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ワンボックス・トリッパーズ~異世界だろうと仲のいい男4人で気楽に生きていく~  作者: 千年積み木
1章:冒険都市フェリシダ~温泉と冒険と商売と~
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12話:都市を司る者達





「ど、どうぞ」


  

 シエルちゃんがロボットみたいにぎくしゃくとしながらテーブルに水の入った木製コップを2つ置いた。

 店は閑散としている。

 店主であるシエルちゃんの婆さんが人払いをしたからだ。




「今日の売り上げはアンタにつけとくからね」

「ああ。じゃあ、ちょっと込み入った話をするから婆さん達も席を外しておいてくれ」

「言われないでも、やることなんてないからね。ほら、これ店の鍵。ちゃんと戸締りもしといてくれよ。都市長だからって筋を通さなくていいわけじゃないからね」

「チッ。相変わらず客遣いの荒い……」

「なんか、ありがとうございます」

「あら~。いいのよもぉ~。なっちゃん達は何も悪くないんだからあ。このクソ都市長に何かされたらすぐに言うのよお?」



 腰をくねらせながら、婆さんはシエルちゃんを連れて店を後にした。

 テーブルには俺達4人組、そして都市長のフォードさんと《都市神フェリシダ》──フェリシダ様、計5人と1柱が座っている。

 どことなく沈黙が場を包み、パットン氏が空気の読まない発言をする。

 


「なっちゃんて」

「フッ……まあ、どんな歳の人とでも、すぐ仲良くなれるのが俺様の取り柄って感じ? 女性に限るけどな」

「ええと、この二人は気にしないでください。フォード様、それに……フェリシダ様、でよろしいでしょうか」



 気まずい空気の中、信長が手を上げて切り出した。

 フォード氏がパチン、と指を鳴らす。

 キザだなオイ。信長と気が合いそうだ。 



「俺はフォードさん、でいい。今日は押しかけて悪かったな。さて──俺としては外の『箱』のために来たんだが──」

「率直に言います」



 ちょこん、と席に腰かけた都市神様がフォードさんの言葉を遮った。

 先ほどのご乱心については完全にスルーする方針でいくらしい。俺達も取り立てて「さっきの情けないやり取りはなんだったんですか~」と弄る気もなかった。

 しかし、まあ……言われてみれば、確かにフェリシダ様は神っぽい服装をしている。薄い白絹が全身を覆い、金細工のされたアクセサリーが所々に散っている。

 大衆酒場みたいな場所みたいな場所に腰かけているとアンバランスさが半端ない。



「なぜ、『巨竜防衛都市グルガニア』に行かないのですか? 神託があったはずです。『グルガニアに行け』と──」



 場を再び静寂が包む。

 さて……どうしたものか。

 温泉入りたいからガン無視してこっち来ました。と言うとなんだか人格を疑われそうだぞ。つーか疑うわ。

 だって俺も疑ってるもん未だに。

 俺と同じことを考えたのか、速攻で信長が問う。



「……まずは、事情を話してくれませんか? ええと、どこまでご存知なのですか? 日本のことも御存じなのですか?」

「ニホン……? 貴方達が何者なのか。どこから来たのか。それは私の管轄ではありません。しかし、確かに貴方達は【勇者】なのでしょう? 違いますか?」



 あ、俺達が日本から来たってことは知らないってことか。

 となると、勇者ってのは必ずしも異世界から召喚するってわけじゃない……ということになるのだろうか。

 俺は慎重に言葉を紡いだ。

  


「ええと、いきなり知らない『神』とやらに魔王を倒せって言われて、事情がよくわかってないんです」

「だからといって、普通神の言葉に従いませんか? ……いえ、そうですね。そういうこともある。そもそも『グルガニア』で全てが説明されるのですから。フォード」

「ああ、アレね」



 フォードさんが紙をテーブルの上に広げる。

 何やら、地図のようなものだ。これは──大陸、か?



「少しだけ、ここでお知らせしましょう。都市長クラスまでが知ることのできる情報です。──【七核大戦】の時が来たのです。すなわちは7人の人間からなる【勇者】。7人の魔族からなる【魔王】。これらが争い、この大陸の支配権を定める儀式戦争」

「それってFateのパクリ────」


 

 ガツン、とパットンの頭を信長が叩いて黙らせた。サンキューな。俺も同じことしたわ多分。

 ええと、つまりどういうことですか?



「全ては語りません。もう一つだけ、知っておきなさい……そこの金髪の。貴方が【勇者】ですね」

「まあ、そうでござる」

「…………これは、悲劇なのですよ。月の色が変わる清算日。【勇者核】を持たない勇者は消える。【魔王核】を持たない魔王もまた、消える」



 都市神は、ニヤリと笑った。

 そして、手を目の前に出す。



「私たちは、人類の勝利を願っています。しかし──故に。私たちの作ってきた最低限のルールに、貴方達は従ってもらう必要がある。そうしなければ、人は勝てない」

「げえーっ!? せ、拙者の胸が!?」



 パットンの胸部が発光した。あいつ異世界来てからいっつも光ってんな。

 そして、いつの間にかフェリシダ様の手にはビー玉のようなものが収められている。

 あれは──【勇者核】だ。そんなことができるのかよ。



「使命を果たすのです。まずは、『巨竜防衛都市フェリシダ』にて7人の勇者とその仲間達が揃わなければならない。そうしなければ始まらない」

「……!」



 【魔王剣】を取り出そうとする夏人の足を俺は踏んで、止めた。

 直感的な予想があったからだ。彼女には、きっと戦っても勝てない。

 ぐっ、とフェリシダが手を握る。そして指を開くと、手の中から【勇者核】は消えていた。



「今、【勇者核】を『グルガニア』の教会に転送しました。次の清算日までに【勇者核】を手に入れなければ──残念ながら、貴方は消えることになる。そして、残念なことに【核】は別の人間に渡り、別の人間が【勇者】として選ばれるでしょう。それがルール」


 

 なるほどな。

 どうあっても、俺達はあんたらの言うことに従わなきゃいけないらしい。

 だが──【勇者核】ってのは他の勇者のものでもいいのか?



「……フ、そこに気が付くとは。もちろん、大丈夫ですよ。歴史上では【魔王】に【核】を奪われた勇者が、別の勇者の【核】を奪うことも多くありました……」

「……おいおい、ちょっと待てよ。勇者様たちにそんなことするなんて俺は聞いてないぞ?」

「えっ?」



 意外にも、怒気を孕んだ声を出したのはフォードさんだった。

 額には青筋が浮かんでいる。

 バキィ、と音がした。見れば、手に握られた木製のコップが粉々に砕け散っている。



「うちの都市にせっかく来てくれた客人に、何て態度をとるんだてめー」

「えっ……いえ、でもだって……私の役目というか……」

「ああ? この都市が発展したのは誰のおかげだ? アンタか?」

「ひぇ……と、とにかく! ちょっと怖いこと言っちゃいましたけど、次の月の色が変わるまでに『巨竜防衛都市グルガニア』に行けば、全ては解決するのです! 私たちの言う通りにするのが、人間にとって一番良いのです! ……では!」

「てめえ待ちやがれ! オイ! 次の月変わりって……わかってるのか!? さっきの球を返せ!」



 だが、次の瞬間眩しい光が辺りを包んだかと思うと──都市神フェリシダは消えた。



「えっつまり、せ、拙者どうなっちゃうでござるか!? てか、もしかしてこれ、拙者が主人公なアレなのでは!?」

「……【七核大戦】か。何か、大変なことに巻き込まれちゃったね」



 全くだ。要するにデスゲームだろこれ。

 要は7つの【勇者核】と【魔王核】の取り合い──それに俺らは巻き込まれたってことだ。しかも、同士討ちアリの。

 【核】を取られてすぐに消えないってのが嫌らしいな。それはつまり味方であるはずの【勇者】から【核】を奪い、生き残るという選択肢を残しているということだ。

 性格悪いなオイ。

 フォードさんが頭を下げる。



「すまん。まさかフェリシダ神が君たちに危害を加えるとは思わず……【勇者】がそんな仕組みだったとは……チッ。あの感じだと教会に引きこもってしまったな。俺のせいだ。手が出せん。そして大きな問題がある。あのウッカリ女神め。どうすればいい……」

「……何ですか?」



 フォードさんはとても気まずそうだ。

 何となく、予想がつくぞ。

 


「次の月の色が変わる日と言ったな。それは今日だ。しかも時間がない。あと15分ほどで……確実に、『グルガニア』には辿りつけない」



 ああ……じゃあ、もう四の五の言ってる場合じゃねえな。

 選択肢は一つしかない。その前に、聞いておかなければいけないことがある。



「夏人、お前どこまで知ってた?」


 

 俺は問う。

 夏人は、朗らかに笑った。



「いや、完全に勘だったわ」



 本当かよ。しかしこのシステム。そして夏人の【大魔王】という職業。

 わからんことはまだ多いな。

 一番怖いのは、俺だ。俺はこの神達が敢行しようとしているらしいデスゲームを、根幹から破壊しかねない力を持っている。



「まあ、とりあえず、はい」



 信長がパットンに【勇者核】を差し出した。

 俺の【複製箱】によって複製されていた例のアレだ。



「えぇ……これパチモンでしょ? 拙者大丈夫? 確実になんかエラー吐くパターンじゃない?」

「消えるよりマシだろ」

「それな~はぁ~もし拙者が消えたら、その時はHDDの中身を……」

「まあ、【大魔王】の俺様的にその玉、元の玉と同じ気配するから大丈夫だろ」



 氏がおずおずと【勇者核】を受け取る。

 以前と同じだ。パットン氏の手に、【勇者核】は溶けるように消えていった。

 


「……よくわからないな、君たち、一体何者だ? それが【核】とやらなのか?」



 それはわかりませんね。

 正直、これが正しい行動なのかわからない。

 でも、こうする以外にない。だったら、俺達はやるべきことをやって、あとは笑って過ごします。



「……変わっているな。君たちの国だと、それが普通なのか?」

「僕から言わせてもらえば、3人とも、享楽的な方ですね。かなり」



 あっ信長君が俺達を売った。

 俺達はブーイングをした。お前も4バカの一味だろうがー!

 


「フッ……まあね」



 その後、俺達はフォードさんと共に酒を酌み交わしながら、外に出ていた。

 せっかくなんで、月の色が変わる瞬間を拝見しようということだ。

 この世界において、月の色が変わるというのは加護を与えている神の存在が変わる瞬間ということらしい。

 都市神ってのはまた違うんですか?

 


「ああ。都市神の権能は基本的に都市にしか及ばん。しかし、そんなことも知らないとはどこから来たんだ? 今空にあるの赤い月は赤き神の。そして次は青き神の担当だ。君たちに青き神の加護がありますよう」

「月の色が変わるってのは、つまり大気の層がだねえ……」

「そういうんじゃないんでござるよ。全く信長殿は! 風情がないなあ」


 

 パットンは底抜けに明るかった。

 でも、もしかしたらという不安を誰しもが抱く。



「見ろ! 『変わる』ぜ!」



 誰もが、その光景を見ていた。

 都市の人々も、一様に空を見上げる。

 オークのような人も、猫耳の人も、冒険者も、商人も、きっとステラちゃんやドリアーヌさんも見ているのだろう。

 月に波紋が立つ。

 鮮やかな赤から、青に少しずつ浸食されていく。

 月光が色を変えていく。世界全体に落ちる光のベールの色が変わっていく。

 この世のものとは思えぬほど美しい光景だった。

 やがて、完全に月の色は赤から青へと変わった。



「ああ、これで清算日は終わりだ。よかったな。これで俺も後でフェリシダ神に全力で喧嘩を売らずに済む」

「拙者、生きてる~」



 よかったよかった。

 まあ何とかなる気はしてたんだよね。

 いえーい、と俺達はハイタッチして。

 


「じゃあ、パットン氏の生還を祝って!」



 乾杯をする。

 《冒険鼎立都市フェリシダ》の初夜はこうして更けていった──








 ────【女神の石板】が更新されます。


 ────深刻なエラーが発生しています。


 ────新たな【勇者】が誕生しました。


 ────『始まりの町』に7人の【勇者】が揃いました。これよりチュートリアルが開始されます。


 ────戦況を更新します。現在の戦況は【人類側の有利】です。


 ────人類の勝利を願って。


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