4話:大魔王と勇者と賢者とそして箱
「ハズレ能力乙でござる! 乙でござるぞー!」
「うるせー! 殺すぞ!」
「まぁまぁ落ち着けってレンタロー」
職業【はこ】ってなんやねん。
俺はキレていた。
危なげなくゴブリンを全滅させたパットンと夏人が戻るや否や、イチャモンをつけることにしたのである。
「お前らはいいよなー! 【大魔王】に【勇者】に【賢者】だもんなー!」
「うーむ。よくわからない。なぜ君だけそんなことに……?」
別に言う必要性がないので3人には語らないが、心当たりは、ある。
キャラシートだ。
この世界に来る前、TRPGをやろうとして。そこで書いたシート。あれが答えだ。自分で選択した職業がチートとして反映されているらしい。
そして俺は【はこびや】と書こうとして、そのまま事故って「はこ」までしか書けなかった。
それが原因だろう。
だからってそんな……そんなことってある?
チートってそんなお役所仕事みたいな感じで決まるの?
箱って職業じゃないじゃん。物体じゃん。
「で、お前その『箱』は何ができんの?」
「あー、とりあえず一度、レンタローも含めて能力をまとめようか」
俺達は草っぱらに円座した。
信長がさっとペットボトルに入っていたコーラを紙コップに入れて配る。
俺はぐいっとそれを飲み干す。色々なことがあって疲れていたので、爽やかな炭酸が染みた。
「くーっ!」
4人の声がハモった。それぞれ、ほっと溜息をつく。
そして2,3秒の静寂の後、信長が車に入っていたらしい町内会のチラシの裏に記入を始めた。
他3人はグビグビと炭酸飲料を飲みながらその様子を眺める。
「えーっと、大体こんな感じかな。僕の能力でわかる範囲だと」
夏人……職業:【大魔王】 アーティファクト:【魔王剣】 能力:生物以外は何でも斬れる。何か手から雷が出る。ステータスが高い。
パットン……職業:【勇者】 アーティファクト:【勇者のマント】 能力:歴代勇者の召喚。治癒魔法が使える。ステータスが高い。
レンタロー……職業:【はこ】 アーティファクト:【箱】 能力:不明。(いつでも小物が収納できる!?)ステータスは低め。
信長……職業:【賢者】 アーティファクト:【賢者の写本】 能力:他人の名前、ステータスが見える。アーティファクトの能力がわかる。ステータスは低め。
ふう、と信長が額の汗をぬぐった。
なるほど、【賢者】って言ってもわかるのはこの程度の情報なのか。
それにしても……。
「やっぱ俺がゴミすぎる……能力が100均で手に入るレベルじゃん……」
「ハッハッハ! まあ元気だせって! 俺の配下にしてやるからよー!」
グビグビとコーラを飲みながら夏人が俺の背中をバシバシと叩いてきた。痛い、痛いっつーの。
えーと、もうこの際俺のことは置いておこうぜ。悲しくなるから。
まず、アーティファクトって何なの、ってとこから話そうよ。
「それは僕にもわからない。それを見ると書いてあるんだ。アーティファクトって。ちなみに僕のステータス閲覧能力は常時発動してるわけじゃなくて、気合を入れると使える」
俺の【箱】もそうだが、どうやらアーティファクトは念じることで出し入れができるらしい。
頭の中のスイッチを押す感覚だ。
夏人は巨大な漆黒剣を出したり引っ込めたりして遊んでいる。落ち着きのない奴である。
つーか怖いからやめろや! こっち刺さりそうなんだよそれ!
「んー。大体わかったわ。何か色々斬れそうだなこれ。つーか俺の出したあのビリビリって雷、なに?」
「えっ……夏人氏もわからないんでござるか?」
「ああ。何か気分で出たわー」
「こわっ。完全にシスの暗黒卿みたいになってたじゃんお前」
「まあ俺様【大魔王】だし? 多少出るよ。カミナリくらい」
夏人が腕を組んでドヤ顔した。気分で雷出すなよ。
だが、確かにおかしい。
信長は言っていた。こいつはイレギュラーだと。
チラリ、と信長を見るとコクリ、と頷く。
「レンタローの職業がその……ちょっとアレだから見逃しがちだけど、夏人、君はおかしい。【大魔王】というのはだね──」
「んだてめー! 喧嘩売ってんのか! 殺すぞ!」
「アレってなんだよ! アレだけど! 殺すぞ!」
「まぁまぁ2人とも落ち着くでござるよ」
俺と夏人は信長へ向けようとしていた抗議の念を間に入ってきたパットン君にぶつけることにした。
「つーかパットンてめー! 何だよあの光るハゲ召喚は!」
「そうだそうだ! 急に知らない人出てくるからビックリしたわ!」
「は!? ハゲじゃないでござる! 歴代の勇者の皆様でござる! 全てを破壊し満足する者達でござる!」
「勇者なのに全てを破壊すんなや!」
「髪の毛つけて出直してこい!」
パットンの召喚していた光る人達。
あれはどうも、この世界にいた勇者さん達の魂?のようなものらしい。
どっかの国民的推理マンガの犯人が青く光っている感じのやつだ。
夏人のせいで光るハゲというイメージが強くなってきた。今後もし召喚されたら笑ってしまうかもしれない、とパットンに強く訴えかける。
「笑わないで!? 拙者あの技結構かっこいいなって気に入ってるからね!?」
「俺の剣の方がかっこいい!」
「どいつもこいつも当たり能力引きやがって! ぶつけんぞ! 箱ぶつけんぞ!」
俺達の醜い言い争いに、真面目なメガネが割って入る。
「ええい! ちょっと黙らないか君たち! ええと、パットンは歴代勇者の召喚、それにヒール魔法が使える。それでいいかい?」
「ハァ…ハァ……いいでござる。てか多分もうちょい歴代勇者の方々いるっぽいけど、呼べるのはさっきのお二人だけでござる。魔法も《光の治癒》以外は使えないっぽい」
テンションを上げ過ぎて疲れた俺達は、炭酸を飲んで休憩することにした。
そのまま冷静になる。空が青いし、森はのどかだ。
気温は暑過ぎず、寒すぎない。思わず溜め息がでた。
信長がメガネをクイッとさせて、話を戻す。
「えーっと、そう。夏人のことだ……神と話した内容は、こうだ。僕らの目的は『魔王』を倒すこと。【大魔王】である君を倒す、ということなのか?」
「んー。つっても、俺、魔王じゃなくて大魔王だし。違うんじゃねーの? てか俺に俺倒せっておかしくない?」
俺以外の3人はどうやら同じ言葉を神様とやらから聞いているらしい。けっ。俺は除け者かよ。
TRPGのことも、やはり夏人もパットンも覚えていないとのことだった。
その辺はあまりにも情報が少なくて、これ以上考察する意味はなさそうという結論に落ち着く。
俺もシナリオの概略とか見てれば色々役に立ったんだろうが、生憎ステータスの計算しかしていなかった。
世界観とかもっと読んでおけば、この異世界がTRPGの世界そのものだったりしたかも……と思うのだが、後悔先に立たずだ。
「……とりあえず、レンタローの箱に何か入れてみようぜ」
「いや。それが開く口がねーんだよこの箱」
「ええ……マジでただの箱なん……」
た、多分そのうち覚醒するから。
こういうアイテムって大体伏線ありそうじゃん。なあ賢者様。
「……そ、そうだね。僕の能力もまだわからないことだらけだし……ゴホン、えー、今後どうするかだけど……」
信長があからさまに俺の能力がゴミであることを誤魔化して話題を切り替えようとした矢先の出来事だった。
かわいらしい悲鳴が背後から聞こえた。
「きゃ、きゃああああああああ! ど、ドリアーヌ! どうしたんですのー!? なんですのこの大きな箱は!?」
「……そういえば、忘れてたわあのコ達のこと」
夏人がポツリとつぶやく。
さて、異世界人と初の邂逅か。
どうなることやら……。