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ワンボックス・トリッパーズ~異世界だろうと仲のいい男4人で気楽に生きていく~  作者: 千年積み木
1章:冒険都市フェリシダ~温泉と冒険と商売と~
16/25

15話:初めての依頼!




 翌朝。というか昼過ぎ。

 例によって男どもが俺の部屋に集う。

 チッ。人が気持ちよく寝ていたというのに起こしやがって。

 俺はベッドに横になったまま抗議すると、夏人が人懐っこい笑みを浮かべながらヘラヘラと笑った。

 クソ、起き抜けにイケメンを見るとイライラするぜ。



「だってお前起こさないと無限に寝てるじゃーん」

「レンタロー氏の起きてこないっぷりは夜型に生きる拙者もドン引きするレベル」



 う、うるせえ。

 睡眠は健康の元なんだよ。つーか無職に規則正しい生活を求める方が悪いだろ。

 で、何の用だ。



「僕ら、ギルド作っただろ? 色々決めちゃおうよ。ギルド長誰にするかとか」



 ああ。そういうことね。

 俺達は今日の朝、都市長のフォード氏の前でギルド『一箱』を設立した。というか作ってもらった。

 俺も一応Cランクギルドの一員ということになるらしいな。

 んで、ギルド長?

 夏人でいいでしょ。



 そういうことになった。満場一致である。パチパチと俺らは拍手して、夏人がガッツポーズをした。はい決まり。

 リーダーは必ずしも有能で積極的なタイプがやればいいというものではないが、少人数組織の場合は普通に夏人のようにエネルギーがある、所謂リア充タイプが望ましい。

 まあ、別に誰がやっても金があるからいいっちゃいいんだが。資金力はあらゆる理論を超越する。 

 で、ギルド長さんよ。ギルドって何するんですか。俺、細かい話聞いてなかったっす。

 夏人が真剣な面持ちで頷く。



「奇遇だな。俺もだ。正直ギルドって何? って感じ」

「リコールしていいかな」

「任期30秒……短い天下でござったな……」


 

 電撃解任劇は置いておいて、信長が俺達にギルドとは何ぞや、という話をしてくれる。

 というかこの眼鏡、朝っぱらからキッチリ起きて都市の散策やら本を買って読書やらして知識をつけているらしい。

 フッ。随分俺と差をつけたな。

 こういう日々の積み重ねで人間力に差がつくってよくわかるね。



「前から聞いていると思うけど、この都市は『冒険』『商売』『鍛冶』の3つを基幹に成り立っている。つまりは『冒険者ギルド』『商人ギルド』『工匠ギルド』の3種類があったというわけだね」

「つまり、その3つから勢力を選ぶのじゃ、ということでござるか?」

「いや、それが都市の歴史を紐解くとフォード氏のギルド『FM商会』が圧倒的すぎて、全てを飲み込んだ。もうほぼコンツェルン化したみたいだ」

「コンツェルンとかうける。そんなにこの世界発達してんの? つかそれで『ギルド』とか新手のギャグ?」

「夏人の疑問も最もだ。本来カルテルやコンツェルンといった形態の発達は産業革命が肝だった、だがこの世界特有の価値観と魔法という概念が乱在することで──」

「うぐっ拙者すでに話についていけない予感……」



 そうね。

 俺とパットン氏は理解を放棄した。喧々諤々の議論をするイケメン2人を無視して、モビルスーツの話に移行した。



「個人的にはトールギスのカッコよさがわからないんだわ。だってトサカじゃんトサカ。何か意味あんのアレ」

「シャアザク全否定でござるか? あのトサカが隊長機の証なんでござるよ~」

「シャアザクはカッコいいけどさあ……トールギスは個人的に武装のごっつさに対して頭が小さすぎてバランスが悪い気がすんだよ。それがトサカつけると逆に目立つっつーか」

「それ単に頭の小さいモビルスーツが苦手なだけではあ? まあ結局ストフリが最強にカッコいいんでござるけどね」

「ストフリはないわー」

「は? あるでしょ……?」

「そこの二人、話聞いてる? 要するにどこからか依頼を引っ張ってきて、『商人として商いに参加する』『工匠として何かを創る』『冒険者として成果を得る』この3つを僕らはこなさなきゃいけないってことだよ」

「なるほどお」

「わかったでござる」



 俺は捻くれ者なのでストフリよりも∀の方がいいとか言い張ってしまう悪い癖がある。

 あと、シドミードみたいな権威ある名前を出されちゃうと弱いんだよね。

 すまんそれで何だっけ。依頼?

 そういうのを持って来るのはギルドの仕事なのでは? 

 あ、ギルド作ったってことはそういうことも自分達でやらなきゃいけないのか。



「す、すごい……何か、とっても専門的な話をしてらっしゃるんですね……」



 おっとシエルちゃんじゃないか。

 どうやら扉をノックしてくれたのにも気づかないくらい話に熱中していたらしい。

 いや専門的というかただのゴミみたいな雑談というか……ゴホン、何か用ですか?



「あの……皆さまがギルドを作られたということで、早速依頼をお願いしようかと思いまして……」



 控えめにピョコピョコと犬耳を揺らしながらシェルちゃんが語る。

 夏人が速攻で首を縦に振った。 



「ああ、任せてくれ」

「いいんですか!?」

「オイオイ。俺達がシエルちゃんの依頼を断るわけないだろ」

「あ……ありがとうございます!」



 ギルド長が言うなら仕方ねえなあ。

 そういうわけでギルド『一箱』最初の依頼人が決まった。



「薬草取りかあ……」

「コテコテでござるなあ。コテコテ」

「いいじゃないか。これぞ冒険者って感じだ」



 俺はシエルちゃんが用意してくれた依頼書を見て溜息をついた。

 依頼は都市の迷宮の一つ『聖剣迷宮』の低層にあると言われる薬草の採取である。

 ちなみにこの都市には17個の迷宮があるらしく、『聖剣迷宮』は結構優しい方の迷宮らしい。

 これあれだよな。完全にシエルちゃんが俺らを気遣って依頼してくれたやつだよな。

 ちなみに成功した時の報酬は銀貨1枚、それに『冒険者貢献証』が1個だそうだ。

 『冒険者貢献証』と『商人貢献証』と『工匠貢献証』、3つ併せてギルドランクを上げていくのがこの都市の流儀らしい。

 随分と面倒なことである。



「しかし、せっかく迷宮に行くんだからもっと色々な依頼を受けておきたいね。早めの《都市魔法》習得のためにも効率を上げていきたい」

「そういや、《都市魔法》って何なんでござるか?」

「都市神による奇跡らしいよ。都市によって定められた条件を満たすことで誰でも習得できる魔法で、この都市で冒険と商売と鍛冶、全部で一定の貢献証を稼げばいいらしい」

「よっしゃあ! ギルド長命令だ! 最高効率で行くぜ!」



 夏人が提案した。

 つまるところ、俺達が《都市魔法》を取得する最短ルートはこうだ。

 『冒険者として素材収集』『素材を鍛冶屋として商品に加工』そして『商品を人に売る』。この一連の流れを作り上げる。

 そういうことで、俺達は早速拠点をレンタルすることにした。



「ありがとうございまあす!」

「おっしゃー! これで一国一城の主じゃー!」



 まず、満面の笑みを浮かべている商人に金貨を叩きつけ、一軒の建物をレンタルする。

 鍛冶場、そして物を売れる店舗が一体となった建築物はこの都市では標準的な造りの建物である。大通りに面しており、『聖剣迷宮』も近いかなりの好立地である。

 さらに言うなら2階建てで上には住居となるスペースもある。

 まあ、しばらくは『超大皿亭』に世話になるということで2階は倉庫として利用することにした。

 何故か興奮したパットン氏が幽霊屋敷を安く借りることを主張したが、そんな屋敷は気軽に転がっていなかったというどうでもいいエピソードもあったりするが、本当にどうでもいいので割愛する。

 ちなみに賃料は1月あたり金貨50枚だそうだ。かなりの額ではるが、【複製箱】がある今となっては支払いは楽勝である。

 ついでに金貨を叩きつけ、鍛冶に必要なものの手配も頼むと商人はウキウキで駆けだしていった。

 続いて大通りでいい感じの大きさの木材を速攻で買ってきて、信長の指示の元で看板を作った。

 俺もまあ、このくらいの日曜大工くらいはできる。



「ギルド『一箱』何でもご用命ください……と」

「つかお前いつの間に字覚えたんだよ」

「ああ。【賢者】のパッシブスキルで僕ら、字の読み書きはできるはずだが……今まで試してなかったのか?」

「全く」

「俺も」

「拙者もー」

「君らねえ……」



 あきれ気味の信長はとりあえず置いておこう。

 しかし、読み書きができるってどういう……おお、マジで何か変な文字が書ける。

 文章を頭の中で作ると、不思議とどういう形の文字を書けばいいのかわかる。すげー。

 俺達はしばらく適当に文字を描いて遊んでいたが、ハッとしたように夏人が手を掲げた。

 


「文字書きまくってる場合じゃねえ! 工房ゲットしたところで次だ次!」



 冒険者ギルドなんてものは基本的に人材派遣みたいなものではあるのだが、別に他の人材派遣サービスを受けられないということはない。

 俺達は、主にデスクワークができる人材を多く抱えるギルド『梟の目』を訪れた。

 ちなみにこういうどういった施設がどこにあるか、というのは信長君が予め目星をつけてくれていたらしい。流石デキル眼鏡である。

 気難しそうなギルド長と夏人、信長のコンビが交渉する。

 


「事務処理ができるやつ? ああ。いるよ。だがうちも人材不足でねえ……結構予算は勉強してもらわねえと……こんなに? よっしゃあ! ちょっと待ってろ!」

「お世話になります。しばらく経理など諸雑務を担当させていただきますジルグリッドと申します。気軽にジルとお呼びください」



 5分でシュッとした、いかにも仕事ができそうな黒髪の女性が仲間になった。

 


「ジルグリッドは能力がありすぎて、給金の相場が上がりすぎちまってなあ。お前らみたいなのを待ってたんだ」

「私に仕事を与えてくれることに感謝いたします。細やかな机仕事は私にお任せください」



 ジルさんが丁寧にお辞儀をしてくれた。

 優秀なのはそれはそれで大変らしい。

 しかしまあ、やっぱり世の中って金なんだなあ。交渉がさっきからサクサク終わるわ。



「よし、じゃあとりあえず『温泉迷宮』で採取した物の換金リストに不備がないかチェックしてもらおう」

「終わりました。金貨97枚。素晴らしい戦果です。しかし記入ミスが2か所、また素材の市場相場の変動による不備が3か所あります。こちらは私が申請しておきますので、受け取りは金貨107枚にはできるかと」

「仕事早っ!?」

「よっしゃあ! じゃあ次ぃ!」



 迷宮で必要そうな装備の買い出し、そして食料のある程度の備蓄の購入、全てを金の力で解決しながら俺達はある程度の資産を順調に揃えた。



「こんなもんかな。というか夏人、鍛冶なんて僕らできないぞどうすんだ」

「それはもう手を考えてある!」

「ちーす。ども。ガルドス・バトスじゃ」

「うっす。よろしく。バルドス・バトスじゃ」

「誰!?」



 『一箱』の工房に小柄なオッサンが二人入りこんできた。 

 これは……ドワーフってやつだな。もさもさの茶色い髭が眩しい。

 ジルさんが早速説明してくれる。



「バトス兄弟は素行、腕共に問題がないのですが、丁度所属ギルドのメインメンバーが他の都市に行くということでフリーになっていた人材です」

「鍛冶を教えて欲しいんだって? ワシらはレアな素材さえ触れればそれでいいけども」

「指導は厳しいぞ! あと珍しい鉱石を触らせなかったら承知しないぞ!」

「じゃあとりあえずこのスマホでも撫でてな!」

「うおおおおお! 何じゃこりゃああああ!」

「光った! 鳴った! どういうことなんじゃあああああ!」

「拙者のスマホ2号がー!?」



 昨日あたり複製したパットン氏のスマホに二人のドワーフが舐め尽くさんという勢いで飛びついた。

 こ、これで素行に問題がないのか。フォード氏といい、この都市の鍛冶師はこんな人達ばっかりなんだろうか。

 俺は若干引いた。  



「うし! とりあえずはこれで完璧だな! 今日はこんなところで解散ということで──」

「ええと、皆さん。とりあえず《都市魔法》の取得までの間ですがよろしくお願いします」


 

 そろそろ夜が深まってくる時間帯、俺達は自宅に帰る3人の新たな仲間を見送った。

 ジルさんとドワーフ2人は今後、通いで『一箱』に来てくれるという契約らしい。

 やはり夏人の行動力と即決力には目を見張るものがあるな。

 あっという間に『一箱』はそれなりの設備と人材を揃えた感がある。

 それよりもすごいのはこの『冒険鼎立都市』だろう。物事が金で迅速に解決できるというのは経済が発達している証拠に他ならない。

 『冒険鼎立都市』は合理の都市だ。俺は正直なところ、驚嘆していた。



「つ、疲れたでござる……『超大皿亭』のポタージュが飲みたい……」

「パットン氏は人付き合いすると疲れるタイプだもんね」

「よし、じゃあ近場の温泉入って帰るか」



 俺達は伸びをして、工房を後にした。

 また例の『温泉迷宮』とやらじゃないだろうな?



「流石にこれから迷宮探索なんてなったら僕は死ぬ自信がある」

「拙者も~」

「今日はちゃんとした温泉だって~、お前ら俺をあんまり疑うなよ~」



 そんじゃあまあ、夏人のホスタピリティ精神に期待するとしますか。

 頼りにしてるぜギルド長。

 


「おう、任せとけよ。なんでも体力が全回復するすげー温泉があるらしい。値段はたけーけどな」

「ま、金ならあるしいいんじゃね」

「本当、レンタローの【複製箱】のおかげで助かるよ」



 ハッハッハ。もっと褒めたまえ。

 新しい玩具や家電を買うとウキウキするのが男というものだ。

 俺達は新たな工房、新たな仲間や装備を買いそろえてかなり浮かれていた。

 ……何か忘れてる気がするんだが。

 


「そんなことねえって。温泉温泉。薬効がヤバいって噂の温泉が待ってるぜ」

「薬湯ってやつでござるか。いいでござるな~ちなみに露天風呂でござるか?」

「そうだね。やっぱりこの世界の星空はとても綺麗だ。露天で浪漫を感じたいものだね」



 ……いや待て。それだよ!



「珍しいな。君が浪漫とか星空とかそういうのに反応するのは」

「信長氏! いくらレンタロー氏の心が道頓堀川のように濁り切っているからといってそこまで言うことないでござるよ!」

 


 ちげーよ!

 つーか何で濁っているってイメージが道頓堀なんだよ!

 いや……道頓堀は濁ってるけども!



「薬草! 薬草採取は!?」

「…………」

「…………」

「…………」



 沈黙が場を支配した。

 思い出されるのは、シエルちゃんの優しい笑顔。

 例えば俺達が今からいかにも風呂上りですって感じでウキウキで帰って行って、依頼のことなんて忘れてましたなんて言ったらどう見えるだろうか。

 信長が声を絞りだす。



「か、買うのじゃだめか……その辺で……」



 信長ァ!

 じ、実は俺もそう言おうと……!



「ひ、人の心がないんでござるか……!?」



 パットン氏が引く。いやでも。

 今日俺達は金貨100枚単位の買い物をばばっとしてきたわけで。

 ぎ、銀貨1枚の依頼のために今から引き返して迷宮に行くのか……!?

 そっと夏人が信長と俺の肩を掴んだ。



「……行くぞ」

「……だめ?」

「だめだ」



 俺達は頷き合った。

 『冒険鼎立都市』は合理の都市だ。

 だからこそ、ほとんどの事柄が金で解決できる。

 金で解決できるからといって──何もかもを金で解決すればいいというわけではない。

 俺達は温泉に背を向け、『聖剣迷宮』へと向かうのだった──






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