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ワンボックス・トリッパーズ~異世界だろうと仲のいい男4人で気楽に生きていく~  作者: 千年積み木
1章:冒険都市フェリシダ~温泉と冒険と商売と~
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18話:【第七魔王】





 俺は茫然としていた。

 何でだ。何でこんな残酷なことができるんだ。

 【魔王】とは、それほどの存在なのか。思わず身震いする。

 人と【魔王】。種族だけはない。大きな精神性の隔たりを感じていた。



「ぎゃああああああああ!!」



 皮が無理矢理剥がされ、肉が弾け飛ぶ。

 顔は苦痛に歪むが、弑逆は止まらない。1手、また1手──再び肉が削られる。

 夏人の紫電が舞う。パットン氏が、光る人達と共に戦っている。

 だが、本来なら圧倒的な力であろうその行為すら──どこか虚しさを感じるほどだ。



「なんで……何でこんなことに……」


 

 俺は、ただ、少女に。

 安心感があると言ってくれた、この世界で始めて会った少女・ステラちゃんに、会いに来ただけなのに──再び、血肉が舞った。

 もう、俺に出来ることは、きっと何もなかった。

 事の発端は、たった数刻前のことだ──






 ──石造りの翼をはやした巨大ゴーレム。

 それが【第七魔王】ルクランと呼ばれた存在の正体だった。禍々しい異様ともとれる肉体に、俺は思わず恐怖する。

 勝てない。きっと、これは人間に勝てる存在ではない、そう本能が継げていた。逃げろ、と。

 教会にいた神父が、ポロリ、と聖書らしきものを落した。

 修道服を着たシスターの集団が、悲鳴のような声をあげた。

 そして冒険者、工匠、商人──『翡翠の教会』を訪れた全ての人が、突如として出現した【第七魔王】の異様なる姿に目を見張っていた。

 


「《冒険都市フェリシダ》か。今日より、この都市は陥落することになる──」


 

 魔王は、人々が驚愕するのを見て、満足そうに石造りの顔を歪ませた。

 そう、そして、そうだ。

 誰かが、叫んだのだ。



「れ、れ、れ……レイドだあああああああああ!!」

「レ……何……?」



 何?

 そして。

 次の瞬間、人々はその禍々しく恐ろしい異形に────殺到、していた。



「……なん…………だと?」



 その数は、百人を超えるだろう。

 冒険者らしき一団が、工匠が、商人が、そして教会にいたシスターが、優しそうな神父さんが、目をギラつかせて。

 【第七魔王】に対し──攻撃を始めていた。



「隊列を組めぇええええええええ!! 攻撃を仕掛けるぞおおおおおお!!」

「ギャハハハハハハハハハ!! レイドだ! 久しぶりのレイドだああああああ!!」

「回復魔法陣展開ィィィィィィ! ヒャハハハハハハハハハハハ!!」



 ……えっと、これは一体……。

 俺はそっと、フェリシダ様の方を見た。

 ああーっと!

 フェリシダ様は両手で顔を抑えて、地面に膝をついておられるー! 

 えっ。な、なんですか。どういうことなんですか。

 俺は、再び【第七魔王】の方を見やる──地獄が、繰り広げられていた。



「そ、そ、そ、素材ぃぃぃぃぃぃ! レア素材ィィィィィィ!」


 

 ハンマーとノミをひたすらに魔王の身体に叩きつけ、魔王の肉体を構成する鉱石を削り取ろうとする工匠の集団がいた。



「ヒャハハハハハハハハハハハ! 金金金金金金金金金金金金ェ!! 金ェェェェェェェェ!!」



 魔王の足元にひたすらに攻撃を仕掛けバランスを崩し、敵の目の辺りに粉塵をまき散らす弾を投げつける商人の集団がいた。



「名声ィ! 功績ィ! 名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声名声!!」



 魔法を飛ばし、剣で斬りつける。ひたすらに攻撃を続ける冒険者の集団がいた。



「ギャーハッハッハッハッハ!! ひゃーはっははっはっはっはっは!!」



 ひたすらに笑いながら、神父さんとシスターさん達が光の光線のようなものを魔王に向けて放っていた。

 職も、性別も、歳も、種族すらも超えた共通項がある。

 それは、とても楽しそうで──みんな目がイッちゃってるということだ。正直、とても怖い。



「え……ええ!? ま、待て貴様ら! 我は【第七魔王】ルクランだぞ……!? 痛い……! ちょ、待て……目潰しだと……ッ卑怯な……ッ!」

「攻撃させる隙を与えるなァ! AからSランクギルドの連中が防衛線を回せェ!」

「回復は任せろォ! 耐久すっぞぉ!!」

「俺の功績だ!! 俺の素材だ! 殺せ! いや死ぬな! 素材を落せ! 素材素材素材素材ィ!」

「眼を潰せッ! 眼だ! とにかく眼を潰せ!! ヒャハハハハハハ!」

「俺もやるぜ! うおおおおおおおおおお!!」

「いいぞ! 赤毛の兄ちゃん! だが素材は俺のものだああああ!!」



 ……どういうことなの。つーか夏人のやつがノリノリで紫電をまき散らしている。

 あ、あのビリビリやたらと効いてるっぽいな苦しそう……いやいや。

 俺と信長、パットン氏は、再びフェリシダ様の方を見た。

 【第七魔王】が悲痛なる声を上げる。



「……ひゃ、100年前はこんなのではなかったぞ!? ……フェリシダァ! き、貴様……! この都市の人間達に何を吹き込んだァ!? ……眼はやめろ! 眼は!」

「だ、黙りなさいッ! 魔王が! 私だって……私だって…………こんな風になるとは思わなかったんです! フォードが……フォードが……!」

「呼んだか?」


 

 きゃあ。

 俺はビックリした。

 ぬらり、と噂のフォード氏が現れたからである。



「ふぉ、フォード! いつからこの教会に!?」

「いや、今日は例のクリエル家の嬢ちゃんと交渉するから来るって言っておいただろ……」

「それに……あのレイド戦という制度! やめなさいと言ったでしょう! あなたのせいで! 私の民がこう……こう……おかしなことになったのです!」

「俺はただ、素材の大切さと金の大切さ、あと名誉の大切さを教えてやっただけだろ……ふむ。『魔王』と聞いた時は正直焦ったが、赤毛の彼が上手く攻撃を弾いてくれているな。これなら他の皆も大丈夫そうだ。最もアレだけ回復魔法がバラまかれていれば死にたくても死ねないだろうが」


 

 【第七魔王】を寄ってたかってボコっている集団の先頭で戦う夏人を見て、うんうん、とフォード氏は頷いていた。

 俺はとりあえず挨拶することにする。

 


「えっと、フォードさんおつかれさまです。何かすごいことになってますね」

「ああ、『一箱』の噂は聞いているぞ……『聖剣迷宮』を荒らしまわっているとか、妙な美味なる料理を売っているとか……」



 料理は狙ったわけじゃないんですけどね……。

 それにしても、レイド、とは?



「君たちは初参加か?」

「は、はい」

「迷宮なり、外壁に寄ってくる巨大モンスターをこの都市ではレイドと称して皆で狩る風習があってね。ほら、あそこで戦っている冒険者がいるだろ? あれはSランクギルド……というか『FM商会』の人間でね。レイド戦を宣言できるんだ」



 そして、フォード氏の説明によると『レイド戦』として認定された戦いに参加すると、それだけで一定の貢献証を得ることができる上、戦いの貢献に応じてランダムでモンスターの素材等が報酬として配られるらしい。

 貢献をどう測定するのかって話だが、それは《レイド戦管理魔法》という便利な魔法があるそうだ。

 しかしなるほど。Sランク……フォード氏のギルドの人も参戦しているのか。

 おそらく、【第七魔王】は教会に存在する誰よりも強い。

 俺でもわかるくらいの圧倒的な死のオーラを放っているし、腕を少し振れば衝撃波で壁が吹き飛び、また身体の鉱石や翼を利用した多彩な攻撃方法を持っているようだった。

 だが、明らかにレベルの違う冒険者らしき人達が前線にいる。【第七魔王】の範囲攻撃を巨大な魔法陣を展開して受け流す者、明らかな致命傷を一瞬で治癒する者。

 それによくわからないが、大規模なバフ魔法やデバフ魔法も発動しているらしい。

 明らかに【第七魔王】は実力を発揮できない。これはアレだ。ネトゲとかでルーチンのように敵を倒す熟練のゲーマー達の動きだ。

 何より、夏人が【魔王剣】を振り回し、紫電をまき散らすことで【第七魔王】の動きを大きく制限しているようだった。




「しかし、これは……長丁場になりそうだな。全てのギルドに召集をかけたが。さて……どうするフェリシダ様。この場で【第七魔王】は狩れるのか?」

「……【魔王】を本当の意味で倒せるのは、【勇者】だけです。どうやったのかは知りませんが、【勇者核】を貴方達は失っていないようですね……ありえない。本当にありえない……」



 チラリ、とフェリシダ様がパットンの方を見た。

 そうなんだよなあ。どうせバレると思ってたけど、やっぱ不味いのかなあこれ。



「しかし、事実貴方はまだ勇者です。ならば、私としては言うべきことは一つ。勇者よ。魔王を打ち倒すのです────人類の勝利を願って」



 フェリシダ様は手を組み、祈った。成程、流石に神様なだけあって様になる。

 パットン氏はむやみに感動していた。



「う、うおおおお! ついに! 拙者の時代がきたああああ!」



 そういって、赤いマントをたなびかせながらパットン氏は前線へと駆け抜けていった。

 光る人が、ぐっとサムズアップして後を追う。



「さて、そんじゃあ俺も参戦するかな……武器を持ってくる」

「な、何とか私の教会からこの乱痴騒ぎを追い出して欲しいのですが……! アレの狙いは、私を殺し《都市魔法》を失わせることに違いありません」

「いや、この教会以外で戦闘に耐えられる場所ないから」

「フォードォ~!」

「じゃあレンタロー君、俺はしばらく外すが、君も危険そうなら下がりつつ……この都市の流儀を見ておくといい。『巨獣狩り』において、本来人間に敵う生物などいないことがよくわかる。フェリシダ様も早く避難するぞ。アンタが死んだらこの都市は終わりなんだからな」

「フォードの馬鹿ぁ~!」

「じゃあな」



 あっ、はい。

 ありがとうございます。

 そして、俺と信長は頷き合って、その辺の安全そうな場所に体育座りをして、戦闘を眺めることにする。

 フェリシダの民たちに囲まれボコられている【第七魔王】が叫んだ。



「待てフェリシダァァぁぁ! 貴様ァ! この都市の人間は何なんだ……眼はやめろ! 眼は! クソっ! 貴様【魔王剣】さえなければ我がこんな人間たちに遅れをとることなど……!」

「素材を落せェえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「富ィ! 名声ィ!」

「金金金金ェ!」



 なあ。信長。

 あの【魔王】のHPみたいなもんも見えるの?

 耐久力がどうこう言ってたじゃん。



「見えるけど……何で?」



 今の調子だと、倒すのにどのくらいかかりそう?



「うーん。丸2日くらいかな……」



 そっかあ。

 …………トランプでもやる?



「やる」



 種目は話し合いの結果、ポーカーになった。




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