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ワンボックス・トリッパーズ~異世界だろうと仲のいい男4人で気楽に生きていく~  作者: 千年積み木
1章:冒険都市フェリシダ~温泉と冒険と商売と~
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13話:いざ、温泉へ!





「つまりさあ! 俺は『冒険王』なんて呼ばれてるけど、本当は鍛冶屋になりたかったの! わかる?」

「わかりますよ。周囲の期待ってやつですよね」

「そうなんだよ~」



 再び『超大皿亭』1階にて。

 俺はフォード氏と酒を飲み交わしていた。横では夏人、パットン、信長がカラオケ大会を始めている。

 パットンが電波ソングアニソンを歌いまくる中、夏人と信長がひたすら合いの手を入れている地獄みたいな光景だ。

 な……なんでこうなった。

 オイオイと泣きながら、フォード氏が肩を組んでくる。

 そんな氏も、初めはビールに感激してたりしたのだが。いつの間にやら出来上がっていた。



「素材欲しさに迷宮に潜ったんだけど、何か周りの悩みとか解決してるうちに冒険者としての方が名前が売れまくっちゃって」

「そ、そうなんですか……鍛冶師のお仕事、今は?」

「できるわけないだろ! 一緒に組んだ男が滅茶苦茶商売上手かったせいで、いつの間にか都市長にまで押し上げられてたんだよ!」

「それはまた、悲劇的ですね……」

「だろ!? なのに、皆俺を冒険王冒険王って……工匠王になりたかったのに……俺は……」


 

 都市長の悲しき過去を慰める役を俺がなぜかやらされている。

 腰にハンマーをぶら下げているのは、せめてもの抵抗みたいなものなのだろうか。

 パットン氏のカラオケがついにメドレーへと突入した。

 これはまずい。朝までコースだ。



「元々フェリシダは由緒正しい『冒険都市』だったんだけどさあ。せっかくだから俺が鍛冶屋と商人の地位上げまくってたらどんどん優秀な人材がきてね、『鼎立都市』なんて呼ばれるようになって、滅茶苦茶栄えてフェリシダ神も調子に乗ってるフシがあるんだよ……」



 そ、そういうもんなんですか。

 都市が栄えると調子に乗れるもんなんですか。結構即物的ですね。

 しかし《都市神》ってのは結局、なんですか?



「ああ? 《都市神》は文字通り都市の神で、《都市魔法》を授ける存在だよ……あの神はヘッポコだけど、うちの《都市魔法》は習得しておいた方がいいぞ? ああ……この酒美味いなあ」



 《都市魔法》……ですか。

 聞きなれない言葉ですね。普通の魔法とは違うんでしょうか……。

 俺も缶ビールを煽る。



「そうなのか? 常識だと思ってたが……遠くの国から来たんだなあ。この都市の魔法取得条件は結構複雑でね。『冒険』と『鍛冶』と『商売』、全部の試練をこなさないといかんから……」



 えー、結構大変ですねえ。

 何かよくわからないが、俺はとにかく相槌を打っていた。そんなもんである。



「まあ、ギルド作っちゃえばいいんだよ。ギルド。俺が許可出せば一発だからさ」



 冒険はともかく、鍛冶と商売は俺達門外漢ですし、どうしたらいいのやら……。

 フォードさんが僕らを手伝ってくれたら助かっちゃたりして。



「はっはっは……それもいいなあ! まあ、俺、大抵の鍛冶場は出禁になってるからなあ。新しく作らなきゃだが」



 そんなことってある?

 俺も笑った。






 翌日。

 俺達は散々飲んだせいで死んでいた。

 


「とりあえず困ったら都市長室まで来てくれ……これ地図。あと、フェリシダ神には今度正式に謝罪させるから……」



 気持ち悪そうなフォード氏が、「今日も公務がある」と言って去って行った。

 ちなみに俺も滅茶苦茶気持ち悪い。

 パットンと信長は床に伏せてぴくりとも動かない。元気そうなのは飲むのが仕事だった夏人くらいなもので、今も鼻歌を歌いながら椅子の整頓なんかをしている。



「おーす、おはよう」

「おう……の、飲みすぎた……今何時?」



 スマホを取り出す。電池が切れていた。後で車で充電しよう。

 うーむ。きつい。ちょっと外に行って外の空気吸ってくるわ。



「あ、俺もちょっと車の凹み見てみるわ」



 そういや昨日そんなこと言ってたな。

 元気そうなアロハ野郎と店を出ると、温かな陽光が気持ちよかった。俺は欠伸をしながら伸びをする。バキバキと身体が音を立てた。運動不足だなあ。



「ああ? こりゃどういうことだ?」

「どうした?」

「んー、ちょっとこの辺見てくれよ」


 

 ヘッドライトの周り辺りを夏人が調査している。確かに。ゴブリンさん達を轢殺した後に馬車にぶつかったからな。

 あとついでに女騎士さんも轢いた。キルレートがめっちゃ高い車だよもう。

 しかし、何が変なんだ?



「いや、昨日は確かに凹んでたと思うんだけどな」

「気のせいだろ……あ、そういやガソリン問題とかもあったな。ちょっとエンジンつけてくれるか。どんくらい今ガソリン残ってるのか見たい」



 …………ガソリンは、満タンになっていた。

 


「怖い怖い怖い怖い!」

「……後で信長に鑑定してもらおう」


  

 もう細かいことはわかんねえからな。

 とにかく、別にガソリン減ってるわけじゃないならいいんじゃねえのかもう。

 俺は思考を放棄して、『超大皿亭』に戻った。

 とりあえず今日は二度寝するわ。二度寝。

 こういう時金があるっていいな。いくらでも寝て生活できるってことだもん。



「いやいやいやいや。今日はアレっしょ。温泉温泉」



 二日酔いの日に温泉はちょっとどうなのよ。

 まあ、それぞれ適当に行けばいいじゃん。

 俺は寝るぞ。自分の部屋にのそのそと登り、寝た。そしてしばらくして覚醒する。

 気が付けば昼になっていたっぽいが、気にするものか。また寝た。



 夕方──何故か男どもが、俺の部屋に溜まってきていた。

 なんなんだよてめーら。



「お~んせ~ん」


 

 うるせえなあ。一人で行きゃいいだろ。

 俺は今日は疲れたから寝たい気分なんだよ。



「とはいえね。昨日みたいなことがないとも限らないしね。しばらくは一緒に行動しておいた方がいい」

「じゃあ全員で今日は寝るってことで」

「レンタロ~お前な~。俺達がリスクを負ってまでこの都市に来たのは何のためだ? 温泉入るためだろーが」



 それって結果論でしょうが。

 そもそもはグルガニアだかブルガリアだかに行ってれば話はややこしくならかったんだっつーの。



「そういや、【魔王】とか【勇者】の話ってどうするんだい?」

「拙者ちょっとデスゲーム感あるからあまりお近づきになりたくないでござる」

「んー。なんか急に呼びつけておいて、勝手に人の命で遊んでる時点でな……面白くなさそうな気配がするぜ」



 確かになあ。それに今になると、逆に『グルガニア』に行くのはどうなのって感じだ。

 ちょっと気まずいってレベルじゃないというか。

 むしろ、【核】の複製なんて俺ができることがバレたらどういう扱いされるかわからん。

 俺の能力は基本的に秘密で、勇者だの魔王だのの話には極力関わらないようにしてくれると助かる。



「そうだな。じゃ。そういうことで温泉行くか」

「わかったわかった……アレ?」



 どういうことだか、俺はいつの間にか自然な流れで布団から引きずり出されていた。

 あれえ?

  


「あ! 皆さん、お出かけですか?」

「やあシエルちゃん。今日も可愛いね。アレ? 前髪切った?」

「わ、わかるんですか?」

「うん。昨日よりも可愛くなってるから、何でかなって思ったんだ」



 夏人が呼吸をするように『超大皿亭』の看板娘を口説いた。

 ちなみに前髪を切ったか切ってないかなんて当然ながら俺にはわからない。怖いな。これがホストか。

 


「う、うう……そんな、可愛いなんて……えっと、お出かけですか?」

「ああ。今日は温泉街の方まで行こうと思ってね」

「お……温泉……皆さんが裸に……あわわわわわ……そんなことが許されるのでしょうか……」



 この子はもうダメだ。

 俺は残念な気持ちになりながら、『超大皿亭』を後にした。

 しかしまあ、《都市神》様とやらが現れたのに、特に質問とかなかったな。

 俺達みたいな怪しさマックスなやつらを泊めてくれるだけあって器が広いのだろう。



「レンタロー氏が寝てる間に都市長の使いの者が来て、昨日の迷惑料と口止め料っぽいものを相当払ってたでござるよ」

「そっか。流石だなあ」


 

 改めて大通りを歩いていると、本当にこの都市の栄えっぷりが浮き彫りになる。

 何より、人々がみんな笑顔だ。

 大体は都市長であるフォードさんのおかげだろう。一介の鍛冶屋で収まるような器じゃなさすぎだわあの人。本人は残念がるだろうが。



「あと、君が寝ている間にこの都市での目標を決めたよ」

「えっ。それって俺抜きで進めちゃう系の話!?」

「いや、というか夏人が勝手に決めた。いつも通り」



 そっかー。じゃあ仕方ねえな。

 旅行の計画なんてもんはリア充が決めるに越したことはないからな。



「おー、まずは温泉巡り。この都市の温泉、有名どころは全部入るだろ。あと冒険者ギルドを作る。それに《都市魔法》とやらを覚える。この3つだな」



 なるほど。まあいいんじゃねえか。

 《都市魔法》とギルド作りの話は俺とフォードさんが話してるのを聞いてたのか。流石ホストだな。



「つーわけで、まずは温泉! 温泉!」



 それに加えて──俺は、チラリ、と都市の上にかかるアーチを見た。

 『翡翠の教会』とやらに、ステラちゃん達に会いに行こう。

 時間も金もあるから、いつでもいいけどな。

 俺は欠伸を一つした。とりあえず今日のところは風呂入ってゆっくりするか。

 冒険もいいけどさあ。のんびりだよのんびり。なあ夏人。とにかく今日は何も考えないで、酔いを晴らすのだ──



 と思っていたのが運の尽きだった。



「えー当館自慢の『温泉迷宮』にようこそおいでくださいませ。基本料金は銅貨5枚。採掘物等は持ち帰れますが、こちらでの即時換金をご希望の場合は2割を私たちがいただきます」

「うおー! 行くぜー!」


 

 夏人が雄たけびを上げる。

 聞いてねえよ。

 俺は短剣とツルハシを抱えさせられていた。

 背にはいかついナップザックである。



「いやごめんレンタロー。夏人がじゃんけん勝ってね……あと、僕もちょっと冒険してみたくて……」

「うおおお! いざ、拙者たちの迷宮ライフの始まりでござる!」



 俺が何かを言い返す前に、案内人らしき人が、ニコリと笑って付け足した。



「またこの都市の迷宮探索においては共通事項ですが、怪我、死亡などは全て自己責任でお願いいたします」



 聞いてねえよおおおお!!

 案内板には、こう書かれていた。



『超高難易度! 温泉迷宮! 死して屍拾うものなし!』──と。






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