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第9話 背伸び

精一杯背伸びをした


「うーん、まだ無理かぁ……」


精一杯背伸びをされた。

出会ってから、何度目かもわからない。

彼女は、同年代平均のそれと比較して随分と小さいことを気にしているようだ。

比較対象は、平均のそれより少しだけ大きい私。

理由は単純だ、彼女と私が古馴染みだから。

幼馴染、と言うほどでもない、かな。

ただ、そのどうしようもないセンチ単位の差を一生懸命縮めようとする彼女は、いつもより少しだけ可愛い。



ちっちゃくないよ!

所詮数字なんてアテにならないんだ。

誰が身長なんて考えたんだろうか。

数字で比較するなんてなんてアホらしい行いなんだ!

と色々なものに八つ当たりした所で、彼女との視点の差は縮まることは無く。

行き場の無い悔しさだけがたまっていく。

身長が高い人が見る世界は、どんなものだろう。

お子ちゃまみたいな妄想は、今もまだ抜けきらない。

でも、もしそんな景色が見られる日が来たら。

その時は、彼女と一緒に見たいのだ。



後期の授業もひとまず終わり、年の瀬となる今日、二人で初詣に来た。

日付が変わるまで、まだ数時間あるというのに、近所の大きな神社は既に多くの人でごった返していた。

周囲より頭一つ低い私は、人混みで彼女とはぐれないように、手をつないで歩いていた。子供と保護者かよ。



はぐれるといけないと思って手をつないだのはいいけれど、周囲より頭一つ低い連れはあからさまに不機嫌だ。

その不機嫌が好転することなく、やがて日付も変わり、お参りを済ませた。


「初日の出が見たい」

暗闇に沈んだフェンス越しの街並みを指さして、彼女は言った。


「ほら、もうすぐ見えるよ」

彼女から反応は無かった。

そして、ここでも背伸びをしている。

そんな彼女が、ふと可愛く思えて。

ある思い付きを原動力に、そっと手を伸ばした。



微妙に金網に邪魔された視界が、暖かい力とともに一気に変わっていく。

自分が抱きかかえられたと気付いたころには、目の前には遮るものの無い街並みが広がっていた。

「もうすぐ見えるよ」

いつもより少しだけ高い視点で、開けた世界に、一筋の光が差した。

ほら、朝が来たよ

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