛都市』からいらっしゃったのですか!?」

「いえ、もう少し遠い所から来ました」

「そうなのですか……しかし、あのドリアーヌが負けるなんて……皆様がいなかったら私もどうなっていたことか……」



 しゅん、とお嬢様がうつむく。

 罪悪感が結構湧いてきたよ。俺は。

 聞いているのかね夏人君!

 とかなんとか脳内で叫んでいるうちに、お嬢様は何やら決意をした目で俺を見上げてきた。



「……あの、恥を忍んで、お願いがございます。ドリアーヌが倒せないゴブリンを討伐して無傷……さぞや高名な戦士、冒険者の方々とお見受けするのですが」



 ぎゅっと、お嬢様がスカートのすそを握る。

 

 

「私とドリアーヌを、送り届けてくれませんか? 報酬は、『冒険鼎立都市』に着いたら必ずお支払いいたします」



 めっちゃ断りづらいなあ。

 俺は溜息をつく。

 その様子を否定と受け取ったのか、お嬢様は慌てて言い足した。



「しゅ、淑女として、必ず皆様にご迷惑をおかけしたりはいたしませんわ!」




 ◆ 




  

「すごいですわ! すごいですわー!」



 揺れるワンボックス・カーの中でキャッキャッと淑女のお嬢様が騒いでいる。



「ハハハ! 見ろよお嬢様! この速さ! すごいだろ!」

「すごいですわ! すごいですわー!」



 著しくIQが下がりそうな会話を繰り広げながら、ステラちゃんと夏人はドライブを満喫していた。

 アリステラちゃんはアレだ。大体やけくそだった。もう状況の理解を完全に諦めて、IQを半分ぐらいにしている。

 流石淑女だ。適応能力が高い。見習いたいものである。

 そして、IQが半分くらいになったアリステラちゃんとタメを張ってハシャいでいるのは我らが夏人くんだ。見習いたくないものである。

 運転席の信長君がハァ、と溜息をついたのが聞こえた。アイツはいつも苦労人だ。



「本当にすごいな、この乗り物は……一体貴方達は何者なのだ? ……いや、よそう。まずは礼だ。申し訳ない。まさかあんなところで魔物に出くわすとは思わず油断していた」



 銀髪の女騎士、ドリアーヌさんが俺達にペコリと頭を下げる。

 そう、俺達は結局、ステラちゃんとドリアーヌさんを『冒険鼎立都市フェリシダ』まで送り届けることにしたのである。

 まあ、あれだよね。完全に事故を誤魔化すためだよね。

 ステラちゃんの馬車の荷物は驚くほど少なかった。必要最低限の日用品と、微量の食料だけ。

 ますます怪しさは増したが、多いよりはいいということでサクッと車の荷台にそれらを突っ込み、俺達は『冒険鼎立都市』とやらに向かっている。

 時速50キロで大体5分ほど走った時分、女騎士のドリアーヌさんが目を覚ましたというわけだ。

 ちなみに馬についてだが、



『この狼煙を上げておけば、後々お馬さんは回収されますわ。あらかじめ、この辺りの冒険者にお金を払ってありますの』


 

 ということで緑色の狼煙をステラちゃんが上げてくれた。

 まだこの世界のことはさっぱりわからんな。冒険者……か。馬の回収とかするのか、この世界の冒険者は。

 大変だなあ……あっ、俺がドリアーヌさんの対応をせねば。

 席順は運転席に信長、助手席にパットン、そして最後尾列に夏人とステラちゃんである。

 必然的に、女騎士さんの相手は真ん中の席で隣り合った俺がすることになっていた。



「いえ……困ったときはお互い様ですから。『フェリシダ』はこちらの方角で合っていますか?」

「ああ、こんなに早く移動したことはないが……この街道を真っすぐ行けば、日が暮れるまでには到着するはずだ」



 しかし、ぼうけんていりつとし……鼎の都市ねえ。

 また随分とファンタジーな名前の場所である。完全に異世界です。本当にありがとうございました。

 ここが異世界ではないという可能性も捨てきれなかったが、完全にその線は消えたようだ。まあいいか。

 ドリアーヌさんは続ける。

 


「その身なり……他国の貴族とお見受けするが。すまない。どこかで会ったことはあったかな?」


 

 ドリアーヌさんの問いには、運転席から信長が答えた。



「いえ……だが、馬車の家紋でわかる。あの方はアリステラ・クリエル様ですね。噂に違わぬ奔放さですね」



 こ……こいつ……。

 信長の奴はさらっとチートを使った上にハッタリをかました。

 俺とパットンは一瞬ギョッとしたが、速攻で目を逸らし、そしらぬ体を装った。

 もちろん、信長が異世界の家紋なんぞ知っているわけがない。【賢者】の力でアリステラちゃんの本名を覗き見ただけだ。

 つーかさっき俺聞いたけどね。その名前。あ、秘密ってことになってるのか。

 だがドリアーヌさんは適わないな、とばかりに肩をすくめる。



「そこまで気づかれていたか。成程、武力だけでなく大した知見までお持ちのようだ」

「……しかし、何故あれほどのお方がこんな森に……いえ、やめておきましょう。お互い、痛くもない腹を探り合うのは」


 

 信長君がサラサラと話を進めている。

 俺はその様子を黙って見ていた。この眼鏡は特に理由もなく嘘をつくやつではない。おそらくは何かしらの目的があって、ハッタリをかましている。

 ……おそらくは、後のことを考えての布石だ。

 『冒険鼎立都市』に到着した後、最も効率よく情報を集めるためにはどうしたらいいか。

 おそらくは現地人である彼女たちの関係者という立場が一番都合がいい。



「……そうか。ならば わかっているとは思うが……我々の旅は極秘でな。今は大した持ち合わせもない。満足な礼もできず、不徳の致すところだ」

「クリエル家の事情など、我々の耳になど届いていませんとも。『特別な感謝』をいただけるなら、それだけで十分ですよ」



 ……まあ、いいや。めんどくさくなった。

 流れる景色を見る。

 舗装されていない街道。信号機なんて、もちろん一つもない。車は少し揺れながら、驚くほどスムーズに走っていた。

 たまに雑木林や岩場が見える程度で、街道はどこまでも続くようだ。そして空も、ひたすらに青かった。

 


「ああ、やっぱりいいなあ。こういうの」



 俺は誰にも聞こえないように独り言をつぶやいて。

 ついでに頭のスイッチを押して、先ほどの白い【複製箱】とやらを取り出してみる。

 サイズは手のひらに収まるほどで、表面には微妙にレリーフのようなものが刻まれている。

 


「あ、これは蓋とれるわ」



 この世界に来た直後に現れた【箱】は特に空けられもしないただの四角形の物体だったが、これは違うようだ。

 流石、俺とステラちゃんの絆の結晶()であるだけのことはある。 

 中には驚くほどのアイテムが入って……ませんでした。空ですわね。



「信長ー。この【箱】ちょっと見てくんね~?」

「運転中だから後でね。ドリアーヌさん、最近の情勢なのですが……」

「別に渋滞とかないんだし、止まればいいじゃん……」



 俺はとりあえずケツポケットから財布を取り出して、500円玉を取り出し、【複製箱】とやらに入れて蓋をしてみる。

 複製って名前だし、これで増えたら面白いんだが──次の瞬間。

 俺の左手が発光した。



「おお!?」



 見れば、それは右手に持っている【複製箱】と同じものだった。表面にはやはりレリーフが刻まれている。

 ただし──真っ黒だ。白い【複製箱】とは正反対の色。

 恐る恐る、俺は黒い【複製箱】を開けてみる。中身を確かめ、次に、白い【複製箱】の蓋も取る。



「……500円、ゲット」

 


 二つの箱には、確かに500円玉が入っていた。






 ────【女神の石板】が更新されます。


 ────深刻なエラーが発生しています。【勇者】はただちにエラーを排除してください。


 ────戦況を更新します。現在の戦況は【人類側の有利】です。


 ────人類の勝利を願って。




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