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第7話 この二人なら

優しい彼女は夢を見る

まだ、みんながいた頃の夢。

学校に行って、買い物に行って、遊びに行って。

きっと誰もが終わらないと信じ込んでいた日常。

―たぶんそんな夢。

寝顔を見ていると、なんだか幸せそうだから。

いつまでも見ていられる。

「ん……」

体内時計が動き出したのか、彼女の眉間にしわが寄る。

寝顔を見ていたのを悟られない様に、わたしはわざとらしく朝の身支度を始めた。


「んぁ……、おはよぉ」

「おはよ」


いつものことだが、酷く静かな朝だ。

私たちの日常には、私たち二人しかいない。



世の中がこんなことになってから、どれくらい経っただろうか。

周りにはわたしたち以外の人は殆どいないし、出会うのは動物ばかり。

今日も見知らぬ天井を見て目が覚める。

「今回は久々にいい寝床だったね、ぐっすり寝れちゃった」

「そうみたいねだね、周り凄く明るい」

とわたしが言うと、うそっ、と彼女は窓に飛びついた。

「……あー、もう昼前って感じかなぁ」

別に早起きする必要も、決まった時間に起きる必要もないけれども、意地みたいなものがあるらしい。

「そう思うんだったら、さっさと支度する」

「ほーい」



支度といっても簡素なものだ。

寝間着を着ているわけではないので、着替える手間も無い。

枕元に散らばっている飲料水やら私物やらをバックにまとめるだけである。

昨晩は、ちょうど鍵が開いている民家を見つけたので、久々に布団で寝ることができたのだ。

別に窓を破れば鍵がかかっていても問題ないのだが、それはなんだか抵抗感があるので、あまりやらない事にしている。

「じゃあ行こうか」

「うん」

荷物を抱えて一晩を過ごした民家を出る。

旅の友である軽自動車の後部座席にそれを放り込んで、私たちは前へ。

高校3年で免許を取り損ねた私は、いつも助手席だ。

別に免許なんてどうでもいいんだろうけど、普通に運転が怖かった。

「今日はどっちに行く?」

シートべルトを締めながら彼女が尋ねる。

「んー、あっちのほうかなぁ」

なんとなく、海がありそうな方角を指す。

もちろん、根拠など無い。

「おっけぇ」

でも、そんなものでいいのだ。



ゆっくりと車を走らせながら、ふとあの日の事を思い出した。

土砂降りの中、雨音にかき消されそうな、彼女のか細い声。

あの日、二人でこれ以上無い絶望を感じながらも、私たちはまだここにいる、生きている、と、互いの存在を確かめ合った。


この二人でなら

きっとどこまでだって行ける

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